鍼灸治療と養生法について(上)

                       人間科学専攻 8期生 池田啓二

はじめに
 人は衣食住の生活をしながら生きていかなければなりません。そのためには、大宇宙の気候にあわしながら生きていくのです。生きていくためには、先ず食事をしなければなりません。大地にできたものを感謝して食べて外的環境に対して衣を作って寒冷から体を保護しなければなりません。
 自然に生きることは大変難しく人間は生まれてから絶対病気をしない超健康の方はいないのです。健康か健弱か、病的健康状態かであります。
 もし病気になれば、少しでも長生きをしたいのが人間の常であり、人欲の一つであると思います。人間には性欲、食欲、金銭欲、長寿欲もあり、欲も過剰になると精神面にも体力面にも無理が出てきます。しかし、無理をしなくて健康面を注意しておれば、100歳ぐらいは生きられると思います。三河の国の百姓萬平は先祖代々三里の灸を家伝として実行し、長生きの故に江府に徴され、天保15年240歳にて永代橋架け替えの渡り初めを承り、300歳の長寿を保ち、その家族には長命者を多く出したといわれます。このことを原志免太郎は伝えています。
 その原志免太郎も1937年に書いた本に記した養生法を実行していたといいます。原は104歳で10年ぐらい前に死亡しています。確かに長生きは、できると思う「ツボ」です。

Ⅰ 長寿穴としての足の三里穴
第1節 『十四経発揮』の三里穴
 これは足の陽明胃経(ようめいいけい)の一つのツボです。膝の下で脛骨の外側で解剖学的には前脛骨筋と長指伸筋の筋溝、下層には長母指伸筋があり、前脛骨動脈と浅腓骨神経(皮膚)、深腓骨神経(筋)が支配しています。
 ツボのとり方は、膝の膝蓋骨の上側に、手の母指を当てて、人差し指と中指を下腿部に下げると前脛骨筋のくぼみに当たりまして、人差し指と中指の間に気持ちのよいところが見つかりまして、強く圧すると足背部にひびきます。これが三里穴です。
 この三里穴は、万病に効くし、長寿のツボとして有名ですが、成書によると慢性消化器疾患、蓄膿症、脚気、坐骨神経痛、半身不随、のぼせ、頭痛、ノイローゼ、浮腫、中風、五労a、臝痩b、七傷cの虚証などです。

第2節 原志免太郎の長寿穴(三里の灸)
 原は「病気を治すのに、最終の目的は病気を治療するよりも病根の勦滅にあり」と確信するに至りました。
① 灸法の渡来
 欽明天皇の23年(壬午)秋8月、呉人知聰氏が薬書明堂図など160巻を持って来朝しました。ときは日本紀元1222年、陳文帝天嘉3年、西暦562年であり、外国医書の日本に輸入された始めで針灸術も渡来したのです。
 灸法の文字が日本の文献に現れ始めたのは、奈良朝以後であり、平安朝、鎌倉時代、室町時代、織豊時代、徳川時代など、各時代を通じて本邦治療界の重鎮として、枢要の位置を占めていましたし、医師の必修科目の一つであったことを見逃してはなりません。
 しかし、いずれの時代でも異論は免れないものと見えて、一方に灸の偉効を認定されますが、多面においては、その有害論を唱えられたものです。これは、今日灸法の科学的研究の立場から承認されるところでありますが、その用法を誤れば、無効は愚かなこと、確かに有害に作用するのです。善悪不離の道理で、世の中に善だけのものもなければ、また、悪だけのものもありません。
 原志免太郎は、日蓮の言葉、「悪人いよいよ頼みあり」という言葉から、「悪人を善人に妙化してこそ教法の真価値はあるのだ」と道破された。灸法の場合も同じことであるといいます。灸の有害を知悉して用法の機微を自得すれば、毒薬変じて薬となる妙味を体験するのです。
② 灸治療後の血液的変化
 医師である原は、灸治療後の血液検査を調べて「白血球、赤血球、血色素、血小板が増加して白血球の喰菌作用が強くなる。血液の凝固性が高まり、血糖量やカルシウムが増加し、体の免疫機能が高まる。」との結果を報告しました。
③ 灸の文字の科学的解釈
 「灸」という文字は「久」の下に「火」と書いてあります。この字の組み立ては「きゅう」の熱さの形容からできていないのは、一度でも灸の経験のある人の首肯するところです。
 昔から懲罰として「お灸をすえるぞ」と脅します。だから灸といえばよほど熱いもののように、子供の時分から恐れおののかされていますが、実際やってみると、そう熱いものではありません。熱いには熱いのですが、ほんの瞬間の辛抱で、熱いとこらえた時には、最早や燃え終わって、もぐさが灰になった後です。
 してみると「久」からざる「火」であります。すなわち「急」に通ずるもので急いで焼ける「火」です。それでは「灸」の文字に該当しません。
 そこで長く灼かなければ、赤血球や血色素などが増加しないので、少なくとも6週間以上は連続施灸が必要です。お灸の真の効果をあげるには、根気よく続けることであり、三日坊主で「灸」が効かぬなどと相場を決めるのは、「灸」の文字の科学的語源を忘れた失意者のうわごとです。
④ 原志免太郎の三里穴の灸
 原は「『三里の灸』を、毎日左右両脚に七壮ずつ灼くのである。小学生ならば1壮ないし2壮ぐらいすえるのがよい。これで結構偉大な効果をそうする」といいました。
 先日、27歳の妊婦が、風邪を引いて38度7分の熱に加えて下痢をしており、その上薬が飲めないので困り果てていたのです。そのとき、私は、三里の灸は万病に効くので風邪引きも下痢も治してくれるので左右の三里に穴に20壮ずつすえると、たちまち発汗して熱が下がり、下痢も治り、体調がよくなり、正常な体になりました。妊婦は薬が飲めないから逆子やむくみや肩こり、腰痛などではよく治療に来ますが、「健康灸」としても不可欠であります。

Ⅱ 貝原益軒の灸法
第1節 灸の効用
 「人間が生きているのは、天地の元気を受けてそれを根本にしているからであり、元気は陽気のことで、陽気は暖かで万物を生成するし、陰血も元気から生じる。元気が不足して停滞してめぐらないと気血が減って病気となる。それ故に火気をかりて補充すると陽気が発生して強くなり、胃と脾臓が調整されて食欲が出てきて気血の流れがよくなる。」
 これに対して私の考えも、同感であり、邪気を去るために陽気を強くすることは、補気といって気を補うことであり、体の細胞を活性化することです。陽を助けて気血の流れを盛んにして病気を回復させることは、低体温症の方が多いので邪気、すなわちウイルスが増殖しやすい状態に体を作っており、陽気を体にみなぎらせて免疫力を付けるには灸療法が最適であると思います。

第2節 もぐさの製法と名産地
 もぐさはヨモギでつくるのですが、「燃え草」の略語で、3月3日、5月5日に採るとよいが3月3日に採るのがよいといわれます。光沢のある葉を選んで一葉ずつ摘み取って広い器に入れて1日中、天日に干してのち、広く浅い器に入れて陰干しにします。数日後、よく乾いた時、また少し日に干して早く取り入れて暖かい内に臼でよくついて、葉が小さく砕けてくずになったものを篩いでふるって捨て、白くなったものを箱に入れて保存します。
 名産地は、天正4年に織田信長が、ポルトガルから輸入してポルトガル人に命じて近江の胆吹(いぶき)山に植えつけたのが始まりで、他に下野(しもつけ)の標芽ガ原(しめじがはら)のもぐさが良いといいますが、いかに名所の産でも採る時期を逃すと製品としてよくありません。

第3節 施灸の注意事項
 「病人に灸をすえる時、元気盛んな人は大きい灸をすえても良いが、虚弱体質の人は小さくして我慢しやすいようにすえるのが良い。」
 これに対して私の考えは、病人に対して刺激量を考えながら決めていくべきであり、昔から温灸の方法が述べていますが、痕のつかない灸法が今でもあるので、最近は、痕の着かない温灸法が患者に喜ばれます。

Ⅲ まとめ
 灸法は東洋医学の治療法の一つですが、最近の温度差が激しい毎日ですから、低体温症の方が多いので、免疫力を高めるためには、足の三里穴は据えることにより万病が治るし、長生きできるので病気の予防と長寿法の一つであると思うので、体験することを奨励します。




【注】 【参考文献】



総合社会情報研究科ホームページへ 電子マガジンTOPへ