「博士課程を終えた今」

博士後期課程・総合社会情報専攻 1期生・修了 阿部 薫 

 本大学院開学と同時に修士1期生として人間科学専攻に入学し、博士課程ができるまでの2年間のブランクを経て、また博士1期生として再入学(?)致しました。どちらも宮本晃教授に師事し、お陰様でこの3月に修了させていただくことができました。主査の宮本先生、副査の佐々木先生と荒関先生に衷心よりお礼申し上げます。   
 さて「博士論文奮戦記」を書くようにとの強力なるご依頼を受け、これから進学される方や在学中の方の参考になる……かどうかわかりませんが、とにかく私の経験を紹介致します。   
 本大学院の学生は社会人であり、本業を持ちながら並行して勉強されている方ばかりでしょう。私も毎日往復4時間近くも電車に乗って通勤している普通のサラリーマンで、いかに勉強時間を捻出するかと苦労しておりました。結論的には睡眠時間を削るしかなく、レポートや論文作成時期には自律神経失調症的状態となりました。研究テーマと現職は全く関係のない分野であったため、会社の理解や協力は期待できず、勉強の全てはプライベート時間を費やすことになりました。したがって睡眠時間以外のすべてを博士号取得に向けて使えるよう生活を構築し、まずは娯楽のために時間を使わないとルールを決めました。例えば「テレビ、新聞、本などを見ない」「旅行、レジャー、帰省をしない」「酒席、歓送迎会、冠婚葬祭には出席しない」といった日常行動のルールと、「電車の中では寝ないで文献を読む」「待ち時間(駅ホームや赤信号など)に文献を読む」「朝刊が配達されてから寝る」「体調が悪いときでも3時前には寝ない」といった時間的ルールを守るようにしました。そして家族の協力と理解なしには到底無理な話なので、信頼関係が最も重要でしょう。   
 さて博士論文を提出するには、在学中(3年次の10月末まで)に原著2本か紀要5本以上がアクセプトされていなければならないという条件があります。博士課程入学以前の論文はカウントされませんので、最終的には在学中に5本の投稿論文を書きました。また「博士なんだから英語の論文の一つや二つなくてどうするんだ。」と叱咤激励を受けて、呻吟しながら2本仕上げました。ハッキリ言って学位論文よりもきつかったですね。私は中学生時代から英語がダメで……しかしもうやるしかないと腹をくくって取りかかりましたが最初はチンプンカンプンで、「ターヘル・アナトミアに取り組んでいた杉田玄白はもっと大変だったんだろうな」と急に親近感が沸いてきたりしましたね。   
 人それぞれに状況や環境は異なりますが、私が一つアドバイスするならば、「目標達成を強く願う」ということです。そのためには今何をするべきかと考えを巡らせば、勉強を含めた生活全般のベストな選択がなされるものと信じています。博士号を取得しても私のサラリーマン生活は変わりませんし、サービス残業も変わりません(笑)。しかしとても心地よい達成感があります。今はテレビを見ることもできますし、好きな本も読むことができます。こんな当たり前の生活がキラキラして見えるようになり、修験者か解脱者のように感謝感謝の日々を送っています。これも博士課程という社会から隔絶された山ごもり修業(?)の賜物です。   
 これらは私の場合であって、他の方に当てはまらないとは思いますが、さあ皆さん、どうですか。それでも博士課程に入ったほうがいいですよ。たぶん。

 

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