「東武練馬まるとし物語 第二部」
国際情報専攻 3期生・修了 若山 太郎
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その六 「人との縁」
「袖振りあうも他生の縁」という言葉がある。限られた時間の中で、多くの人とめぐりあえることは、考えてみれば不思議なことである。
店を営業していれば、お客様との出会いは、常にある。「毎日が出会い」の連続のよう。
家族のように、頻繁にお会いする常連のお客様、週や月に何度か確実にご来店して下さる方もいれば、いろいろな理由があって1年、2年、時に10年近く経つような方もいらっしゃる。
他生とは、前世のこと。この世でのちょっとした関係でも、実は前世からの因縁によるものだとしたら、出会えた月日の数は意味のないことかもしれない。
僕が「まるとし」の店主となって、この4月で2年となる。
名実ともに店の看板を背負うことになって、何事にも試行錯誤、前向きに取り組んできた。
話し始めたら切りがないことを振り返ると、店でのことはすべて、お客様に喜んでいただけたらという思いだった。それらが少しずつ実を結び、昨年は売上や利益も前年同月を上回るようになった。
大事にしていることは、いつも笑顔でいること。お客様がお話のありそうなご様子の時には、さりげなく声をかけてみる。人とのつき合い、特に常連のお客様との距離感は、一人一人違いはあれ、肩の力を抜いて自然体で接することに行き着いた。
お客様からお酒をご馳走したい、などと時に誘われることもある。店の忙しさから、都合をつけられないことも多いけれど、大事な時にはお付き合いすることもある。
以前紹介した、“北町初!”の地域寄席の「北町寄席」は今年で4年目を向かえた。
そのお客様から、小きんさんと僕とで、ぜひお酒の席をと、お声をいただいた。実現したのは、11月の寄席の終わった後のことである。そのお店は、地元の入船さん。やさしいマスターやおかみさんが温かく迎えてくれた。
この小きんさんと同席するにあたって、店近くの、長年不動産業を営んでいらっしゃる「まるとし」の常連のお客様もご一緒していただいた。
このお客様とお話をしていて、昨年亡くなられた、小きんさんの実父、柳家つば女さんに、このお客様が歴史の先生をなさっていたことがあるとお聞きしたからだ。
先生は、地元の阿波踊りを開催することを考案された方であり、店にいらした時は小きんさんのことも話題になる。
お話する度に小きんさんを交えてお話する場をもちたいと思っていた。折角の機会、ご一緒にとお声をおかけしたことで、念願がかなった。
昔話に花が咲く。お酒がすすむごとに、同世代の小きんさんは自然と落語口調となりまるで寄席のよう。歴史の先生お得意の詩吟も初めて聴くことができ、心から感動した。
今回それぞれ忙しい中、集まれたことに意義があるように、また、何らかのご縁と感じられた。
「北町寄席」は、今年の1月で17回目となった。毎回100人を超える大勢の観客にその地元への想いが支えられている。
お正月の寄席は、恒例の“初笑い・新春大抽選会”として開催され、世話人の方々のご好意で、子供も楽しめるおもちゃなど、景品プレゼントが演目の一つとなっている。
僕も何とか都合をつけて、次女、三女と共に、1年ぶりに寄席にうかがった。小きんさんの落語には、その言葉の一つ一つに対しての奥行きがさらに広がったように感じた。
『「笑い」にも、温かく笑える笑いもあれば、人を馬鹿にしたり、いじめたり、心の底から笑えない笑いもある。今の世の中まさに落語に見られるような「人情あふれる笑い」がもっとも大切なのではないでしょうか。』
このような小きんさんの「温かな笑い」を、大きく育ててほしいと思う。
話変わって、店のほど近く、練馬区には峰崎部屋という二所ノ関一門の相撲部屋がある。ご存知の方もいらっしゃるのではないか。
親方は、最高位前頭2枚目の元三杉磯の峰崎親方。この峰崎部屋のHPをいつものように夜帰ってから開くと、そのトップページに僕の名前が出ていた。
2005年1月20日午前4時7分30秒、幸運にもHPの100,000人目のアクセス者となったからだ。
「まるとし」と峰崎部屋の力士の方とのご縁は、残念ながら昨年引退された力士の方が、スポーツクラブに通う帰りによくお食事に来て下さったことから始まった。
時に、仲間の力士の方とご一緒にお越しになることもあった。ご来店の際、決まって一番大きなカツにアジフライを一枚追加注文された。僕はいつも気合を込めてカツを作っていた。
峰崎部屋の力士の方々は、礼儀正しく、素直で誠実な印象がある。相撲でこれからも残すべきよい伝統である「品格」が感じられた。
峰崎部屋は、親方とおかみさん、お子さん2人に、力士6人、呼び出し1人、行事1人、阿佐ヶ谷に本拠があって、そこへも練習に通っているそうだ。普段朝は4時起床、昼寝が2時から4時。就寝は11時だという。
場所前には、番付表をお持ちいただき、店内に飾ることも度々あった。大きな身体で、壁に飾られた番付表を見下ろし、「ちょっと曲がっています」などと直していただいたことも何度かあった。
峰崎親方ともぜひお会いしたいと思っていた。
2月1日、その願いが通じたのか、10万人目にアクセスした方には、親方から直接、豪華な記念品をいただけるということで、お忙しい中、親方自らご来店して下さった。
楽しみであったその中身は、お酒(長野県佐久市の地酒雷電)、部屋の名前付きの大きなとっくりとおちょこ(店のサンプルケースに飾ることにした)、お皿2枚(店で使うことに)、それにポスターとカレンダーなどなど、他にも親方や一緒に来られた力士の方のサインもいただいた。
現在部屋には関取(十両以上)はいないのだけれど、店に来られたことのある力士の方は、皆気さくで、思わず応援したくなる。実力主義の厳しい世界、それでも負けずに、100人中8人しかなれないとされる、関取目指して、峰崎部屋の力士の方には、頑張ってもらいたい。
2月3日、店近くの氷川神社で、初めて、節分の豆まきをした。
毎年、この神社では、近くの子供たちなど多くの方々が集まり、にぎやかなのである。
豆まきの順番は最後の方だったので、あまり拾えていない子供や高齢な方々に豆(おかしなども)が届くよう、「鬼は外、福は内」と言いながら、2升まいた。
「まるとし」のように、地域密着型の店では、やはり地域のお祭りやイベントに、こうして積極的に参加することも大事だと思う。豆まきは、浅間神社が主催、町会や商店街が協賛という形である。
僕が豆をまいている時にも、「まるとしさん、こっちに投げて」などとお客さんや商店仲間から、声をかけていただき、そのねらいが的中しようものなら、今まで以上に親近感や好感を持っていただけたりする。もちろん、開催するにあたって準備される関係者の方も顔なじみだ。
子供たちにも参加してほしかった。長女と次女は小学校の下校時間
去年末の商店街の抽選会オープニングイベントでは、僕はチョコバナナを担当、手をチョコまみれにし悪戦苦闘、製造販売したこともあった。
地域のお祭りやイベントに参加されない方に限って、「そんなことは意味がない」と言われる。でもそこには、今の時代、最も大事な、人と人とのふれあいがある。
話は前後する。商店街関連で昨年来、頼まれていたことがあった。
1月12日、川崎産業振興会館、経済産業省関東経済局主催「中心市街地活性化シンポジウム」のパネラーとしての依頼だった。
事例研究として、NPO北町大家族の地域密着型事業の紹介を、地元商店街の店主ということでの参加だ。
当日午前中に、パネリストは会場に集合した。関係者の控え室で、段取りの説明を受けている時に、思わぬ再会があった。
それは、事例研究の別のグループ、司会役のコーディネーターの先生が、2年半ほど前、日本小売業協会主催、ウォルマートの発祥の地(アメリカのアーカンソー州ベントンビル)を訪ねる視察旅行でご一緒した方だったのだ。
世間は狭いとはいえ、こういった形で、コンサルティング業務や講演、研修、雑誌・新聞など多方面でご活躍の長原紀子先生にお会いできるとは思ってもみなかった。これも何かのご縁と、近況を簡単にお話し、店へお越しいただける機会をつくっていただけることになった。
パネルディスカッションでは、NPOの代表の方と共に参加した。研究テーマの顧客の笑顔が映える街として、商店街が運営する「NPO北町大家族」を母体として、乳幼児親子の広場「かるがも親子の家」・高齢者のたまり場「北町いこいの家」、そして商店街の活性化につなげる地域通貨「ガウ」の紹介を行なった。
北は北海道から南は九州まで、この「NPO北町大家族」に視察に来られる方は、決まってお昼のお食事は、「まるとし」に来て下さる。その方々は、この地域通貨を商店街で購入して、実際に店で使われる。
会場には多くの方がつめかけて、反応も上々、何とか無事にその役目を終えることができた。
人前で発表をするといえば、2月16日、東京都中小企業振興公社での「若手商人研究発表会」にも参加した。
この発表会では、やる気のある若手商店主を中心に、商店経営、商店街事業において今日課題となっている8つのテーマについて、実践的に役立つ方策を研究し、その成果を発表するものである。
担当した研究発表は、「お客様の購買意欲を高める販売促進」について。8月から12月にかけて6回、練馬区の商店主を中心に、石神井の商店街事務所にコーディネーターの中小企業診断士・二瓶哲先生のもとに集まり学んだ。その販売促進研究会の発表となった。
僕は店の中での情報発信について話をした。
従来POPというと、価格や割引率を表示する、いわゆるプライスカードが大方を占めていた。しかし、昨今、商品使用による生活提案、店員が商品を実際使用したことによる感想、お客様の求める細かい商品情報を文章で提供する、いわゆるショーカードがかなり増えてきている。
「まるとし」でも、店頭や各テーブル横に、店に関する情報を手書きで書いたものを飾っている。この手書きは、お客様にこちらの気持ちをより身近にお伝えできればと思うからだ。
「豚肉は、天然ハーブ入り飼料と麦を加えた飼料でうまみをアップした青森県青森けんこう豚を使用しております。鶏肉は臭みが少なく、ジューシーでビタミンEがいっぱいの国産鶏肉桜姫を使用しております。米(ごはん)は福島県会津地方の地域限定ひとめぼれをアルカリイオン水で洗米して炊いております」
店内の壁には、メニュー以外の、お客様への心配りを縦長の紙に、手書きしてみた。
・ ご飯の量加減は(半ライス・軽くなど)遠慮なく申し付けて下さい。
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お好きな揚げ物をご注文のお品に追加できます。(イカ1ヶ・エビ1本・
・
お車でご来店のお客様へ 近隣のコインパーキング代は負担させていた
他にも、店のテイクアウトメニューや配達のメニューに関してのこともお話した。
それは、単なるポスティングよりも、量より質を重視した手渡しが大事であること。僕は、配達の注文をいただいたお客様を、すべてメモしている。
新しく内容に改定したメニューを作ったら、そこに書かれたお客様へ、次にご注文の際手渡しをしていくのである。もちろん店内にもメニューは置いてあるので、気に入ってくださったお客様はメニューをお持ちになる。
僕の発表が終わった後に、会場で聞いていらした初対面の経営コンサルタントの先生からは、「自信をもって説明されていて、とても良かったです。今度食べに行きます。」と声をかけていただいた。
以下、次号。
http://www.minezaki.com/index.html
http://www.nerima.jp/daikazoku/
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