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前世紀のデジタル通信

    

  国際情報専攻 5期生・修了 坊農 豊彦

   

 先日、ひさしぶりに自宅の物置を整理していると無線機が出てきました。これは短波帯のアマチュア無線機です。私が、この無線機を使っていたのは昭和50年代後半でした。当時はとても性能がよい無線機でしたが、いまでは骨董品 になりました。しかし、とても懐かしい思い出深い無線機です。

短波の電波特性は上空にある電離層と地表を反射して進むので世界各地のアマチュア無線家と交信が可能です。当時、自宅の屋根にアンテナを立て、無線機から「CQ CQ 」と電波を出し、どこの国のアマチュア無線家と交信できるか楽しんでおりました。また「QSLカード」と呼ばれる葉書サイズの交信証を、交信相手と交換 して収集するのも楽しみの一つでした。

        QSLカード

私がアマチュア無線(電話級)の資格を得たのは中学三年生の頃です。時はアマチュア無線ブームで日本のアマチュア無線人口は世界一でした。しかし資格取得者の大半は初心者の電話級です。電話級の次は電信級なのですが、モールス信号を覚え る必要があり、資格取得者も電話級と比べてかなり少なくなります。モールス信号はスイッチONの短点と長点を組み合わせて文字を構成するデジタル信号です。

 モールス通信の歴史は古く1832年、米国の画家であるモールス(Samuel Finley Breese Morse, 1791-1872)によって発明されました。モールスは欧州より帰国の船内で電気 を利用した通信方法のアイデアが浮かび帰国後、画材を利用して電信機の開発に取り掛かりました。電信機の通信方法(プロトコル)は短点と長点を組み合わせて文字にしたもので、これがモ ールス信号です。電信機は1837年には 公開実験に成功して合衆国特許庁から特許の承認を得るまでにいたりました。

 モールス通信は、これまで手紙でやり取りをしていた通信方法と比べて格段にスピードアップしました。電信機の発明は全世界で爆発的に普及したのです。わが国においても明治2年に東京-横浜間で電線が張られてモールス通信が実用化になりました。その後、電信機の改良が重ねられて明治10年の西南の役では、九州の戦況が刻々と伝えられるまでに至りました。

イタリアのマルコニー(Guglielmo Marconi,1874-1937)は無線機を発明して1901年 、無線によるモールス通信で大西洋横断交信を成功させました。モールス通信は無線を用いる事により通信場所と距離を格段に向上させたのです。世界で最初に無線機を実用化したのは日本海軍でした。1905年、日本海海戦で宮古島沖を北上するバルチック艦隊を発見した 「信濃丸」は艦船ネットワークにて「三笠」へ「タタタタ」(敵艦隊見ゆ)とモールス信号を送ったことは有名です。 

このように19-20世紀、モールス通信は世界の歴史に大きな影響を与えましたが、コンピュータによるデジタル通信の発達により21世紀では、ほとんど使われなくなりました。原因はやはり、新 しいデジタル通信の方が格段に情報量の転送速度がスピードアップされたことです。現在は電信機がコンピュータになり、モールス信号がTCP/IPという通信方法(プロトコル)になり、「インターネット」という 名称で新たなデジタル通信が、われわれの社会に深く関わり発展を遂げています。これからのIT社会は、どのように推移して発展するか、モールス 通信の歴史を調べると面白い発見があるかも知れません。