大塚国際美術館 人間科学専攻 6期生・修了 柏田三千代 |
『大塚国際美術館』は、徳島県鳴門市の瀬戸内海鳴門海峡「渦潮」の程近い場所に、大塚製薬グループ創立75周年記念事業として設立されました。この施設は地下3階から地上2階までの延床面積29.412uの常設展示スペースに世界25ヶ国、古代壁画から現代絵画までの西洋名画1.000余点を特殊技術を使い、オリジナル作品と同じ大きさに<陶板名画>として再現しています。あまり耳慣れない<陶板名画>ですが<陶板名画>は、原画の色を分解したものを転写紙に印刷し、鳴門海峡の白砂で作られた陶板に転写して焼成します。その後、レタッチされ再び焼成、検品を経て陶板名画が完成されます。また、この<陶板名画>は1300度で焼成されるため、2000年を経ても色あせることはありません。ここに「真実の姿を永遠に伝えたい、後世への遺産として保存していきたい」という陶板名画美術館設立の願いがこめられています。そして、特徴ある施設内の展示方法は、環境空間をそのままに再現した「環境展示」、西洋美術の変遷が美術史的に理解出来るような「系統展示」、人間にとって根源的・普遍的主題を画いた古今の画家の作品を比較できる「テーマ展示」に分けられています。
環境展示鳥占い師の墓/タルクィニア、イタリア 秘儀の間/ポンペイ、イタリア 貝殻のヴィーナスの家壁画/ポンペイ、イタリア 聖テオドール聖堂壁画/カッパドキア、トルコ 聖マルタン聖堂壁画/ノアン=ヴィック、フランス 聖ニコラオス・オルファノス聖堂壁画/テサロニキ、ギリシャ スクロヴェーニ礼拝堂壁画/パドヴァ、イタリア システィーナ礼拝堂天井画および壁画・ミケランジェロ「天地創造」「最後の審判」/ヴァティカン エル・グレコ祭壇衝立復元(ドーニャ・マリア・デ・アラゴン学院)/プラド美術館、スペイン/ルーマニア国立美術館 モネの大睡蓮/オランジュリー美術館、フランス ゴヤの家「黒い絵」/プラド美術館、スペイン ストゥディオーロ(書斎)/パラッツォ・ドゥカーレ、ウルビーノ、イタリア
系統展示古代/ギリシャの壷絵、ポンペイの壁画、モザイク画など約130点 中世/イコン、聖堂の壁画など約100点 ルネサンス/ボッティチェッリ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ラファエッロなど約140点 バロック/レンブラント、ベラスケス、ゴヤなど約120点 近代/ターナー、ミレー、ルノワール、ゴッホ、セザンヌ、ゴーギャン、ムンクなど約330点 現代/ピカソ、ミロ、ダリなど約100点
テーマ展示空間表現、トロンプ・ルイユ(騙し絵)、時、生と死、食卓の情景、家族、運命の女、レンブラントの自画像
『大塚国際美術館』の正面玄関を通りエスカレーターを上がると、まず目に飛び込んで来るのが、システィーナ・ホールです。ミケランジェロ(1475-1564)が画いた「天地創造」(フレスコ/3255×670cm)、「最後の審判」(フレスコ/1463×1338cm)の素晴らしさやホールの大きさには驚きました。そして、ジョット(1267頃-1337)のスクロヴェーニ礼拝堂壁画(間口841×奥行2029×高1265cm)はホール全体に画かれています。また、その壁画はゆっくりと椅子 に座りながら鑑賞できるように配慮されています。最近話題となった映画「ダ・ヴィンチ・コード」に紹介されていたレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)の「最後の晩餐」(テンペラ 壁画/420×910cm)もあり、修復前と修復後が展示されています。美術館でも「ダ・ヴィンチ・コードツアー」が企画され、小説「ダ・ヴィンチ・コード」の物語を絡めながら、登場する絵画12作品を解説しています。
『大塚国際美術館』の施設の広さや<陶板名画>の多さは、ゆっくりと鑑賞していては一日では回りきれない程です。また、私は以前にイタリアを旅行した際に多くの絵画を鑑賞しましたが、<陶板名画>はそのオリジナル作品との違いを感じさせません。そのような美術館を回っていると、ある会話が聞こえて来ました。外見から推測すると70歳前後の御夫婦とその娘のようでした。娘が父親に「お父さん、この絵が好きだったの。知らなかった。じゃ、その絵の横に立って。写真を撮ってあげる。」と言うと、父親は真面目な表情で絵画の横に立ち、娘が絵画と父親の写真を撮っている微笑ましい光景がありました。
『大塚国際美術館』の数多くの<陶板名画>な中で、私が一番心を動かされたのがラファエッロ(1483-1520)の「アテネの学堂」(フレスコ 壁画/577×817cm)でした。古代ローマ風の壮大な大建築と彫刻で構成された「哲学」を表した壁画には、中景アーチの下に立つ中心人物として、左にプラトン、右にアリストテレスが画かれています。天を指さしているプラトンは精神世界を意味し、地を指さしているアリストテレスは科学を意味していると解説されていました。この絵画には中心人物であるプラトンとアリストテレスを囲み話を聞いている者たち、一人考えて込んでいる者、本を読んでいる者が画かれており、「時代を超えたその昔には、このように哲学がなされていたのだろうか」と、ずっと絵画を眺めながら考え込んでいました。
『大塚国際美術館』の<陶板名画>を一通り鑑賞し終わった後にミュージアムショップに立ち寄りました。いろいろな商品がある中で小さな<陶板名画>も販売されていたので購入して帰りました。我が家にある“小さな小さな<陶板名画>「アテネの学堂」”は、今、机の上に飾ってあります。
参考資料:大塚美術館 美術館ガイド