「研究活動の原点」

文化情報専攻 清水利宏  

 

◇ はじめに
 この2年間の修士課程を振り返り、これから修士論文を執筆しようとする皆さんに、私からお伝えできることがあるとすれば、それは「原点の大切さ」だと思います。原点とは、大学院での研究を志した時の初心であり、スタート地点で掲げられた研究目標を意味します。「何のために、研究をするのか」。それは人それぞれ異なって当然ですが、自分自身の研究目標やその社会的意義を強く意識できるほど、日々の研究や執筆活動がスムーズに進むように感じます。ここでは、これから修士論文の執筆を目指す方々へのアドバイスとして、いくつかの私見を述べたいと思います。

◇ 原点の大切さ
  修士課程で研究をされる皆さんは、当然ながら(私自身もそうであったように)修士論文を書くのは初めてのことでしょう。最初は、未知の課題に圧倒される不安もあるかと思います。あるいは気負いに似た情熱を抱くことがあるかもしれません。そんな時は、まず心を中立にして、ご自身の原点である初心や研究目標について、和やかな雰囲気のもとで指導教授とお話をされることをお勧めしたいと思います。指導教授との何気ない会話の中から、修士論文執筆のための重要なヒントが得られることは珍しくありません。また、修士論文という「未知の壁」に不安を覚えた際には、最寄りの大学図書館等で、実際の修士論文や紀要論文に“広く浅く”触れられることをお勧めします。それにより、これから執筆しようとする「完成品の概観図」がイメージでき、未知なるものへの不安が和らぐのではないかと思います。本研究科の学生証を持ち、研究生として他大学の図書館を訪問するのは、とても貴重な刺激になるはずです。ちなみに、私にとっての「原点」は、ヘアスタイリスト(理容師・美容師)のためのモティベーション本位の実務英語教育を研究することでした。その根底には、自分自身がかつて英語学習を嫌っていた経験から、「英語嫌いな人を救いたい」という思いがありました。そうした私の「研究活動の原点」について、入学当初より、快く意見交換の機会を設けていただいた指導教授には、今も心から感謝をしております。

◇ 履修科目と原点との接点

  履修科目に関しては、1年次になるべく多く(5科目)を選択して見聞を広め、個々の科目内容と、自身の原点との“接点”を意識し続けることが大切だと思います。レポート執筆のための文献研究の際も、修士論文の研究目標を常に念頭に置き、それらの関連性を探る気持ちで臨めば、研究意欲が向上するだけでなく、必然的に独自性や実践性を伴ったレポートに仕上がってゆくのではないでしょうか。もちろん、そうして完成したレポートは、修士研究の一端として、何らかの形で修士論文に織り込むことも可能です。1年次の幅広い科目履修を通じて培った見識は、修士論文の執筆に大きく役立つと思います。

◇ 思い切って忘れてみる
 それでも、修士論文執筆の過程においては、スランプと呼ばれる時期もあろうかと思います。苦境を乗り越える方法は先輩方からの貴重な助言をご参照いただくとして、私はあえて「そんな時はしばらくすべてを忘れてはどうか」とアドバイスをしたいと思います。ひたすらに取り組む執筆活動から距離を置くことで、新鮮な視点や思考力が蘇ってくることがあります。私は2年次の9月に、60ページほど書き進んでいた修士論文の草稿をすべて破棄し、気持ちを完全にリセットする経験をしました。その理由は、執筆中の草稿では自身の原点(研究の目的)が明確に反映されないことに気付いたからでした。締め切りがジリジリと迫る中、論文構成の全面的な見直しを指導教授に相談したのち、約2ヶ月間、私は思い切って執筆作業から離れました。今思えば、ずいぶん危険な賭けだったのかもしれません。大胆なリフレッシュ期間を終えた私は、文字通り心を入れ替えて、これまでに蓄積したデータや文献を“新鮮な判断力”で一気に整理し、みずからの原点である「ヘアスタイリストのための実務英語教育」に特化した“新・修士論文”をゼロから書き上げることができました。その頃、ちょうど年末年始の慌しい時期であったにもかかわらず、指導教授は、80ページ以上にわたる新たな論文を丁寧に添削してくださいました。そのご指導のおかげで、私の修士論文は結果的に、入学時の研究計画書に記した原点に回帰する研究成果に仕上がっていたのです。「迷った時は、研究活動の原点へ戻ること」。これから修士論文を執筆される方々にはぜひ、ご自身の「原点」を常に意識され、“自分だけにしか書くことのできない修士論文”を完成させていただきたいと願っています。

◇ 謝辞
  最後となりましたが、2年間の修士課程を通じ、私を修了へと導いていただいた伊藤典子教授をはじめ、本研究科の先生方に改めて御礼を申し上げます。また、日頃の情報交換を通じ、互いに励ましあってきた同窓生にも、感謝と労いの気持ちを伝えたいと思います。ありがとうございました。

 

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