デトロイトからの便り(3) ―自動車の低燃費対策の将来動向予測―
国際情報専攻 6期生・修了 森田喜芳
アメリカの燃費基準引き上げの動き=民主主導下院
民主党主導となった米連邦議会では、ブッシュ政権が推奨するよりはるかに厳しい燃費基準を支援する動きが高まり、米自動車メーカーへの向かい風が強まっている。
デトロイト・フリー・プレスによると、議会では地球温暖化とエネルギー問題への対応策として、燃費基準の引き上げが幅広い支持を受けている。米企業の経営悪化や(雇用創出を導く)という初期の自動車メーカーの反論は、ほとんど説得力を失ったようだ。
エド・マーキー民主党議員が、燃費基準法案を間もなく議会に提出する。同議員は前回の議会で、2016年までに33マイル/ガロン達成を義務付けた法案を共同起草した。2月初旬にブッシュ政権が提出した法案は、17年までに34マイル/ガロンの実現を目指しており、一見マスキー案と似ている。しかし、ブッシュ案は実際の基準を[自動車メーカーの計画に基づいて運輸省が設定する]という点で、はるかにメーカー寄りとなっている。
昨年11月の選挙後、燃料基準をめぐる議会の風向きは大きく変わった。自由競争擁護の立場から、燃費基準の厳格化に反対してきた主要共和党議員数人が落選した。また、民主党議員の中には極度に厳しい燃費基準を提唱して、環境、エネルギー問題に積極的という印象を与えようとする風潮すらある。ペロシ議長は、7月4日までに、下院の法案議決を求めている。
以上のように、最近のアメリカの燃費基準に対する規制が今後ますます厳しくなると予測されている。その対応策として、早期に環境対応車を市場に普及&販売すべく、各自動車会社が開発の凌ぎをけずっている。
今回は、現在特に話題になっている、ハイブリッド車、ディーゼル車、エタノール車について言及する。
1.ハイブリッド車
この分野では圧倒的に日本の2社が先行している。トヨタとホンダは、アメリカ国内でハイブリッド車を生産する計画をすでに発表した。また、ホンダは、間もなくハイブリッド車の新製品を発売する。ニッサンも2007年の初頭に同社初の量産ハイブリッドを発売する。GMはワグナー会長が昨年の12月に記者会見を行い、一般家庭の電源で充電できるハイブリッド車を生産する方針を明らかにした。一方、ダイムラークライスラーとBMWは、3月1日、両社の主力である高級乗用車分野で、ハイブリッドシステムを共同開発すると発表した。出遅れたドイツ2社は、「今回の提携で2010年までに実用化し、売り上げを目指す」と日本経済新聞(3.2日付)が報じている。このように、世界の自動車大手各社が、ハイブリッドの開発、販売に向けて力を入れている。
世界での販売台数は、トヨタが累計66万台、ホンダが約14万台である。自動車関連情報を提供する米R.L.Polk&co.は、「2006年の米国でのハイブリッド車販売台数は前年に比べて、28%増の25万4545台だった。」と発表した。これはガソリン車を含む新規登録者台数の1.5%に当たる。ただし増加率は2000年以降で2番目に低かった。ブランド別では、トヨタとレクサスで全体の75%占めたという。米国トヨタ自動車販売のエイズモンド上級副社長は、「同社の米国でのハイブリッド車の今年の販売台数が25万台以上になるだろう」との見通しを明らかにした。
しかし、ニッサンのカルロス・ゴーン社長は、昨年11月の東洋経済のインタビューで、「ハイブリッドの需要は、1%強でそれはマーケッティングではない。しかし現時点で顧客が列をなしてハイブリッドを購入するわけではなく、メーカーの一部インセンチブをつけなければ売れないのが現実である。」と警告している。
今後は、システムのコストダウンにより、現在割高である車の販売価格の見直しと、技術の向上が課題である。トヨタは、数十キロの短距離なら、モーターだけで走れる「プラグイン(充電型)ハイブリッド」の開発に着手した。エンジン車に比べ、二酸化炭素は約3分の1に減るという。トヨタはハイブリッドの原価低減を推進しており、2010年にはエンジンだけの車とのコスト差を反映させる目標を掲げている。
2.ディーゼル車
ディーゼル車はガソリン車に比べ、燃費が2~3割よいとされている。懸念だった排ガス浄化技術の開発が進み、コスト低減が可能になれば、環境にやさしい車としての地位をさらに高められる。中国やインドなどの新興国では、ディーゼル車が普及する兆候が見られており、世界の成長市場に進出するのにも欠かせない技術になりつつある。
しかし、日経ビジネス(2006.11.20および12.4号)によると、ディーゼル技術の「2009年問題」が取り沙汰されている。2009年までに米国環境庁が定めた排出ガス規制値「Tier2 bin5」で、Nox(窒素酸化物)の排出量を日本の現行規制の約3分の1の水準まで削減しなければならないからだ。
ディーゼル技術はもともと欧州勢がリードしてきた。1997年にダイムラークライスラーと独ボッシュが共同で、「コモンレール・システム」を搭載したディーゼルエンジンを世界で初めて量産化したのを皮切りに、欧州メーカーがディーゼル車の開発に注力した。その結果、2005年の欧州での新車販売台数約1449万台で、ディーゼル車は約半分のシェアを占めるようになり、その大半を欧州メーカーが担った。
「コモンレール・システム」とは、1万分の1秒の間隔で、1800気圧の超高圧の燃料噴射を精密に電子制御するシステムである。この技術は革新的で、ディーゼル車の排ガスや騒音などの短所を改善し、低燃費などの長所を伸ばした。ただし、このシステムの成否は、「コモンレール・システム」の大手メーカーであるボッシュや米デルファイ・オートモーティブ・Systems、デンソーがカギを握る。
現在は、三菱重工業も乗用車のディーゼルエンジン部品事業を拡大する動きがある。また、京セラ、村田製作所はそれぞれディーゼルエンジンの燃料噴射に使われる電子制御式インジェクターの中核部品を開発している。欧州での排ガス規制強化に対応した高性能の次世代ディーゼルを開発するには、精密な燃料噴射を制御できる部品が不可欠だからである。
トヨタ自動車はいすゞと、ディーゼルエンジンの開発、生産で提携し、欧州でディーゼル車の販売比率を、早期に5割引き上げるなどの戦略を打ち出している。
ホンダは2003年に初めてディーゼルエンジンを開発した。後発メーカーながら、最新の排ガス浄化技術を開発し、欧州での販売に加え、米国での販売も発表した。「昨年ディーゼル開発競争の口火を切ったのは、ホンダだ。昨年5月にガソリン車並みの清浄度を持つディーゼル車を3年以内に米国に投入すると発表。9月には独自触媒を使った排ガス除去技術を公表し、世界のエンジン技術者を驚かせた。」と日経新聞(12.5付)に報道されている。
ニッサンは、仏ルノーと共同開発し、「Tier2 bin5」に対応したディーゼルエンジン車を2010年に北米市場に投入する(日経新聞 4.19付)。さらに北米市場での使用車に最新鋭の環境技術を搭載し、ハイブリッド車で先行するトヨタ自動車やホンダを追撃する。ゴーン社長は、「クリーンなディーゼル車を2010年から日本や北米、中国に投入する」と説明した。
ダイムラークライスラーは、排ガス浄化技術などで先頭を走り、米国や日本でもディーゼル車の販売に力に入れる。
日本市場では、現在、排ガスを撒き散らすディーゼル車を製造販売したメーカーの責任を問う公害裁判が行われている。実際に訴えられている自動車メーカーは、トヨタ、ニッサン、マツダ、三菱、いすゞ、日野、日産ディーゼルの7社である。それゆえ、日本の自動車各社は掌を返すようなディーゼル積極化を叫ぶことを憚るのではないか?
現在、日本でクリーンディーゼル普及を進める先頭ランナーはホンダである。なぜ、ホンダなのか?ホンダは過去、商用車やディーゼルを手がけておらず、起訴の対象にもなってない。負の遺産を背負っていないからなのだ(週刊東洋経済2006.11.11号)。
課題は、さらなる排ガス浄化技術の高度化と、コストがハイブリッド車より25%程度高く設定されていることである。
3.エタノール車(バイオ燃料)
バイオ燃料への注目度が高まっている。特徴は燃料を植物から抽出し、化石燃料(ガソリン)に依存しないことである。ガソリンは、以前より資源の枯渇が叫ばれており、原油価格の高騰が現実問題となっている。
エタノール車の普及状況は、GMが北米で累計200万台発売、ブラジルでは新車発売の過半を占めている。
米国でも政府が原油依存を下げるために、エタノール化しようとする方針を打ち出した。GMは07年に北米で約40万台のエタノール車を販売する計画だ。トヨタは世界的な普及に備え、すべてのガソリンエンジンで、エタノールを10%まで混合した燃料を使える体制を整えた。しかし、100%エタノールを使用する車は、GMや独フォルクスワーゲンなどが先行している。
日本では、今年の4月27日よりバイオエタノール分含むバイオガソリンの販売が首都圏の50カ所のガソリンスタンドで始まった。価格はレギュラーガソリンと同じ。元売りはガソリン需要期の大型連休前に販売を始め、ドライバーへの周知、普及を目指し、初年度は17万キロリットルを販売する計画である。2010年には全国展開し、需要は拡大する計画だが、供給は輸入に頼る必要があると見られている。
バイオ燃料の主要原料は様々で、アメリカではトウモロコシ、大豆油、ブラジルではサトウキビ、ドイツでは菜種油、中国ではトウモロコシ、小麦、タイではキャッツサバ、糖ミツなどである。いずれの原料も、植物自体が生育過程で二酸化炭素(CO2)を吸収しているため、これも温暖化ガス削減となる。京都議定書ではCO2排出量ゼロの燃料と見なされている。
燃料用エタノール生産は、首位はアメリカ、2位がブラジルで、世界生産の約7割を占める。サトウキビの産地であるブラジルでは、エタノールの価格がガソリンより安く、05年の新車販売台数170万台の過半数をエタノール対応車が占める。また、ガソリン、エタノール、その混合燃料のどれでも使えるフレックス車が新市場の8割を占めている。また、現状では、エタノール生産を大量に増やせるのはブラジルだけで、7年後をメドに、サトウキビの作付面積を増やし、輸出をほぼ倍増する計画である。
アメリカではトウモロコシから作るエタノール生産が倍増しており、06年の生産量は5年前に比べて約3倍に膨らんだ。2008年にはトウモロコシの国内生産の過半数がエタノール向けになり、世界的な穀物価格急騰の恐れがあると、アースポリシー研究所が発表した。米国内で稼働中のエタノール精製所は06年末現在116カ所。同研究所の調査では、精製所の建設が加速しており、さらに79カ所が建設中だという。現在はトウモロコシの生産量の約20%が精製所に供給されているが、08年には予測生産量の約48%が精製所向けになるという。そのため「トウモロコシの不足分が他の穀物の需要拡大につながり、穀物全体の価格が急騰する。」と警告を発した。そのためか、米農務省は休耕地の一部で、最大で約2万平方キロメートルを、トウモロコシなどの栽培に切り替える方針を固めた。
ディーゼル車が普及する欧州では、菜種油で作るディーゼル燃料も、エタノール以上に生産されている。
日本のバイオ燃料の国内生産は、05年は30Kリットルのみで、大半を輸入している。
トヨタはタイの石油公社と共同で、高野に育つヤトロファを植物油の原料とするバイオ燃料を検討している。一方ホンダは、エタノールを稲や植物の茎によって効率的に製造する技術を開発し、食用外の木くずや茎などを利用する研究も活発化している。三菱瓦斯化学と三菱商事はベネズエラで、合成樹脂などの基礎原料となるメタノールの生産能力を倍増する計画を発表している。
現在のところ、エタノールは環境にも優しく、技術的な対応もむずかしくなく、農作物や植物が多く取れる米国、ブラジルやタイ、中国やアジアの農耕地を活用した燃料生産能力を急増している。すでに歴史が長いブラジルでは、ほぼ100%のエタノール対応車やフレックス車が製造、販売と広く使用されている。今後はエタノール100%になるであろう。
しかし、世界的にみると、日本などは十分なエタノール調達が困難であり、今後どのように普及されていくかが課題である。いずれにせよ、エタノール資源は、地球上で繰り返し作ることができる燃料であり、当分、自動車の燃料として、主力の役割を果たすのではないかと想定する。
なお、次回は日本の3社(トヨタ、ニッサン、ホンダ)の今後についてレポートする。
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