日本行動分析学会第26回大会に参加して

人間科学専攻 10期生 村井 佳比子

 平成20年8月9日(土)、10日(日)の2日間、横浜国立大学キャンパスにおいて日本行動分析学会大会が開催されました。連日の猛暑にも負けず多くの参加者が集まり、活発に議論を交わす様子はとても刺激的で、初めてこの学会に参加する私にとって大変有意義なものとなりました。その内容の一部をご紹介いたします。

 
眞邉先生(左から2人目)とゼミ修了生)


 大会では特別講演・シンポジウム・教育セッション・ポスター発表などが企画され、基礎から応用に至るまで幅広いテーマの研究が報告されていました。日本大学からは河嶋孝先生、眞邉一近先生、ゼミ生、修了生らが多数参加し、他校の先生方や学生さんたちとの活発な交流が行われていました。

 1日目の招待講演では岡ノ谷一夫先生(理化学研究所)による「言語の起源と進化―行動生物学からの挑戦―」と題した講演が行われ、人間の言語の発生と進化について岡ノ谷先生独自のお考えをお話しいただきました。それは、これまでの言語の起源に関する「断続説(人間の発生と同時に言語が発生)」と「漸進説(徐々に進化)」とは違う「前適応説」に基づくもので、人間の言語は単線的に進化してきたのではなく、複数の要素が別々に進化し、ある時それらが組み合わさって「言語」となったというものです。先生の軽快で説得力のある語り口や動物の声の見事な模倣に引き込まれ、2時間があっという間に過ぎました。

 1日目の午後6時からは懇親会が行われ、眞邉先生のご配慮で1年生の私たちにも他校の先生方とお話をする機会を与えてもらい、ドギマギしながら自己紹介したり、質問させていただいたりしました。
 また、毎年恒例の抽選会で眞邉ゼミ2年の松田さんが見事当選!会費の還付を受けました。

松田さん、ご当選おめでとうございます!

右が松田さん、左は望月昭先生(立命館大学)

 
看護師さんたちが集まって情報交換

左は中の良顕先生(NPO法人教育臨床研究機構)
右は藤健一先生(学会理事長・立命館大学)

中央は望月昭先生(立命館大学)


 2日目には眞邉先生・河嶋先生・高久先生・島田さんによるポスター発表がありました。表題は「トビ(Milvus migrans)における風車の回転速度弁別」で、これは風力発電の風車への野生生物の衝突事故を防ぐことを目的として、環境省自然環境局からの委託で行われている研究のひとつです。トビなどの猛禽類がなぜ風車にぶつかるのか?回転が速すぎて見えないのか?ひきつけられているのか?様々な可能性を検討し、どうすれば風車に衝突せずに済むかを見出すために、今回の研究では、まずトビの視覚測定が可能か否かを知るための風車の回転の弁別実験が行われました。その結果、高速回転(600RPM)と低速回転(125PM)の弁別が可能であることがわかり、今後は弁別閾の測定などが行われる予定です。展示は実験の経過が写真によって丁寧に解説されており、眞邉先生の「トビは危険になると死んだふりをするんだよ〜」といったユーモアたっぷりのお話に、集まった方々が興味深く耳を傾けておられました。

ポスター発表では他にも、特別支援教育に関する学校全体を対象とした介入や自閉症児への個別介入の方法、コーチングによる合気道の技の習得に関する研究や訓練順序に関する基礎研究などなど、幅広いテーマに関しての報告が行われていました。会場は移動が大変なほど賑わい、どのポスターの前で立ち止まっても活発な質疑応答に参加できて、大阪人の私は、まるで商店街でワクワクしながら買い物をしているような気分になっていました(下世話な表現で済みません)。


発表中の眞邉先生、たくさんの人が熱心に耳を傾けておられます

 
河嶋先生(右)と日大院生たち
今日の河嶋先生はカメラの腕をふるっておられました

眞邉先生とトビチームのみなさん


 2日目はポスター発表の後、自主企画シンポジウムがあり、また、午後からは望月昭先生の「特別支援教育と行動分析学」特別講演が行われました。
 ところで、自主シンポジウムの1つに「刺激等価性から等価関係へ」というテーマの企画がありました。これは近年特に注目されているRelational frame theoryに関連するもので、古典的な「刺激等価性」の研究を発展させ、等価関係の成立をより広く、より柔軟に検討していこうとする最近の動向を、基礎と応用の両面からディスカッションしようとする意欲的な試みでした。行動分析学は人間の思考や情動に関連する研究がやや弱いといわれることが多いそうですが、このRelational frame theoryによって言語行動を自由に機能分析できるようになり、現在、この理論を応用した行動分析学にもとづく認知行動療法「アクセプタンス・コミットメント・セラピー(ACT)」が開発されて話題を呼んでいます。余談ですが、不思議なことにこのACTは東洋的な瞑想や禅と共通する部分をたくさんもっており、日本人と行動分析学はとても相性がいいのかもしれないと思ったりしています。
 学会全体として、基礎研究と実践的研究をよりよく結びつけていこうとする気概が感じられ、私自身も基礎をしっかり学びながら、それをいかに実践で生かすかを自ら考えることができるようになりたいという想いを強くしました。
 ありがとうございました。

● 来年度の第27回大会は筑波大学で開催されます。
次年度大会HP : http://www.human.tsukuba.ac.jp/~j-aba2009/
行動分析学会HP : http://www.j-aba.jp/




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