「人生の宝箱」

人間科学専攻 新田 勝枝 

  大学院で学んだ2年間は私にとって人生の宝箱のような貴重な期間でした。30年以上前の大学生時代から哲学を学びたいと望み、また、これまで人間に関して秘かに抱いてきた様々な疑問に対する答えは、専攻した人間科学の中で見つけることができました。

  例えば、強い自意識で悩んでいた20代のころ、遠藤周作の著書に「講演の後には自意識で苦しみ、悶々として眠れないことが度々ある」という文言をみつけ安心したことを覚えていますが、人にはなぜ自意識があるのか、自意識とは何かということの答えは、大学院で学ぶまで見つけることができませんでした。

  さらに、読書が最大の楽しみである私は、大学院で学ぶ2年間、私的な読書はぜったいにしないと悲壮な決意をし、学生生活に必要な読書に徹しましたが、必要な読書もまた楽しく、非常に満足度の高いものでした。そこには常に発見と感動があり、知的好奇心が刺激されました。後には、レポート執筆という苦しみが待っていましたが、その苦しみもまた、教授陣の丁寧な指導の下、「書き上げた」という達成感を得る源となりました。

  そして、丁寧な指導をしてくださった教授陣は、30年前は非常に遠い存在でしたが、院生になってからはとてもフレンドリーで、愚問にも丁寧に答えてくださるたいへん近しい存在でした。メールを通して届く言葉は常に優しく語りかけ、お会いしてお話するよりも心が通い合うような気がしました。指導教授とのゼミ後の酒席はまるで同窓のような雰囲気で、これもまた楽しみのひとつでした。

  このように宝箱の中には社会人生活では得られない彩り豊かな宝石がたくさん入っていますが、この時期に励ましあった学友たちとの出会いもまた大きな収穫でした。真夜中過ぎの電話とインターネットを使ったやりとりは、遠く離れていても目的をひとつにして取り組む強さと勇気、励ましをくれました。

  大学院で学んだことは今後、社会に還元していかなければなりませんが、指導教授である眞邉一近教授の「修了は研究者としての入り口」という言葉を心に刻み、これからも自己研鑽を重ね、より多くの人に役立つよう努めていきたいと考えています。  

 

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