「東武練馬まるとし物語 第三部」

 その三 「多くの支え」

国際情報専攻 3期生・修了 若山 太郎

 の終わり、2年振りに、家族旅行に出かけた。場所は沖縄の名護。

 長女は今年小学6年生、来年中学校に入学すると、クラブ活動などで忙しく、家族と一緒に旅行にも行きづらくなるだろうし、綺麗な海を子供たちに見せてあげたいと思ったからだ。
 それにしても、子供たちの成長には驚かされる。2年前には、長女の身長が妻を抜いた。学校の休みには、クッキーやチーズケーキ、カップケーキなどのお菓子作りをしている。読書好きなので、「赤毛のアン」など話の中で、お菓子作りのシーンが出てくると、同じものを作って食べてみたいと思うらしい。
 5年生ではクラスの代表委員を務め、学芸会の最後の挨拶や6年生を送る会での校歌の伴奏をした。
 また、サークルのバレエだが、3歳から10年続け、2年に1度の発表会では、トーシューズを履いて、大きな役を任され踊った。

 次女は、8月の「高円寺阿波おどり」や10月の「練馬まつり」で、じゃじゃ馬連の子供踊りの先頭となった。今年で50回目の高円寺で、連は東吾妻町友好賞を受賞した。
 次女も今年、クラスの代表委員になった。運動会では、応援団員となって、リレー選手への声援をリードしていた。
 3人とも親孝行な子供たちだけれど、七夕の短冊に、次女は、「パパを受け継いで、店で働きたい」と毎回書いてくれている。阿波踊りの練習の後に、店の手伝いをしたがる。料理を運んだ次女が、お客さんからご褒美におこずかいをいただくこともあった。

 三女は、明るい性格で、家ではよく鼻歌を歌っている。今年の誕生日に買ってあげた一輪車に乗ろうと、庭でたった一人、何度も練習を繰り返す姿は健気だ。その練習によって、一輪車はもちろん、一人黙々と練習して、鉄棒の逆上がりもマスターした努力家だ。
 家の前に住む理容室のご夫婦から、「まあ本当にがんばりやさんだね」と声をかけられ、成果を披露している。
 9月、学校で行われた、「はたらく消防の写生会」において、三女が書いた消防車の絵が入選した。2年前には次女も同じ賞に選ばれていて、それぞれの机には、その賞状が飾ってある。
 僕の朝食には、次女が作ってくれた目玉焼きや、三女のフレンチトーストなど、それぞれ自慢の一品が出ることもあり、うれしいものだ。3人ともよく妻の料理のお手伝いをしてくれている。



     

まるとし こうこうとした月が、広い海辺のちょうど真ん中辺りに出ていた。
 その光がおだやかな波に映り、光の道となって月まで続く。まるで映画の中で見るような景色だった。
  周りにはたくさんの星が瞬いていて、夜空と波音に、「沖縄に来たんだね」と話した。
 オリオンビールで乾杯して、バーベキューもお腹いっぱい食べた。
 夜も更けてくると、大人の握りこぶしほどのヤドカリが現れて、びっくりした。
 あくる日、離島である水納島(みんなじま)へ行った。本部(もとぶ)半島の西の沖合約7Kmに浮かぶ小島で、高速船で15分ほど。本島周辺よりも透明度が高く、砂浜が透けて見える、浜辺で泳いだ。
 砂と同じ色をした魚群が7匹ほどで泳いでいるのに気づいて、子供たちから歓声が上がった。
 生きて泳いでいる魚、それも15cmぐらいの長さの魚と一緒に泳げて、ものすごく喜んでいた。
 サンゴのあるところへシュノーケルを付けて連れて行くと、青や黄色の水族館で見るような魚の群れを見つけて、夢中になってのぞいていた。
 絵本や図鑑に出てくるような大きな魚に会うと、怖がって、バタバタ戻ってきた。
 日焼け止めをぬっても、特に背中が焼けてしまった。

     


 き物続きの話で。夏休みが始まる頃、小学校ではPTA主催の「葉かげのつどい」というのがある。
 そこでは金魚、ドジョウ、メダカ、ウナギが大きなビニールプールに放されて、それを子供たちが手ですくって捕まえる。
 ドジョウは、もう5年目の夏を迎えていて長生きだ。金魚は長いもので4年ぐらい。
 今年つかまえてきたメダカは2匹生き残った。ちょうどそれがオスとメスのつがいだった。そしてこの秋、卵をたくさん産んで、それが銀色の糸のような雑魚にかえった。
 初めは気づかずに親メダカと一緒だったのだが、水替えの時にみていた子供が、「あれ、何か泳いでいる?」と雑魚に気がつき、よく見ると、水槽のあちこちに卵がついているのを発見。急いで卵のついた水草と小さな雑魚を別の容器に入れ替えた。


   
 国営沖縄記念公園・海洋博公園内にある沖縄美ら海水族館にも訪れた。世界一大きなアクリルパネル越しには、ジンベエサメやオニイトマキエイがゆったりと泳いでいた。
  水槽の各コーナーで、図鑑の一ページのような解説のパンフが置かれていた。それを次女と三女は必死に集め、全部を集めると表裏合わせて32ページのミニ図鑑になった。
  水族館すぐ近くのオキちゃん劇場、青い海をバックにイルカたちがダイナミックなジャンプやかわいいダンスを披露し、子供たちはとても楽しんだ。
  その後、ヤシノミジュースを飲んだ。真っ黒に日焼けしたおじさんがナタでバンバンとヤシノミの上下を切り、ストローをさした。色は透明で味はほんのり甘くて、微かに渋みを感じる。童話に出てくるヤシノミジュースを実際に飲むことができて、子どもたちは満足そうだった。
  ここには先頃テレビのニュースで見た人工尾ひれをつけたイルカもいて、元気になったということだった。
まるとし  近隣のエメラルドビーチのきれいな海辺も印象的だった。美しく手入れの行き届いた広々とした園内を、1日乗り放題で1人200円の電気自動車に乗り、駐車場近くまで送ってもらった。
  琉宮城蝶々園でもらったクワガタ虫は、まだ元気にしている。食欲旺盛でエサのゼリーを一晩でほとんど食べてしまう勢いだ。
  夜中に帰ってくると、玄関の隅で、ガサゴソ音がする。近づいてみると、そのクワガタがゼリーの入れ物に頭を突っ込んでいる。
  空港から沖縄での移動はすべてレンタカーを使った。何より、この2年間で子供たち以上に成長したのは、妻の運転技術であり、お陰で快適な旅を楽しむことができた。
     



 から戻ってすぐ、9月3日に、氷川神社秋季大祭での、 大、中、小の神輿のほか太鼓山車を連ねての渡御を行われた。
 この神輿巡行は、2年に1度のもので、今年は天気に恵まれ何よりだった。前回に続いて2度目、今回僕は、次女と三女とで参加することになった。
まるとし この日のため、子供たちにお祭り用の半被などを一通り用意し、お祭り気分も高まった。僕は太鼓山車を押しながら、太鼓を叩きつつ、小さい神輿をかつぐ子供たちに付き添った。
 運行のコースについては2年前に詳しく書いた。お忘れの方は、振り返ってもらえればと思う(第18号参照)。ゆっくりと2つの商店街を神輿は運行し、神社の境内に戻ると、子供たちには、ご褒美のお菓子と飲み物が渡された。
 僕にとって2年前との大きな違いは、やはり地元のお祭りでもあり、「練馬商人会」の仲間の参加も多いことや、もちろん、商店街の理事仲間も増え、より身近なお祭りになったことだ。人との繋がりは、少しずつ着実に広がっている。




 10月3日、店近くの小学2年生の社会科見学(町探検)は児童に評判がよかったということで、去年に続き、「まるとし」では今年も喜んで受け入れた。
 この社会科見学とは、自分たちの住んでいる「北町」の様子を調べ、町を見直し、新しい発見をする学習の場である。

 当日は、朝10時30分から1時間ほどに、1グループ4〜5人の6組が、安全管理の保護者と共に店を探検しに来る。
 児童から、2、3質問をされ、それに答えて簡単な説明をする。
 今年の質問で1番多かったのは、「とんかつは美味しいですか?」(とっても美味しいです)。
 他にも、「店のメニューは何種類ぐらいありますか?」(70種類ほど)。
 「お客さんは、1日何人ぐらい来ますか?」(平均80人ほど)。
 「1番売れる料理はなんですか?」(ロースのとんかつ)など。
 2年生なので、内容も簡潔に、身近でやさしい説明を心掛けた。グループによっては、たった1人が代表であったり、全員が順番に質問をしたりと、個性あふれる元気な児童が多かった。

 後日、担任の先生から、児童の感想が届けられた。「とてもおいししそうで食べたくなりました。かぞくで食べに行きたいと思います。」「つかっているあぶらのかくしあじをおしえてくれてありがとうございました。」「なまの肉を見せてくれてありがとうございます。」「わたしはソースが3つあることがびっくりしました。」「とんかつはこむぎこで肉をつつむのをはじめて知りました。」「メニューがいっぱいあってすごかったです。」「またおみせにいきたいです。がんばってください。」
 将来のお客様であり、どの児童にも熱心に対応した。実際、その言葉通り、何人かは、お父さんやお母さんを連れて、満面の笑みで、食事に来てくれた。



 10月5日発行された、京都商店街振興組合連合会が毎月発行する「商店街ニュース」という新聞の取材を9月に受け、記事掲載された。
 都内商店街・商連を中心に、全国の都道府県振連、行政、商工団体を対象に「商店街の情報共有化」目的で作っている新聞だそうだ。
 2月の「若手商人研究発表会」での僕の事例発表を会場で記者の方が聞いていてくれて、商店街はもちろん「店」に「お客さま」にしっかり向き合っているとの印象を持ってくれた上での取材依頼だった。
 この「商店街ニュース」は一般には配布されないものなので、記者の河合さんのご好意で、今回この連載に引用させていただけることになった。
 内容は以下。都振連月刊紙「商店街ニュース」第986号より。

     
 

店からつなぐ街と人   きたまち(振)理事 若山太郎(わかやまたろう)氏

 東武練馬駅南口近く、二商店街の境に位置する「とんかつ まるとし」店頭には、「わくわくポイント(きたまち商店街)、かるがもポイント(ニュー北町商店街)をダブルで提供します」。今春より、ニュー北町商店街理事も兼務して、「きたまち商店街の打ち水イベントを今年は二商店街合同で実施できた」と笑顔の若山さんだ。
 大手カード会社のサラリーマンから一転、婦人の実家である店に入って十五年。店主となった五年前より徐々にメニューの多様化・高付加価値化を図り、タラバガニや青森産健康豚など本格こだわり素材を次々に導入。同時に段階的に、仕入先の選別や箸袋の見直しなどのコスト削減策も実施。低迷していた売上げ・利益をともに上昇基調へと転換させ、「七十種類にまで倍増したメニューの仕込みに毎日夜中までかかりっきり」との嬉しい悲鳴だ。
 こうした着実な“実践”を支えるカナメのひとつが、地道に続けてきた“理論”のバックグラウンド。多忙な業務の合間を縫って、通信制コースで慶応義塾大学経済学部および日本大学大学院総合社会情報研究科を修了。イトーヨーカ堂やダイエー、セブンイレブンや米ウォルマートなどをテーマとしてきた研究肌の一面も併せ持つ。区主催の商人塾や都の若手商人研究会にも継続的に参加しており、こうして培った大学関係者や商店主との人的ネットワークが貴重な財産となっている。

 「地元商店主同士が交流してそれぞれの店を活性化させることは、ひいては商店街や地域コミュニティの活性化につながるはず」。昨年末には、そんな思いを共有する区内商店街若手に呼びかけて「練馬商人会」も発足させた。”理論”、”実践”の両建てで活動の幅を広げ続ける、若きリーダー発の商店街活性化策にぜひ注目したい。
 店内には地元祭り風景からマラソン記録証、歌手のグッズ・コーナーまで。「店情報はお客さんが発信してくれる」

 
     

 今まで僕が試行錯誤をしながら、辿ってきたことを限られたスペースの中、コンパクトにまとめてくれた記事だ。
 お客様はもちろん、妻や子供たち、親父さんやパートのお姉さん、僕の友人、仕入先の方々から、研究科の先生方やОBの方々、区や都の気さくな職員の方や先生方、お世話になっている商店街のすべての皆さんや「練馬商人会」の仲間など、数え切れない多くの支えによって、僕の今がある。だからこそ、明日も頑張れる。

 以下、次号。

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