今年の米国自動車販売と将来動向予測

                       国際情報専攻 6期生・修了 森田喜芳


 1.今年(2006年)10月までのアメリカの販売台数と今後の予測を見てみよう。

 メーカー
販売台数(単位千台)
 シェア     *Cars&Trucks
GM
3486
 25%
Ford
2503
 18%
トヨタ
2118
 15%
Chrysler
1788
 13%
ホンダ 
1271
  9%
小計
11166
 80%
(データ:Auto Front 2000-11-06 Us frontline news)

 以上の5社は今年の10カ月で、100万台以上販売した会社であり、アメリカ全体のシェアを80%占めている。尚、50万台以上販売したニッサン(851千台)を加えるとアメリカ全体のシェアは、86%になる。さらに、アジアのビッグ・フォー(4)に入るHyundai=現代(390千台)を加えると、シェアはなんと89%に達する。
 以上から、アメリカ全体の自動車の販売台数の約90%は、上位7社に占められていると言える。すなわち、従来の米自動車3社(ビッグスリー)と、アジアのビッグ4(トヨタ、ホンダ、ニッサン、Hyundai)である。言い換えれば、アメリカの3社と、日本と、韓国メーカーにより、アメリカ市場を占拠していることになる。
 またビッグスリーにおけるディーラー在庫がさらなる減産につながり、来年度生産及び利益に影響を及ぼすとの懸念が広がっている。
 ウォール・ストリート・ジャーナルによると、すでにアナリストの多くは、住宅市場の低迷や景気の鈍化を受けて、米自動車販売は減少すると予想している。GM、フォード、ダイムラークライスラーの3社は、これまでもガソリン価格や生産コストの上昇や、トヨタなどの競合モデルの人気の伸びなどにより打撃を受けているが、在庫が増えればさらに生産の縮小を強いられ、売り上げに響く可能性がある。
 自動車メーカーはディーラーで販売された台数ではなく、生産台数を売り上げとして計上しているが、在庫が増えればディーラーは新車の受け入れに消極的になるため、生産を縮小せざるを得なくなる。
 バンク・オブ・アメリカのアナリストは「ビッグスリーは2007年上半期に全体で生産を約8%縮小する」と見ている。米メーカーはこれまでも在庫レベルが多すぎた事を認識している。フォードとクライスラーは、現在進めている生産縮小によって年内に在庫レベルは許容範囲まで下がるとみている。米メーカーの在庫保有期間はGMで76日、フォードは75日、クライスラーは82日である。一方、トヨタはわずか26日にとどまっている。
 来年度以降もアジアのビッグ4を中心としたシェアが更に伸びるのではないかと考えられる。その理由の一つは、ガソリン価格の高騰である。二つ目は、環境問題への対応である(詳細については後述する)。

 私が初めてアメリカに駐在したころの1980年代は、ビッグスリーで、約93%以上のシェアであった。そのうち、GMが53%、フォードが27%、クライスラーが13%であり、その他の7%は欧米とアジアのメーカーであった。
 現在の状況をみると、隔世の感である。当時は、この中西部では日本車で走っているのは、たいへん珍しく、またなんとなく肩身の狭い感じがしました。そのころ私は、商売がら時々デトロイトに来ることがあったが、オートモービルの町デトロイトではほとんど日本車は走っておらず、ビッグスリーの天下であった。

2.一方、収益を見ていると、ビッグスリーと、日本のビッグスリーの各社の明暗がくっきりと浮かびあがってくる。

ビッグスリーの7−9期決算(3ヶ月)  *ダイムラークライスラーはユーロで発表。
 メーカー
売上高 
 収益
GM
$488億2千万
 −$9100万  米市場の販売減少
Ford
 
 −$58億   米市場の大型車不振
Chrysler
 
 −11億6千ユーロ 米市場の販売不振
(データ:GM=日本経済新聞11月7日、FORD=日本経済新聞10月23日
     ダイムラークライスラー=Auto Front 2000-10-27 Us frontline news)

日系ビッグスリーの9月中間決算(6ヶ月)
 メーカー
売上高 
 収益
 トヨタ
11兆4700億円 
 +1兆930億円 利益は3割弱を北米で
ニッサン
4兆5344億円
 +3486億円   北米販売不振
ホンダ
5兆2306億円
 +3965億円   北米販売堅調
(データ:日本経済新聞11月7日、自動車メーカー中間決算一覧 ”連結ベース”)
 北米の販売台数の影響が、そのまま売上高および収益に現れた結果である。したがって、今後ますます上記のような収益の明暗が広がることを予測される。


3.今後の最大の課題は環境対応である。

今後の自動車産業において最大の課題は、環境問題とそれに伴う燃費向上である。並行して、ガソリン価格の高騰も環境問題の追い風となっている。その環境問題の対応としては、主として、以下の三つが現在の主力と見られている。

(1) ハイブリッド車
 ご存知のように、ガソリン+バッテリーを動力源として開発された車である。
 北米では、トヨタが圧倒的に先行しておりホンダが続いている。乗用車以外では、フォードも生産販売している。
 トヨタはケンタッキー工場で、中型セダンのカムリのハイブリッド車の生産を始めた。日本メーカーがガソリンエンジンと電気モーターを併用するハイブリッド車を米国で生産するのは初めてである。当初は月4000台を製造する。燃費と環境向上するハイブリッド車の販売台数が世界トップのトヨタは、世界最大の市場で現地生産し他の追従を許さない構えだ。

(2) ディーゼル車
 軽油を燃料として走るディーゼル車は、欧米が先行しており、現在欧米の販売の45%がディーゼル車である。ここにきてアメリカでも、ディーゼル車の見直しが図られてきた。

(3) エタノール車
 ガソリンとエタノールを併用できる車を「フレックス燃料車」という。
 これはブラジルが先鞭をつけた燃料車であり、ブラジルは世界最大のエタノール生産国である。原油の高騰に伴い、世界最大の生産量を誇るさとうきびから作るエタノールが使えるフレックス車の人気が高まっており、欧米メーカーが次々とフレックス市場に参入、新車販売に占める割合は現在80%近くに上がっているが、燃料効率を追求してきた日本メーカーは大きく出遅れていた。
 日本車のホンダは、ブラジルでフレックス燃料車を今年中に販売をする予定である。車種はフィットとシビックでサンパウロ州のスマナ工場で生産する。一方、トヨタは来年上半期にブラジルにフレックス車を投入すると言明、車種は現地生産しているカローラになるとの事である。


4.今後の予測

・ハイブリッド車とディーゼル車
 著名アナリストのフィリップ・ゴッチ氏は当初、2025年までにあらゆる車種のハイブリッド車が自動車市場の最大90%を占めると予測していたが、このほど明らかにした報告書では、12%から15%、世界市場でも12%未満と修正した。ハイブリッド車は現在、米国で2%未満にとどまっている。
 背景には、市街地とハイウェーでの走行時の違いがあり、例えばトヨタのプリウスは市街地で、1ガロンあたり60マイルでありながら、ハイウェーでは51マイルとされている。ゴッチ氏によると、ハイブリッドの大半は燃料効率において、ガソリン車にも25%から30%優れてはいるが、それだけでは割高なハイブリッドの購入を決める。決定的な要因とはならない(従来のハイブリッド車は現在、ガソリン車より以前から4000ドル割高だが、ガソリン代を3ドルで、年に1万2000マイル走ると計算すると、3年ほどで元が取れることになる)。
 一方で、かつては汚くて臭うことで知られていたディーゼルが清浄化されてきている。ゴッチ氏は、新たに開発された排ガス抑制技術によってディーゼルの燃費性能が一層高まると見ている。特に、ディーゼル・エンジンの場合は、欧州で長年同様な奨励されてきたため、市場がより早く拡大する可能性がある。
 ゴッチ氏は、欧州で販売される乗用車の約45%、米国では3%未満のディーゼルが、向こう20年で同65%、12%に達すると予測している。ハイブリッドに最も力を入れて得るトヨタは、販売台数が増えれば、値下げに踏み切ると説明している。

・エタノール車
 自動車各社が植物を燃料とするバイオ、エタノール燃料への対応が進められている。
 二酸化炭素量を増やさずに、地球温暖化対策に有効な上、石油代替燃料としても注目されている。各社はエタノール、最大生産国のブラジルや普及に力を入れている米国などで、対応車を積極的に投入する。

 新車の8割がエタノール車というブラジルでは、ホンダが年内にエタノール100%、燃料に対応した小型車の発売を行う。トヨタ自動車も来春投入する予定である。
 米国では、GMやフォードなどビッグスリーが、2010年までにエタノール車の生産を現在の倍の200万台に増やす計画を表明した。ハイブリッド車で、環境をリードするトヨタは、ガソリンにエタノールを85%混合した燃料に対応する車を近く導入し、米国勢を追撃する。

 国内では、今月、ガソリン年間消費量の1割に当たる600万キロリットルを、バイオエタノール燃料に転換する案が政府内で浮上した。ただ、メーカー側は「ニーズがあっても、燃料供給インフラがないと需要が伸びない。」(大手メーカー)と冷静で、海外と比べ慎重な出足になりそうだ。(時事)
 日系メーカーのエタノール車開発の状況は、USAトゥデイによると、ニッサンは2005年12月、エタノールを85%。ガソリンを15%混合した代替燃料「E85」で走るフレックス燃料車第一号として、ピックアップトラックの「タイタン」を発表した。販売地域は中西部のみで、価格はガソリン車と同じである。
 トヨタは、中西部でピックアップトラック「タンドラ」のフレックス燃料車を販売することを検討している。米国部門のジム・プレス社長は、「外国石油家の依存度を軽減するという意味で、エタノール車を支持している。しかし供給量が少なく、エタノールの多くはトウモロコシから作られているため、燃料と食料との競合では、食料が、勝つことになる。」と話した。
 ホンダはこのほど、食料に使われない植物を利用したエタノールの製造技術を開発したと発表した。同社は現在米国で、フレックス燃料車を販売してない。しかし、来年からエタノールのみの使用が義務づけられている予定のレース競技「インディ・レーシング・リーグ(IRL)」向けにエンジンを供給するため、エタノール車の開発に拍車がかかる可能性がある。エタノール推進情報委員会(EPIC)のトム・スラネッカ事務局長は、「このリーグは今日の自動車の実験台と知られてきた。」と話した。
 これまで国内で生産された約600万台のフレックス燃料車の多くは、GM、フォード、ダイムラークライスラー製。日本製が増えれば、「E85」の補給所の建設が促進される可能性が高い。
 国内にある補給所は現在、ユーザーの工場が密集する中西部を中心に971カ所にとどまっている。トヨタとホンダはこれまで省エネ自動車として、ガソリン車と電気を併合されたハイブリッド車に焦点を置いていたが、フレックス燃料車は、エタノール車の人気高騰に対応できる。  




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