「はかせ八ヵ条」 博士後期課程・総合社会情報専攻 1期生・修了 小森正彦 |
「博士課程は苦難のみちである。わたしは、海外出張先の蒸し暑い部屋で、あぶら汗をたらし、腰痛に耐えながら、明け方までパソコンにむかった……」などと書いては、誰も読む気がしない。博士課程もおなじ。ひと様の関心と理解を呼びこまなければならない。特に、当研究科のような場で、ご専門を異にする先生方に、自分のつたない考えを理解していただくのは、至難のわざである。
しかし、偉大なる真実は、驚くほど簡明な形で表現されることが多い。まず自分の考えが、他人に理解してもらえる論理性を具備しているかを自問しなければならない。
1.あたらしいものをつくれ
自分のことを棚上げしていえば、博士論文たるもの、科学に何らかの新たな貢献をすることが必要である。自分の研究が遅れることは、それだけ人類の幸福が先送りになる、くらいの心構えが必要だそうである。私の前に道はない、私の後に道はできる……社会科学であれば、研究内容が社会に役立たなければならない。
2.あしで書け
恩師のいわれるとおり、調査は足、情報はコネ、である。現場をみて、生の声をきき、五感でかんじることが必要である。そうすれば、常識から乖離した机上の空論に陥ることはない。
3.かずをうて
レフェリー制のジャーナルへの掲載は、じつはかなりたいへんである。ベンチャー企業の育成もしかり、数をうたないことにははじまらない。関心のある学会にはいり、勇気をもってどんどん出してみよう。ビギナーズラックがあるかもしれない。
4.失敗からまなべ
しかし、相性悪く、落選することもあろう。そのような時でも、失敗からまなぶことが大事である。
わたしは、ある学会の匿名レフェリーのコメントをもとに、はじめて「こういうことなのか!」と真に理解した経験がある。その表現は厳しかったが、いまでも感謝している。
別の学会でも、何回も何回もコメントをつけられたが、食い下がって懸命に調べ、対応するなかで、論理が明確になっていった。こちらの匿名レフェリーの方々にも、心から感謝している。
5.プレゼンは別しごと
論文を書くだけで大仕事である。しかしそれだけで安心するのは早い。プレゼンは別しごとである。人さまに理解していただくためには、もうひと頑張りが必要だ。米国の友人たちは、内容を丸暗記するほど、繰り返し事前に練習している。
土のついた野菜は、いくら栄養があっても、そのままでは食べられない。食べやすく料理し、食欲をそそるよう盛り付けしてあげなければ、なかなか箸を動かしてもらえない。
ポイントをしぼる。図や写真をつかう。ときに枝葉末節は捨象する。プレゼン準備で論理が明快になれば、論文を再構成するヒントが得られることもある。
6.バックアップを頻繁に
これで泣いた人があとをたたない。ファイルのバックアップを頻繁にとろう。作業中、私の左手はCtrl + Sを数十秒に一回押していた。大容量のフラッシュメモリーも活躍した。
7.決してこわすな、からだとかぞく
いくら仕事と学業の両立が大変でも、からだを壊しては何の意味もない。くれぐれもご自愛を。
8.最後は神だのみ
孔子様をまつる湯島聖堂にはよくお参りした。湯島天神にも足をのばした。何を隠そう、ベトナム・ハノイの文廟にもお参りし、孔子様にお願いをしてきた。人事を尽くして天命を待つようなときには、つかの間のこころのやすらぎが得られる。
皆様のご検討をお祈り申し上げます。