USのBMW工場見学記―BMW North Carolina 工場見学―

                       国際情報専攻 6期生・修了 森田 喜芳


 今回のBMWの工場見学(5月18日)は、取引先の工場を訪問した際に思いがけず叶った。この工場のロケーションは、空港まで5分のところにあり、アトランタまで154マイルの位置にある。

 インターステートの出口をゆっくり走って、新緑の木々と緑の絨毯のように綺麗に刈られた芝生が広がる公園のような中を五分ほど走ると、そこにBMWの白くて美しい工場が忽然と現れた。工場は多少起伏がある丘の上に立っていた。私の経験では、どの国に行っても、ドイツから進出している企業は必ずと言っていいほど、地形の高いところに工場を作っている。BMWの工場も同様であり、そこから見る外の景色は、綺麗な美しい環境の周辺を一望できるところであった。駐車場も、木々の間に作られた場所であり、工場とは少々距離があった。一般的に見られる駐車場のすぐ脇に工場があるようなイメージとは異なり、美術館や博物館に到着したような感じがした。

 最初に、ミュージアムandビジターズ・センターに行き、予約状況の確認と、1人5ドルの入場料を支払った。(数々の自動車工場や自動車関連企業を訪れたが、私企業で入場料を払ったのは、初経験である。)ミュージアムは素晴らしく、フォード・ミュージアムを小さくしたようなイメージであった。お土産品の売店やカフェテリアもあり、軽食とソフトドリンクがとれるようになっていた。

 工場見学は、13時00分にスタートした。我々のグループは17人、若い女性が聞き取りやすい英語で案内してくれた。ミュージアムから工場までは直通になっていた。この工場では五つの異なったモデルを一つのラインで生産しているとのことである。日本的にいえば、混合生産の組み立てラインである。

 最初の現場はボデーの溶接工程であった。クリーンで明るい雰囲気で、かつて私が働いていたホンダ・オブ・アメリカの工場のイメージと良く似ていた。このBMWの初代の社長が、かつてホンダ・オブ・アメリカの総務関係の副社長で、工場建設から立ち上げ以降の仕事を行っていたことを思い出した。工場が操業してから13年、当初は従業員400人であったが、現在では4500人おり、2シフトのオペレーションである。ちなみに、1シフトの勤務時間は10時間である。1日の生産台数は600台とのこと。私は工場の大きさと従業員の数からみて、生産量が少ないと感じた。また、エンジンおよびミッションは、独やオーストリアから100%輸入で、部品供給supplierは180社であるとの説明だった。輸入部品が相当多いのであろう。また、ボデーの外板(ボンネットやフェンダー)の原材料はアルミニウムの板や樹脂材料を活用しているとのことであった。この主な理由は車全体の重量の軽量化であろう。

 工場見学用通路は、幅1メートルぐらいで専用のものだった。このアイデアはなかなか素晴らしいと思った。工場内では、なんとなく歩いている人が多く感じられた。作業服はBMWのロゴが入ったブルーの半袖の上着に、ネームプレートをつけていた。ズボンは、個人の自由であった。生産ラインの中で帽子をかぶっている人はほとんどいなかった。

 溶接ラインにはロボットが、360台動いているという。この数の多さにびっくりした。説明によると、ボデーのパネル、その他のスタンディング部品はドイツから約60%輸入とのことである。おそらく、プレス部品はできるだけ搬送荷姿が良いストレートの形をした部品にし、この工場で小さい物から大きな物まですべての溶接を行っているため、ロボット数が多いのだと判断した。一般的なプレス部品を現地で調達している場合は、小さなものの溶接や小組み立ては、取引先で行ってから搬入されるため、自動車工場の溶接ロボットは大きな部品用だけなのが実情である。
 この工場の溶接火花は思っていたほど飛んでいなかった。その辺の管理は、よくやっているのではないかと思われた。

 組み立てラインを見ると、輸出梱包の部品が数多く見られた。エンジンとトランスミッション、そしてプレス部品の60%、さらに組み立て部品の60%以上が、輸入されている。これでは、部品の物流や為替などの変化に対するコスト・タフネスさがあまりないはずで、工場経営も難しいのではないかと感じた。
 また、ライン・サイドに数多くの段ボール箱が置かれていた。これらの箱に入っている部品は、すべて海外からの輸入品なのであろう。また通い箱の管理も、高さは約3メートルで6段済みで置かれていたが高すぎると思う。私の持論では、目線よりも上の多段積みは危険であり工場管理として一考を要する。又、工場全体の生産管理も気になる点が多い。
 聞くところによると、この近くの空港は、ドメスティックの空港であったが、BMWが来てから、インターナショナル空港に急遽変更されたとの事であった。空輸で部品が数多く運ばれて来ている!との証明であろう。

 ワイヤーハネスを取り付ける個所では、ワイヤーハネスをエンジンルームから、キャビンそして、トランクルームまで、一本のワイヤーハネスで通していた。最近では、エンジンルーム、キャビン、トランクルームの最低3分割になっており、組み立て作業性、取り回しがやり易い設計になっている。
 組み立てコンベアは、フラット式の床に固定されたコンベヤーであった。最近の組み立てコンベアは、オーバー・ヘッド・コンベアであり、作業性を考えて、高さが上下するような設計になっている。また、インストルメント・パネルの組み立てはイン・ラインで行っていた。一般的にはインストルメント・パネルは小組み立てを行ってからカセット組み立てする方法をとる。
 組み立てのメインラインに対して、その部品搬送ラインがなかった。また塗装後のボデーとドアが別で送られていたが、本来であれば、同じ塗装のボデーとドアは、ドアの小組み立て以外は一緒に搬送されるのが一般的である。
 エンジンとミッションをサブ・アセンブリしてボデーと結合させる装置は見事であった。そこには全く人がおらず無人化で上下が一体となる装置は素晴らしいと感心した。

 やはり工場全体で人が多いと感じた。カフェテリアや個人のロッカーも、職場のライン・サイドに設置されており、ちょっと違和感があった。フォークリフトもかなり多く走っていた。しかし通路にはゴミが一つも落ちておらず、非常にきれいな工場であった。コンベヤーやロボットアセンブリ装置などはすべてオレンジ色でSIEMENS製であった。

 タイヤの装着ラインを見たが、フォークリフトで運んでおり、もうちょっと工夫がいるのではないかと思う。タイヤは、コンチネンタルと、グッドイヤー製であった。組み立ての最終ラインを見たが、最終組み立てを終わった後の修理の車が多いのには驚いた。ざっと数えて約100台が置いてあった。この修理の車の多さはなんとも大変な仕事であり、また多くの在庫車を抱えるということにもつながる。

 車のボデー色は、グレーや黒が圧倒的に多かった。ただし、スポーツカーについては、やはり派手な色ばかりであった。従業員の約65%が、BMWの車を乗っているとの事であった。8千マイルから12千マイル走ると、companyカーは交換してくれるとの事。約1年で新しい車に乗り換えることができそうである。ちょっとうらやましい気持ちになった。
 完成車の60%は輸出をしているらしい。やはりブランド名であろうか!右ハンドル車も生産をしていた。ひょっとしたら日本にもここから輸出されているのではないだろうか。

 ツアーは14時30分に終了した。約一時間半のツアーであったが久しぶりの自動車工場の見学であり大変楽しかった。ただし、正直に言ってあまり新しい発見はなかった。

 以上が工場見学の実情列記であるが、ここで私の経験による(ホンダ時代の日本、米国工場)、GM関連会社との比較考察を以下に述べてみる。

 (1)混合生産組み立てライン
 日本の自動車メーカーでの混合生産組み立てラインは、ホンダが15年位前から始めて、最近ではトヨタ、日産も同様の生産を行っている。しかし、アメリカのビッグスリー(USスリーとも呼ばれる)では、まだあまり普及していない。アメリカでは大量生産、すなわち単一車種を1本の生産ラインで数多く製造しているのが実情であった。現在日本の自動車会社は顧客からオーダーが入ったら、すぐに工場にその情報がインプットされ生産を開始し、1週間後には、顧客の手に渡るようになっている。つまり、一つの組み立てラインで同じ仕様の車が続けて製造されることはほとんど無い。したがって、生産方式は混合生産が主体となっており、これが最適生産ラインである。

 (2)車の軽量化
 BMWはアルミをボデー部品に使用して車を軽量化することによって、燃費の向上が期待され、CO2の排気や地球温暖化に優しいクルマづくりを目指している、ということであろう。日本の自動車会社も過去に何度となく一部の車種に採用したが、本格的な採用はない。現段階ではスチールのコストの方が廉価であるためである。技術的には全く問題ない一般的な技術であるので、アルミとスチールの原材料のコスト差、及び燃費向上を達成するために、これから多くの自動車メーカーが採用していくであろうと予測される。

 (3)現地調達率
 上述のように、エンジン&ミッションは全て輸入しており。ボデーパネルと組み立て部品も各々60%が輸入との事であるが、おそらく車全体の部品の現地調達率は10%くらいであろう。つまり、ドイツをはじめとした海外からの90%輸入し、この工場で組み立てだけをやっているKD(ノック・ダウン)工場ということである。それにしても、10%の現地調達率で部品メーカーとの取引が180社とは多すぎると感じた。ちなみにトヨタ、ニッサン、ホンダのUSでの現地調達率は少なくとも70%以上である。
 BMWは、特に投資金額の大きいエンジン、ミッション、ボデー部品のプレスなどの部品は全て輸入しているため、この工場での本格的生産、すなわちUS生産は考えていないと見るのが妥当であろう。
 現地調達は其の国で部品を購入し、経済の促進や雇用の増大を狙い、売るだけでなく利益を再投資して、其の国に貢献するのが永続的なビジネスであろうと考えている。又、会社経営の面からも、現地調達が50%で為替タフネスがブレーキ・イーブンになるため、出来れば最低50%以上が望ましいと考えられる。50%以下ではコスト体質が弱いことになる。現在のユーロから見れば、現状でも余り問題にならないが、将来見据えた場合には50%の調達率は早い時点でキープしたいところであろう!
 又、現地調達が低いということはモデル・チェンジが行われた場合、本社(ドイツ)などでニュー・モデルに切り替えてから、こちらの工場に部品を輸出してきて生産するため、世界同時の発表が出来ないと見る。

 (4)工場生産管理
 BMWの工場全体の生産についても、気になる点があった。生産量を示す掲示板には、「計画はAボデー:319台・Bボデー:319台」とあるのに対して、実績は、「Aボデー:200台・Bボデー:334台、達成率97%」と表示されていた。確かに、トータル数で考えれば達成率は97%であるが、Aボデーの生産量が、計画に対して大幅に少ない。逆にBボデーは多く生産している。何が原因でこのようになっているか不明だが、計画にあるような生産を達成するためには、組み立てのライン・サイドに、A,B両方の専用部品を数多く在庫として持っていなければならない。すなわち、輸入品の在庫を多く持つということであり、部品管理上、工場の経営上のもかなりのマイナス影響があると判断する。

<最近のBMW関連記事>
 日経ビジネス(5月21日発行)によれば、BMWでは、20年ぶりに、130万ユーロ(約1755億円)を投じて、2005年、ドイツにライプチヒ工場を完成させた。「この工場は、顧客の好みを反映する受注生産であり、フレキシブルな生産体制で、顧客の発注に基づき生産をしており見込み生産はしない」と言っている。また、「『需要の変化に柔軟に応え、高い生産瀬を実現することが競争力を決める。そのため、フレキシブル生産は完璧を目指して更に進化させる』とライトホーファー社長は語る。」とも書かれている。

 以上のことから見て、ようやく独BMWもフレキシブル生産を導入し、今後は日本のお家芸であった生産システムに追いつき、追い越す勢いを見せ初めていることは間違いない事実であり、其の経営方針を他の海外工場に何時、水平展開してくるのか?注目しておく必要があると感じている。

<以上>



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