「東武練馬まるとし物語 第三部」

 その二 「輝かしい夏」

国際情報専攻 3期生・修了 若山 太郎

 

 今年の夏も忙しい毎日だった。

 「まるとし」がある練馬区北町は、3つの商店街が旧川越街道沿いに長く続いている。
 この街は、懐かしい味、驚きの値段、とびっきりの笑顔、おもちゃ箱をひっくり返したような楽しさで、時間がたつのを忘れてしまいそうになる。
 近隣の方々は、商店街より、近くのスーパーの便利さに目がいっているかのようにみえる。駅前の人の流れが、今も逆に向いているからである。
 でも、僕は、ここ数年、実際に買い物や、妻と2人でいろいろな店を食べ歩いたりすることで、専門店が軒を並べている商店街の魅力を素直に感じている。
 僕が店に行けば、顔見知りであり、店の方は、心からの笑顔で迎えてくれるし、その数日後には、逆に直接食事にみえられたり、出前を頼まれるなど、気持ちのキャッチボールが生まれる。とにかく、街には温かさがある。

 そんな中、5月、お話があり、隣の商店街の理事に就任、今年から2つの商店街の理事を兼任することになった。
  隣の商店街というと、ニュー北町商店街のことで、理事長は、練馬商人会の仲間・伊勢屋岡本製菓支店の岡本さん、今回改選で2期目を受けるにあたって、北町の3つの商店街にコミュニケーションをと、きたまち商店街から僕が、そして、北一商店街から岡本さんのお兄さんが理事に呼ばれた。
  このことは、僕が練馬商人会を作った目的の一つでもあった。立場的に、岡本さんがそれを今回実践しようと動いてくれた。今まで商店街同士が交流できなかったことを、今後少しずつ、新しい関係作りができればと実現したものだ。僕もそれに協力できれば、と思っている。

 北町では、7月最後の土曜日(29日)に恒例の「きたまち阿波踊り」が実施された。今年で14回目となり、当日は7万人の方々が来られる地域最大のイベントである。
 毎年のことなのだけれど、きたまち商店街ではこのイベントの準備に、通りに飾ってある提灯の数に合わせて、店ごとに理事が手分けして、阿波踊りのうちわを配る。配る数は2000枚ほどで、当日配る500枚も別にある。うちわを作った数はその倍の5000枚で、残りの半分は、ニュー北町商店街でも同様に配られる。
 そのうちわの表には、去年、長女の写真が中心に大きく載り、今年のうちわの裏には、三女が写っていた。
 僕は去年からこの阿波踊りの会計を担当している。

 当日は、地元のじゃじゃ馬連に参加する娘に、スタッフとして付き添った。4年前から、このイベントには関わっていることになる。
 「きたまち阿波踊り」について、今まで何度か詳しく書いた。お忘れの方は、振り返ってもらえればと思う(第9号・第13号・第17号参照)。

 今年は天候にも恵まれ、事故もなく、連の進行も時間通りスムーズにいった。
第14回きたまち阿波踊り  阿波踊りの翌日、常連のお客様が、本部席近くで、すべての連の踊りの模様を撮影し、編集したDVDを2枚いただいた。
 運営に関わるスタッフは、実際の踊りを観ることはできない。お陰で、初めて、「きたまち阿波踊り」を観客のように、楽しむことができた。
 「まだ編集したDVDは自分では観ていないけれど」とおっしゃって真っ先に僕に持ってきて下さった。とてもうれしかった。
 また、翌月、次女にも大きなご褒美が待っていた。それは、阿波踊りの普及と発展を目的とした情報誌、「あわだま」2006年8月号掲載「第2回あわだま☆キッズ写真コンテスト」で、次女がキュートスマイル賞を受賞したことだ。
 「あわだま」は、阿波踊り期間限定で発行され、発行部数は50,000部ほど、阿波踊りの本場徳島をはじめ、全国の阿波踊り大会で無料配布されているものである。

 次に、昨年の「きたまち打ち水大作戦」について振り返ってみる。
  真夏の気温を下げ、ヒートアイランド対策から地球温暖化対策にもつながる打ち水は、誰でも手軽に実行できる環境活動として年々注目度を増している。
 昨年、商店街全体を盛り上げようと、友人から打ち水のことを聞いたことで僕が企画し、きたまち商店街の理事会で提案、承認され、「きたまち打ち水大作戦」が実現した。
 毎年「きたまち阿波踊り」が終わった後、静かになってしまうこの商店街に、何かしらもう一つ、お金のかからないようなイベントをしたいと考えていた。
 意見が通った要因は、費用や各店の負担がほとんどかからないのに、対外的に商店街のアピールができ、商店間や地域の方々とのコミュニケーションが期待できるという点が大きかったと思う。
 また、理事になってから、毎月の理事会参加はもちろん、各種のイベントに欠かさずその準備から運営に関わり、一つ一つ小さな仕事をこなした実績が認められたからかもしれない。
 初めてのことで、先の見えない中、予算もなく、実行委員会もなく、実質1人で始めた大作戦。商店街の一店一店に声をかけ、近くの寺に頼んでひしゃくを集め、ポスターに手書きで開催日時を記入して、開催までこぎつけた。

 「第1回きたまち打ち水大作戦」は、水つながりということで、8月17日の水曜日から24日の水曜日の8日間、1日朝と夕方2回、各店舗の前で一斉に打ち水。初日こそ参加人数は少なかったものの、ニュー北町商店街の方々も協力してくれ、日を追うごとに参加店数は増えて行った。
 最終日には、小池百合子環境大臣もゲストで飛び入り参加され、僕も発案者として呼ばれ、小池環境大臣と並んで打ち水をした。
 選挙前ということで、多くのマスコミの方が来られていた。この時の模様は、イベントが終わった数時間後に、テレビ番組(日本テレビ『ザ・ワイド』)で報道されていた。
 とにかく、この打ち水を各店にやってもらうための声かけに日々追われ、商店街では、1人で動き回っていたので、この期間だけで1足サンダルがだめになった。
  急遽買いに行った打ち水音頭のCDを午後に商店街放送で流すようになって、この曲がかかると、店の方が打ち水をしようという雰囲気になり、少しずつ浸透していった。
 通行人に「お陰で涼しくなったよ」と声をかけられることもあった。

 そして、今年の「きたまち打ち水大作戦」について。
 理事になったこともあり、ニュー北町商店街の理事会で、あらためて正式に企画書を提出、承認され、去年は一部の店だけだったのが、今年から正式に「きたまち打ち水大作戦」にきたまち商店街と並んで、ニュー北町商店街全体も参加することになった。
 今年練馬区では、「環境都市練馬区宣言」が8月1日に施行され、関連イベントとして、当日の午後1時に区役所正面玄関で打ち水を実施、その日の夜には、記念式典が練馬区文化センターで行われた。
 「第2回きたまち打ち水大作戦」は、その翌日の2日(水)から9日(水)までの8日間に実施され、好評を得た昨年の取り組みに続き、今年はより旬なイベントとなった。
 この期間、きたまち商店街のコミュニティーセンターの掲示板に、去年撮影した打ち水の写真を使って「ミニきたまち打ち水写真展」を実施した。といって、写真につける短いコメントは手書きで作るささやかなもの。来街者というより、打ち水をしてもらう方のモチベーションを少しでも上げようと考えからだ。
 今年は2日目、8月3日に、昨年に続いて小池環境大臣が参加。浴衣を着た3人の僕の子供たちと並んで、商店街の多くの方々と一緒に打ち水を行った。
 地域の子育て中の親子が気軽に集まり、情報交換や交流を深め、お互い支えあう、「NPO北町大家族・かるがも親子の家」の子供たちも、一緒に打ち水をしてくれた。
第2回きたまち打ち水大作戦 後日、「まるとし」の店外に飾ってある、小池環境大臣と子供たちの写真を見て、「ぜひこの写真を記念に欲しい」と店の前で掃除していた妻に声をかけるお母さんがいた。もちろん、喜んで、その写真を焼増し、差し上げた。

 打ち水は一斉に行うことで、より高い効果を得られるもの。今年の「きたまち打ち水大作戦」の特徴としては、商店街に加えて、地元の信用金庫、出張所、消防署も参加してくれたこと。
 小池環境大臣が、イベントの時にガンタイプの放射温度計で道路の表面温度をその場で測った。打ち水をしたことで、60℃から5℃も下がったという。
 もともと、商店街には隣近所が協力して何かをなしとげるという底力がある。そこに、根気強く声をかけまわったことや、打ち水が買い物客や住民同士の会話のきっかけとなったことが取り組みをじわりじわりと広げていったのだと思う。
 打ち水は、ヒートアイランド現象対策としてだけではなく、地域が一体となって取り組み、コミュニティの活性化を目指している。来年以降も気を抜かず、このイベントを大事に継続して実施していきたい。

 商店街のイベント以外でも、7月7日(金)〜8月7日(月) の「七夕ちがや馬祭り」へ「まるとし」は参加した。
 この祭りは大学生が企画したもので、練馬区の一部の協力店や施設で、その大学生自身が、「ちがや馬飾り」をその店内や店外に飾りつけ、区民の方に知ってもらおうと実施されたもの。

 6月、何でもチャレンジしてみるという僕の噂を聞きつけた、実行委員長の嘉藤さんから、企画概要書をもらい、「まるとし」でも「ちがや馬」にちなんだ商品の開発を依頼された。
 練馬区内の農家で、旧暦の七夕に「ちがや馬」を飾り、五穀豊穣と無病息災を願う習わしを伝えたい、というその意志に今回賛同した。

 「ちがや馬」について、少し説明をしたい。(「七夕ちがや祭りホームページ」より)
ちがや馬  『「ちがや馬」とは、文字通り「ちがや」というイネ科の植物を使った馬。歴史に登場する東京・埼玉付近のエリア、武蔵国の農家に伝わる伝統的な風習であったとされ、都市化・商業化の進んだ昨今では農家も減ってしまい、材料となる「ちがや」を見かけることが難しくなってきている。農家は旧暦を用いて農作物を栽培していたため、七夕の行事も旧暦の七夕(現在の8月7日前後)に行っていた。その際に「ちがや馬」を飾り、五穀豊穣と無病息災を祈っていた。「ちがや馬」は雄と雌の2頭で1対となっている。頭の部分が下を向いている方が雌で、上を向いている方が雄。  』

 試行錯誤の末、「まるとし」がこの期間限定で販売する商品は、「ちがやコロッケ定食」850円(別盛で、かごの上に野菜サラダ付)。「ちがや」の穂をクリームコロッケとポテトコロッケ、葉をみず菜、茎を春雨で表現したもの。
 本来であれば、「ちがや馬」の形の商品ならわかりやすかったかもしれない。「ちがや馬」のもとの「ちがや」そのものも知られていないので、このような商品もあってもいいのではないかと実現させた。
 「まるとし」以外、練馬商人会の仲間の洋菓子店「ナカタヤ」も参加された。

 最後に、5月31日、「まるとし」は、練馬区食品衛生協会より食品衛生優良施設と表彰された。長年、真面目に店を続けて営業してきたことが認められたのだと思う。

 

 以下、次号。

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