「日本国際情報学会報告 第3回大会の報告」
国際情報専攻 2期生・修了 情野 瑞穂
日本国際情報学会の平成18年度総会及び大会が10月28日、29日の両日にわたり行われました。本会は、日本大学総合社会情報研究科の教授、現役生、修了生を中心に構成されていますが、近年は、他大学の博士課程で学ばれている留学生などの入会もあり、ますます広がりを見せています。
市ヶ谷日大会館を会場に、大会ではシンポジウムと2つの講演、そして11の研究報告がありました。シンポジウムでは、近藤大博会長のコーディネートのもと、『21世紀における台湾の課題』について、4人のパネリストによる意見交換が行われました。本会から荘光茂樹顧問、石大三郎理事、そして外部からは小田村四郎氏、黄文雄氏を招いての、白熱した意見が飛び交いました。
黄氏は台湾独立建国を支持する評論家で、その著書は優に100を超え、現在は拓殖大学の客員教授も務められています。来年古稀を迎えられるそうですが、そのエネルギーの泉は益々盛んに溢れ出るかのよう。シンポジウムの席でも、張りのある大きなお声で、台湾の抱える問題や台中関係の予想などを披露くださいました。
拓殖大学前総長の小田村氏は学徒出陣のご経験をお持ちで、かの戦争に係る当時の、そして現在に残る諸問題について、様々な角度から研究され、独自の見解をお持ちです。慰霊、認識や教育の改革、また日本と中国や台湾、韓国との関係等々を多くの場、媒体で発表されています。かの吉田松陰の遠縁(妹の曾孫)でいらっしゃるから、というわけではないかと思いますが、とても穏やかに、しかし鋭い内容のご発言がありました。
黄氏以上に声量のあったのは荘光教授。マイクを通す必要はありませんでした。中立的ポジションからの具体的な予想などを、力強くご提供くださいました。「中国の武力干渉はあるか」という予想については発言を控えようと思っていたという石理事も、だんだん熱の入った発言へと変わっていきました。それぞれのパネリストから、それぞれの心のままのことばを聞くことができたように感じます。
台湾問題を考えるということは、地球規模で対処しなくてはならない「民族問題」のほか、日本をとりまくアジア関係、そして日本国内の問題を考えることにも通じます。「台湾に必要なもの、それは魂。そしてそれは今の日本人にも必要」とのことばは胸に響きました。講演は、今年国際情報専攻に新任された階戸照雄教授と、『外交フォーラム』編集長の鈴木順子氏にお願いをいたしました。
鈴木氏ご自身が“天職”とされる、編集長としてのお仕事。そのやりがいと困難さをまさに現場の真中から、多くの具体事例とともにお話しいただきました。また他大学ではありますが、社会人大学院のご出身とのことで、そのご勉学がどう社会生活へ活かされたかのご経験についても触れてくださいました。
階戸教授からはとくに金融の現状について、最新のデータを揃えて詳しくお話しいただきました。日本の傷はとても深いようで、課題は浮彫りになるもののその対策がなかなか講じられない。よほどの改革、それも制度のみならず、各国民の意識の改革がなければ、この国に未来はない、そんなメッセージをいただいたように感じました。
会員による研究報告は多岐分野にわたり、本会の特長が表われたものとなりました。
日本の各業態で今後取り組んでいかねばならないリスクマネジメント分野では、3つの発表がありました。客観的なリスク評価の手法 − FMEA(故障モードとその影響の解析)を用いた、リスクの最小化と組織再建・再編についての考察。経営戦略としても有効である企業のEAP(Employee Assistance Program)のシステム解説と今の日本企業におけるEAP採用の現状報告。そして、昨今のテロの特徴や対テロ策について、先般の英国におけるテロ未然防止劇の舞台裏を紹介し、日本が学び講じうる対策を盛り込んだ発表。そのいずれもが、日本の実状の一歩先を睨んだ、ひとつの道標となるような報告だったかと思います。
日本の未来に向け、ある分野における対策や筋道を、具体的に提案した報告も多く見られました。税務担当職という発表者の経験を基にした、作業の効率化と税率を上げない税増収を進める官民協働プラン。日本の2050年頃の高齢化率をもつという佐渡市を例に、高齢者を“支える側”として再考し、“公”をいかに導入して過疎地を活性化させるか。競争的市場経済にモラルを持ち込み、不当な貿易による発展途上国の貧困連鎖を断つ試み― フェアトレードについて、イギリスからの報告。結婚斡旋業者と多額の手数料が動くような“国際結婚”の現実を新聞記事から分析した上で、暗や負の面だけでなく、当人たち自らがその民族性を有効活用させている事例の報告。これらの発表には優しい或いは明るい一点を見出すことができ、悲観癖のついた日本人に必要な視点を与えてくれます。
また逆に、楽観視されそうな事象に新たな視点や警鐘を与えたものもありました。この数年で長い低迷から脱却した鉄鋼業界が、外的要因のみに翻弄されず、継続的な繁栄のために考えねばならないこと。海外への“ロングステイ”、その定義付けと、また、魅力とその影に隠れる報道されない実状について。
こうした、未来を見据えての発表のほか、“過ぎた”出来事を取り上げるものもありました。戦争画を描かなかったと言われる横山大観、その戦中の筆なる絵画を具体的に挙げて、「彩管報国」(絵筆を以って国に報ずる)の視点から検証を試みたもの。最強と言われた榎本・開陽丸がなぜ函館の港内で遭難をしたのか、その要因と歴史的位置付け。それらは現代を生きる私たちへの精神面での、そして行動と結果の関係についての、問いかけにもなるでしょう。これらの報告の発表者とタイトルは、本会のホームページでご案内しておりますので、合わせてご覧いただきますと幸甚です。http://www3.ocn.ne.jp/~bin-go/gosira2.htm