デトロイトからの便り(7)―アメリカ自動車事情「フリート販売とレンタカー車」―

                       国際情報専攻 6期生・修了 森田 喜芳


1.フリート販売(レンタカー業界への大量一括販売)
 アメリカの自動車販売には「フリート販売」という方法がある。「フリート販売」とは、レンタカー会社に、買い戻し権付で自動車を販売することである。1件につき、10台以上販売し、レンタカー業者と、政府・企業向け販売の2つに大きく分けられる。つまり、「何年後にいくらで買い戻します。」という条件付き販売の事である。USメーカーはレンタカー業者に大幅に値引きをして販売し、6〜9カ月後に、その値段以下で買い戻していた。フリート販売は利幅が極端に少ないのが特徴である。このような利益にならない商売をやめれば、車の再販価格は上がり、客が新車を買い求めるときの下取り価格が引き上げることができる。しかしながら、販売台数が稼げるので大手自動車会社がしのぎを削る北米市場ではよく利用されている手法である。
 自動車メーカーは、工場の稼働率が低くなると簡単に台数を稼げる(しかし利幅は薄い)フリート販売でなんとか凌ごうとする。その瞬間は、売り上げが増すが、買い戻し条件が付いているので、6〜9カ月後〜数年後に(相場よりかない高い値段で)車を買い戻す必要があるため、結果的に経営悪化の原因になりやすい点である。

 1700万台弱の水準が続いていた米国の自動車市場(中・大型トラック除く)は、2006年に、1650万台と、1999年以降で最低水準に後退した。2007年は、経営再建に向けたGM、フォード、クライスラーのフリート販売抑制やインセンティブ縮小に加え、住宅価格下落による経済先行きへの不安などが影響して、1608万台とさらに縮小した。2008年は、1600万台割れが濃厚と予想されている現状でも、米国が単一国として世界最大の自動車市場であることに変わりなく、人口増加やコンスタントな海外需要の発生による底堅い事情があり、景気動向によっては2009年以降、1600万台超え回復する可能性は十分にある。しかし、ガソリンの急速な高騰により小型車へ需要がシフトしつつある現状では、USビッグスリーの米国販売業績が大幅に下落している。
 2007年、米国小型自動車市場のシェアを見てみると、GM北米ブランド23.8%、フォード北米ブランド15.5%、クライスラー12.9%、トヨタ16.3%、ホンダ9.6%、ニッサン6.6%、その他にもメーカー4.5%、韓国メーカー4.8%、ドイツメーカー5.9%、である。(日本メーカーのトータルシェアは、37.1%である。)2008年度の傾向は、USビッグスリーのシェアがさらに低下し、トヨタをはじめとする日本メーカーのシェアは、更に大幅に伸びるであろうと考えられる。

 2007年度には、外資系のフリート販売が増加し再販価格に影響が出ると言われた。GMとフォードが、フリート販売を自粛している環境で、外資系メーカーのトヨタ、ニッサン、マツダ、起亜自動車は同市場での販売を大きく伸ばしている。
 オートモーティブニュース(2007年7月26日)によると、これらのメーカーの米国販売に占めるフリートの割合は、1〜5月期、11%に達した。前年同期は8%に満たなかった。ただビッグスリーと比較するとまだまだ小さい。ビッグスリーでは、フリート販売が31%を占め、前年同期より1ポイント減った。
 起亜自動車では同期、米国販売の4分の1をフリート販売が占め、五分の1以下だった前年同期を大きく上回った。イアン、ビービス副社長によると、車を必要とするレンタカー業者からの注文が増えており、大幅な値引きはしていないという。今年のフリート率は17%と見ている。
 他の外資系ブランドでも、異例の数のフリート注文を受けている。マツダでは、フリーと販売が前年同期の18%から24%に上がった。トヨタ部門でも、11%に達し、前年同期の7%を上回った。ただし広報担当者は、「フリート販売が販売目標達成の手段になることは、過去にも将来にも絶対ない」と言い切っている。
 ニッサン部門のフリート販売率は15%で、前年同期の9%を上回った。06年秋の新型「アルティマ」販売がきっかけで、07年当初の受注が急増したという。
 ホンダは、唯一フリート直販を控えているが、企業顧客を抱える販売店はある。
 日系メーカーはいずれも、フリート販売に依存しないと説明している。しかしフォードの販売アナリスト、ジョージ・バイパス氏は、日系ブランドがレンタカー販売を増やしているのは、米経済弱化に対応した処置と見ている。

2.レンタカーと中古車販売
 ここで私の北米での経験から、レンタカーと中古車販売価格の関係について以下に述べてみる。
 私は昨年まで、北米でDetroitを中心に自動車部品supplierを数多く訪問した。また、Detroitから飛行機に乗って主要空港まで行き、レンタカーを借りてsupplierさんを訪問もした。レンタカー会社はナショナル社を数多く利用した。その理由は、従来までナショナル社はGM系のレンタカー会社であったため、現在もGM関連会社には特別な割引料金が適用されているためである。
 従ってレンタカーの大半はGMの車を運転した。レンタカーはすべて新車同様であった。例えば、私の乗ったレンタカーは、総経距離がすべて1万マイル以下の車で、そのうち何回かは、トリップメーターが50マイル以下の車であった。その車は、自動車会社の工場出荷からレンタカー会社に運搬されて、私が初めて乗る車であった。これらの経験から考えと、レンタカー会社は1万マイル以下の車を自動車会社に返却し、自動車会社は、これらの車を中古車市場に出していると想定される。中古車市場では、これらの多くのレンタカーから回ってきたフリート車をかなり安い値段で、売りさばいているようである。一般のユーザーが乗った車が中古車市場に回った場合は、一般的な価格レベルで取引されているが、レンタカー会社から回ってきた車は、一般的な中古車価格レベルでは取引されていないのが現状である。またレンタカーは固定した個人が車を運転していなくて、不特定多数の人たちが、どのように運転したか分からない状態の車であるため、中古車市場でも敬遠されているのであろうと私は想定している。従って、自動車メーカーの車がフリート車およびレンタカーに多く出回っているということは、それなりに中古車価格が下がっているのと考えられる。
 先述したように、USメーカーおよび、日本、韓国メーカーの車では、唯一ホンダの車が、中古車価格で高い値段で取引されている。つまり、ホンダの車は、レンタカーから出てくる中古車は極端に少なく、一般のユーザーが乗った車が中古車市場に出回ってくるため高い値段で取引され、中古車市場でもかなりの人気がある。そのために買い替えのリピート客はブランドイメージが守られているホンダ車を買うのは当然のことだろうと判断する。ちなみに私の経験では、ヨーロッパの高級車もほとんどレンタカーとして乗った記憶がない。やはり、フリートに出回っていないメーカーの車に人気が出ているのであろうと考えられる。以上が私の北米でのレンタカーの感想である。
 ここで皆様に少々、アドバイスをしておく。今後、皆様が北米で生活する機会がある場合の車選びで、中古車の場合は其の車の前歴を調べてから購入して下さい。その車の前の持ち主の中にレンタカー社が登録されていないか?という点を確認し、出来れば対象車は購入しないほうが賢明な選択である。

3.フリート車とレンタカー
 以上のように、北米の自動車のビジネスではフリート車とレンタカーの関係は切っても切れない関係になっている。しかしながら、昨今の原因の高騰、温暖化、アメリカ経済の低下などから北米の自動車販売は、今年になって急激に変化している。トラックや大型排気量のSUVなどは軒並み売れ行きが鈍化し、小型車中心の販売となってきている。この現象はUSメーカーの得意とする分野の自動車は売れなくなり、日本メーカーが得意とする分野の車が売り上げを伸ばしているということである。特に昨今のUSメーカーの工場のシャットダウンやホワイトカラーを含む従業員の大幅削減が、毎日の様に新聞を賑わせているのが現状である。
 昨年から今年にかけて、USメーカーのフリート車への販売比率が少なくなってきたが、今後はさらにフリート車に頼らざるを得ない状況になってくるのであろうと想定する。従って、これからは益々北米市場でのUSメーカーの弱体化は避けられない状況である。長年自動車業界に携さわって来た者として、是非ともここでUSメーカーにがんばってもらい、今後も引き続き北米の自動車市場を牽引して盛り上げて行くことを切に期待してやまない。


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