デトロイトからの便り(4) ―自動車産業の環境と企業戦略および生産戦略―
国際情報専攻 6期生・修了 森田 喜芳
今年に入ってから既に6カ月を経過している。その間に、自動車産業を取り巻く環境についての動向および今後の予測などを考察する。
すでに昨年からであるが、原油相場すなわちガソリンやジェット燃料の価格が上がるなど、これから夏場に向けての相場は気がかりである。すなわち、省エネ対策の自動車がますます小型化していく傾向がはっきりと見えてきた。さらに、安全対策などの対応車がこれから続々と開発、生産開始され、秋に向けての新車販売の市場に導入され販売される見通しとなってきた。
以上のような観点から、今後を予測してみる。
1. 原油相場について
6月14日付の日経新聞によると、「今後は需要期である。夏が終わるまで、現在の60から65ドルの高値圏でもみ合うだろう。」と伝えられている。原油相場を振り返ってみると、99年には、1バーレル20ドルであり、04年には、1バーレル当たり40ドル、06年の最高値では、80ドルに近い値をつけた。現在は多少落ち着いて、60から65ドルである。
すなわち、今から約9年前の原油価格は、昨年の最高値の80ドルに比べると4倍の価格となっている。また4年前の04年に比べると2倍である。
ご存知のように、原油が上がれば、自動車関連のすべての原材料が上昇する。9年前に比べて、4倍、4年前に比べて2倍となっている現状では、石油化学製品の原材料は、原材料は4倍に上がれば、単純計算でいえば石油化学製品の部品は、原価で約2倍という計算になる。(部品の価格構成の50%が原材料費と見た場合)。2年前から比べれば、同様の単純計算でいえば、原価で50%上がったことになる。
この原材料の値上げに対しての対応策として、
(1)顧客に対して値上げを要請する。
(2)自社内の生産効率を上げる。(歩留まり向上など、)
(3)生産拠点を変更し、海外の労働力の競争力ある地域に、工場を移転する。
但し、上記のいずれの方策をとっても原材料の価格アップは吸収できないだろうと考える。(1)の場合、今後は原材料の価格変動相場制を顧客にリクエストするのが当面の方策であると考える。現実に、鉄鋼、銅、アルミニウム、その他の原材料は、私が自動車会社の購買担当の時代からすでに価格変動相場制をとっている。(40年前以上のことである。)ただし、USのビッグスリーは、この方策は現在のところ取られていない。従って、USのビッグスリーとの取引は収益面で大変苦しい部品メーカーが多いのではないかと推察する。
(2)では、原材料価格に対応する生産性向上は、原材料の歩留まり向上であろう。
どのような製品であっても歩留まりは、75%以上が最近の常識である。さらにこの比率は、今後ますます高まっていくであろうし、最終的には、100パーセントに近いことが望ましいことはすべての生産関係者は承知しているであろう。現実に、私がかつて勤めていた自動車メーカーでは、75%以下の歩留まり率であれば見積書を提出の段階で却下される。歩留まり向上とは、金型、機械、生産の流し方など多岐にわたり、改善向上した結果が数字として現れるため、その会社の生産技術力の優劣が問われるものである。
また最近では、生産設備の稼働率に注目しており、設備の稼働率についても見積もりの段階で、チェックするようになっている。
(3)は、生産拠点の変更によりメリットが出る部分は、端的に言って労務費であろう。たとえば多めに見て、原価の30%が労務費であった場合、労務費が半分になった場合は、原価の15%に効果が見られる。十分の1になった場合は、管理などを含めると、30%近くの効果が見られる。そのため、できるだけ労務費の安い国に生産をシフトしているのが現状である。現在は中国がその最たる国である。歴史的にみて、自動車の北米の生産は、アメリカとカナダで、生産を行っていたが、約20年以上前から、メキシコに生産拠点を移管していった。現在は、メキシコからさらに中国に、移管しつつあり、ほぼ完了し、次は、インドを視野に入れて、移管の行動が緒に着いたところだ。これは北米から見た場合、常に暖かい国に移行しており、地球上では西に西にと生産国が移動している。この論法で憶測すれば、次はイランなどの中東、そして最後は、アフリカに行き着くのであろうか??
生産拠点の変更は、新たに工場建設、現地従業員の教育、現地調達率の向上、本国からの駐在者の派遣、など様々な生産活動に対する多岐にわたる仕事が発生する。今後も引き続きこれらの生産活動の仕事が減ることはなく増える、あるいは拡大する傾向であろう。そのための会社全体の、固定費的要員は常に確保しておく必要があるのであろう。
2.自動車の小型化
自動車業界において地球温暖化と、省エネ対策は現在最も取り組んでいかなければならないテーマである。そのために二酸化炭素(CO2)の排出量を抑制するため、燃料機関の改善が叫ばれている。ハイブリッド車、ディーゼル車、エタノール車、などが現在考えられている主流であろう。ご存知のように、ハイブリッド車は、トヨタが独走しており、ディーゼル車については、ヨーロッパ車が大勢を占めている。エタノール車ではすでにブラジルが、昨年より新車として発表される車のすべてがエタノール車である。自動車王国のアメリカは、どの方向に行くのか未だ方向性が見えてないが、小生の予測ではエタノール車であろう。ここではその詳細について言及は避けるが、日本の自動車メーカーの対応は大きく違う。トヨタはハイブリッド車であり、ホンダはハイブリッド車を小型車に限定し、アコードなどの中型車にはディーゼルエンジンを搭載する、と発表している。(日本経済新聞、6月3日付13版、p5)
車はますます小さくなり小型車以下の車格、すなわち現在の軽自動車並みの車が、今後主流になってくると予測される。(最近の日本の自動車販売のベストテンを見ると、ほとんどが軽自動車である。こうした入門車の世界需要は2012年には1800万台になるとの予測もある。
ここで日本の自動車メーカー3社の軽自動車に対する対応について見てみる。
- トヨタ自動車は、すでにご存知のようにダイハツ自動車と富士重工が事実上の傘下にあり、この2社で対応している。ダイハツは、スズキ自動車と並んで軽自動車のトップメーカーである。
- 日産自動車は、つい最近まで、様々な日本の自動車メーカーと、軽自動車生産に対する可能性を打診してきたが、ようやく最近になって自社の戦略がはっきり見えてきた。すなわち、ルノーの低価格車「ロガン」をOEM(相手ブランドによる生産)調達して、今年の夏からメキシコで、販売する。
- ホンダは、従来より軽自動車を自社で、開発から生産、販売を一貫して行っており、今後この分野での事業拡大を海外展開する戦略である。
従ってこの分野では、上記以外の軽自動車の生産メーカーにとっては、国内および海外で、ますます厳しい戦いになるだろうと予測される。
自動車メーカーの乗用車事業が、日本や北米が、頭打ちとなる中で、世界の自動車大手は市場拡大が期待できるBRIKS(ブラジル、ロシア、インド、中国)や南米、アフリカ地域といった新興市場で、相次ぎ小型車の投入を計画している。安価な「エントリー・カー」で若者を取り込みその後、上級者やの買い替えを促す戦略だ。(日本経済新聞、5月29日、14版p13)ちなみに、低価格車とは100万円を切る車であり、トヨタは80万円程度の戦略小型車を10年メドに発売すると発表している。インドなどでは、今年あたりから来年にかけて30万円台の車が発売されると報じている。中国の自動車メーカーも、同様な動きである。
このような動きのなかで、現在のコンベンショナルな部品については、まずまずの小型化と、コストダウンのリクエストが、自動車各社から部品メーカーに、要求が来ることが確実に予測される。おそらく今後コンベンショナルな部品については、コストダウンのリクエストは、20%以上要求が来るであろう。
3.自動車の安全対策
今、自動車の安全技術がものすごい勢いで進化している。衝突安全は当たり前。事故を回避する技術、事故を未然に防ぐ技術の実現に向け、最近の電子技術の駆使したデバイス開発競争が世界で繰り広げられている。多くのジャンルの技術の集合体である、車載安全技術である。2000年以降の安全技術とは、衝突安全技術には、フロントサイドモニター、歩行者障害軽減車体構造であり、予防安全技術では、横滑り防止システム、赤外線暗視装置、レーンキーピングアシスト、電子制御ブレーキシステムなどである。
例えば、ドライバーの目をサポートして、前方の道路状況をセンサーが監視し、事故の被害軽減を目指した。トヨタ自動車の「プリクラッシュセーフティー」は、人間の目では視界の確保が困難になる雨の日や夜間でも、障害物や車線などを検知し、安全運転をサポートしてくれるという。まさにハイテク装備である。また、現在トヨタの高級車「マジェスタ」などに搭載されているデンソーの画像センサーの視野角は、左右方向に50度、約40メートル先までの範囲を撮影している。レーンキーピングアシストシステムに使用され、主な目的は車線からのはみ出しなどを検出するための白線認識だ。(Liverdoor、2007年5月28日、p1〜2)
以上のような安全対策を講じた車が最近続々と新車発表されているが、トータルで見ると、このような最近の車の開発は自動車会社の車の開発よりもむしろ上記のデンソーのように、電気関係の会社が、続々と自動車部品に参入し、開発している。すなわち、今後の自動車は、エンジンや車体開発よりも、電気部品の開発が主になると予測される。現在の自動車会社が主体となっている自動車開発は、いずれ電気関係の会社が、取って代わる時代になるのであろうか?私としては、大変さびしく危惧している。
しかしながら最近の自動車の販売価格を見てみると、上記のような安全対策を講じた車の価格は、従来の車の価格とほとんど変わっていない。このことは、先にも述べたように、従来から車を構成するコンベンショナルな部品価格は、コストダウンを余儀なくされている。たとえば20%のコストダウン分が、安全対策の新しい電気関係の部品のコストとなる。今後ますますこの傾向は強くなるであろう。従って、自動車産業および自動車部品メーカーは従来のコンベンショナルな部品以外に、安全対策関係の仕事を早急に手掛けて確立、構築する必要があると、予測する。
以上が、小生の近年の自動車産業の方向を考察したものである。
尚、前回(連載#03)にて予告の日本の自動車3社(トヨタ、ニッサン、ホンダ)のレポートは次号に変更させて戴きました。
あしからず、ご了承願います。
<以上>
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