中国医術とパーキンソン病(その2)

人間科学専攻 8期生・修了 池田 啓二


T、パーキンソン病が起こるしくみ
 このパーキンソン病は、筋肉に異常はないが、日常の生活をする動作が困難になり、最終的にはほとんど動くことができなくなるのである。人間の脳内には、いろいろな働きを持つ神経細胞がからみ合って、それらが五感、すなわち目、耳、鼻、舌、皮膚の五つの感覚器官を介して得られた情報をとらえて、すでに記憶されている情報と照らし合わせた上で、神経伝達物質を介して筋肉に指令を伝え、人間自らは目的に応じた動作をすることができるのである。
 大脳の中央部に「線状体」という、体を動かすときに、どの筋肉をどのように動かしたらよいかという命令を下す発信基地がある。つまり、私たちが無意識のうちに日常的に行っている何気ない動作は、線状体からの指令によりなされているわけである。
 人の体が思ったように動くためには、動かそうとする力と止めようとする力の微妙なバランスが必要である。
 パーキンソン病は、この線条体のドーパミンaが減少することによりアセチルコリンbが増加して、体を動かそうとする力と止めようとする力のバランスが崩れたときに起こるのである。すなわち、ドーパミンが減ると体を動かそうとする力が弱くなり、その一方ではアセチルコリンが増加して体を止めようとする力が強くなるために、パーキンソン病の患者さんは自分から動こうとすることが極端に減り、ひどい場合はほとんど動けなくなるのである。
 また、振戦cは、線状体の中の細かい運動の制御に関係している部分が障害された場合に起こると考えるのである。
 たとえば、ドーパミンは器械を動かす油のようなものでパーキンソン病は、ドーパミンという油が切れてしまったために、体が動かなくなった状態であると考えると良いのである。

U、病気と養生法
 貝原の『養生訓』(卷第一総論上)の中で、人間の尊厳性が次のように述べている。「人の体は父母を本とし、天地を初めとしてなったものであって、天地・父母の恵みを受けて生まれ育った身体であるから、それは私自身のもののようであるが、しかし私のみによって存在するものではない。つまり天地の賜物であり、父母の残して下さった身体であるから慎んで大切にして天寿を保つように心がけなければならない。これが天地・父母に仕える孝の本である。体を失っては仕えようもないのである。自分の身体に備わっているものは、それがわずかな皮膚や毛髪でさえも父母から受けたものであるから、理由もなく傷つけるのは不幸である。・・・・・・」
 これは、病気になると命を粗末にすることは、両親に対しても、天地に対しても孝を尽くせないことになるのである。
 ましてパーキンソン病は、ストレスから来ているのであり、親子の葛藤からか、夫婦の間からか、いずれにせよ、ストレスは病気を作るもとになるのである。
 このストレスは自律神経が影響して中脳の黒質以外の縫線核、青斑核dに変性eが起こると出現してくるので、自律神経のバランスを取るためには鍼灸治療が最適であると考えるのである。

V、パーキンソンは難病なのか
 パーキンソン病は、自律神経の乱れから起こる脳の血流障害が原因の病気であり、自律神経のバランスを整えて脳の血流障害を改善させれば、進行を食い止めることができるのである。
 脳の血流が抑制されて血液が少なくなると、脳の神経細胞は酸素不足、栄養不足に陥り、活力を失ってくるのである。すると神経間の伝達物質の分泌力が衰え、やがて細胞自身も死んでいくのであり、これがパーキンソン病の原因である。死んでしまった神経細胞は、何をしても生き返らせることはできないが、酸素や栄養不足により活力を失っている状態の細胞なら、そこに血液をどしどし流して酸素と栄養をあたえれば、復活させることはできるのである。
 それにより細胞の死滅にも歯止めがかかり、パーキンソン病にともなう症状が改善されて進行も止まるのである。
 また、パーキンソン病も老化が進むと発症する頻度が高まり、脳の動脈硬化の関与もあり、自律神経の乱れにもあるのである。この自律神経の働きを乱す元は、ストレスであり、パーキンソン病は難病だから治らない、家族に迷惑がかかるのが心苦しい、動けなくなるなら死んだほうがましだと思い込みが、いっそう脳の血流は悪くなり、良くなるはずの病気もかえって悪くなってしまうのである。

W、自律神経とは何か
 私たちの体は、60兆個の細胞が連なりあってできており、それらの細胞は、それぞれ勝手に働いているわけではないのである。60兆個の細胞すべてがひとつの目的に向かって一致団結して働いているから、私たち人間は生命活動を営むことができるのである。その際、無意識のうちに細胞を同調させる役割を果たしているのが自律神経である。自律神経は心臓や胃腸、血管、汗腺などの内臓諸器官の働きを調整しており、脳の指令を受けずに独立して働くことから自律神経と呼ばれているのである。自律神経には背骨の両横から均等に出ている交感神経と首と仙骨から出ている副交感神経の2種類があり、副交感神経のうち、頸から出ている神経は、心臓や胃などの上半身の内臓を支配し、仙骨から出ている神経は、骨盤内の臓器を支配しているのである。
 副交感神経が頸と仙骨に分布するのは、進化の過程で生物が胴長になり、胴体にあった副交感神経が上下に分断されてしまったのである。一方、交感神経は脊椎ができて進化したために、背中に均等に分布しているのである。
 交感神経は主に運動時や昼間の活動時に優位になる神経で、心臓の拍動を高めて血管を収縮させて血圧を上げて消化管の働きを止めて体を活動的な体調に整えるのである。
 副交感神経は食事のときや休息時に優位になる神経で、心臓の拍動をゆるやかにし、血管を拡張して血流を促して心身をリラックスにさせて各細胞に分泌や排泄を促す働きがあり、副交感神経が優位になると、消化液の分泌や排便が促進されるのである。
 また、自律神経は内臓の働きを調整する際に、末端から神経伝達物質を分泌して全身の60兆個の細胞を刺激して自律神経の指令を伝えて細胞は目的に向かって働きを同調させるのである。交感神経を刺激する物質の代表はアドレナリンであり、心臓の鼓動を速め、血管を収縮させて血圧を上げる作用があり、これに対して副交感神経からはアセチルコリンの物質が分泌されて心臓の鼓動を遅くして血管を拡張させて血圧を下げる作用があり、体全体がリラックスさせて臓器の分泌や排泄の働きが促進されるのである。
 さらに、血液成分として全身を調整し、体を感染から守る役割をしている白血球の働きも自律神経により調整されると「安保と福田」は突き止めたのである。

X、ストレスによる自律神経の乱れが病気を作る。
 病気の7割以上は、交感神経の緊張が原因であり、私たちの周囲にはストレスという自律神経の揺り戻しのバランスを乱す要素が多く存在することであり、このストレスには、働きすぎや睡眠不足、対人関係による葛藤、心の深い悩みなどの心身のストレスに加え、薬の長期使用、排気ガス、農薬、環境ホルモン、電磁波などが含まれるのである。これらのストレスが自律神経の交感神経を刺激して過度な緊張を促して副交感神経の戻りを悪くするのである。
 戻りを悪くすると食欲不振や便秘が続き、激しい動悸や不安感、切迫感などが起こり、ついには慢性疲労の状態になり、各種の病気を引き起こす元になるのである。
 そこで、パーキンソン病は脳の血流障害で発症してドーパミンという神経伝達物質の減少で起こるというのである。では、脳の血流障害はなぜ起こるのでしょうか。それは交感神経が過度に緊張しているために脳の血流が悪くなり、パーキンソン病になるのである。交感神経は血管を収縮させて血流を抑えるのであり、この状態が長く続くと老廃物の停滞などから血流そのもののバランスも乱れ、全身に血液の足りなくなった虚血、あるいは血液が過剰となったうっ血などの障害が起こるのである。脳の血管で虚血が起こると、脳は血液不足となって神経細胞も萎縮してくるのである。
 また、脳の動脈硬化も起こり、血管壁の柔軟性が失われて内腔が徐々に狭くなって脳血管の老化は、交感神経の過緊張により顆粒球の増加で活性酸素が大量に発生して組織を破壊していくのである。

Y、パーキンソン病の中国医術的治療法
 このパーキンソン病の治療法は、手足の筋肉のふるえと筋肉のこわばりと姿勢の異常と動きが鈍くなるので、この治療のためには筋肉を中心に考えると足の厥陰肝経と足の少陰腎経の治療が適任と思うのである。
 この治療には、体全体に体力をつけて免疫力を高めてストレスを取り、そのストレスは、患者に尋ねてみて失望か、悲しみか、怒りか、悪意か、羨みかのどちらかであり、おそらくパーキンソン病は、怒りと失望が重なってストレスがたまってきたものと考えるのである。
 そのためには、ヒュームの情念論からいくと、怒りを誇りに変えるように背中の胆兪穴と肝兪穴と腎兪穴と膀胱兪穴を使い、あとは曲泉、陰谷、太衝、太谿穴を使い、自然治癒力を高めるように補的な、優しい鍼をすることである。
 局所の治療は、手足はふるえが止まり、手足が自由に動くようにするために、曲池、手三里、合谷、温溜、足三里、三陰交、光明、委中、殷門、承筋、承山、陽陵泉穴などを使い、腹部は中?、気海、天枢、関元穴を使い、背腰部は肩井、天柱、風池、肺兪、膏肓、肝兪、腎兪穴などを使い、パーキンソン病の四大症状、(振戦、寡動、無動、筋固縮、姿勢反射障害)を軽減させることができるのである。


【注】

【参考文献】

総合社会情報研究科ホームページへ 電子マガジンTOPへ