欧州の環境事情について
国際情報 3期生・修了 花岡 宏伸
欧州では、本年EU加盟国が25ヶ国へと飛躍的に拡大、更に大きく発展しようとしている。その中には、環境最先端の国もあれば、東欧諸国のように、これまで環境に全く感心がなく放置されてきた国も含まれている。そこでEUは、EU指令や先進諸国の指導によって、それらの国の環境レベルを引き上げるために鋭意努力をしている段階であるとの総括的な印象を受けた。 最初に訪問した環境の先進国であるドイツでは、ドイツ企業だけが規制に縛られることによる競争力の低下を危惧してか、シーメンス社に見られるように、企業独自の監査制度、サプライヤ−指導制度等を導入して、EMAS(注1)離れとISO14001への移行の意志を表わしているところもあった。一方、EMASを緩和してでもEMASによる規制を維持したいバイエルン州の環境省との間に立場の違い、目指す方向の違いが明確に出ていたのが非常に印象的であった。また、ごみの分別、保管は少々粗いところもあったが、環境に配慮した建物を当初から考え、地下で汚水や廃棄物の処理を行っているシーメンス社の研究所。全世界の各社を一本化して品質・環境のISO認証取得、水素燃料車、車体のリサイクルに力を注いでいるBMW社。また、リコー、トヨタのフランス社においては環境教育が徹底されていたことに感銘を受けた。欧州諸国の言葉や習慣の違う従業員を纏めて環境改善へ向ける教育が必要なのであろうと思われる。特にリコー社では、日本で低調になっている改善活動がKAIZENという言葉で実施されていたこと及び分別、リサイクルの各段階が現物によって一目で判るように展示されていたのには感心した。 トヨタのフランス社では、環境負荷低減の活動の他、現場の作業員にも判り易く解説したビデオを使った教育がなされていたことにも興味を引いた。また、ベルギーのトヨタ欧州統括本部の社屋ビル全面にプリウスの絵が掲げられていたのは驚きであった。それは欧州においては、環境がいかに販売戦略上重要であるかを示していた。(写真1) 欧州企業、欧州に拠点を持つ日本企業と日本を拠点とする大手企業を簡単に比較することは難しいが、視察で見た限りでは、両者の環境に関する取組み自体には大差がなくなって来ているとの印象を受けた。しかし、企業の取組み姿勢や使命感、更には、企業の枠組みから離れた社会的な環境への取組みには大きな差が感じられる。欧州では、社会全体に一本の筋が通っているのだと思う。例えば、市電を優先させた都市交通網の整備、市街地や公園の樹木の豊かさ、景観を考えた新旧が調和した建物、節度ある看板、市電の軌道舗装を芝生に復活させた活動等、広い意味での環境対応事例がたくさんある。(写真2) 以前ドイツのケルン市を訪問した際、ドイツでは、戦前と全く同じ町並み復活させたと聞いたことを思い出した。確かに、近づくと破壊された建物の窓枠と壁の一部を使って修復された古い建物をあちこちで見ることができた。このように古い歴史、文化遺産を含めた良い環境を後世に受け継ごうとする大きな努力の跡に改めて感銘を受けた。これが欧州の環境に対する取組みの根幹であり、基盤になっているのであろうと思ったしだいである。
日本のISO14001の認証取得件数は、2003年12月末時点で13412件、2位のイギリス5460件、5位のドイツ4144件に比べ群を抜いている。表向きは世界一の環境大国である。(注2)少なくとも世界からはその様に見られているのであるが、日本企業の環境への取組みの動機には疑問を感じることがある。動機は別としても、良好な企業内の取組みが企業の外、社会全体にまで広がりを見せていないと日頃から思っている。近年、改善の兆しがあるとは言え、まだまだ環境意識が広く社会に浸透していない。この点が欧州諸国との違いであり、環境に携わるものとして反省するところでもある。 今回の欧州視察で特に感慨深かったのは、イギリスのバーミンガムから西へ約60kmにある「アイアンブリッジ」を見学したことである。(写真3)。完成が1779年とあるから日本の江戸中期に当たる。近づいて見ると、まさしく溶解した鉄を鋳込み取り出された多量の粗い鋳鉄材を主に組み立てられている。これらの多量の鉄が産業革命を起し、欧州から世界に広まったのである。 それは人類にとって大きな冨と豊かさを提供してくれた[シンボル]であり、同時に環境問題を初めて提起させた負の「シンボル」でもあると言えるのである。即ち、産業革命は、多量の石炭を燃料として消費した。その結果、地球上の二酸化炭素量が1800年の約280ppmから、その後急速に増加して1995年には約360ppmに達したと言われている。大気中の二酸化炭素の上昇は地球の温暖化をもたらす最大の原因と言われ、京都議定書をはじめとする多くの取組みが世界中で行われている。しかし、その地に立ってみると渓谷の緑の美しさが目立ち、環境問題発祥の地であることを忘れさせてくれたのは皮肉な感じであった。 最終日に、その昔欧州の活動拠点としていたパリのオペラ座の裏通りを訪問した。古くて暗い小さなホテル、狭い路地で駐車がままならず苦労したことが思い出された。当時に比べ小売店、レストランがたくさん出来ており、全く景観の変らない表通りと比べ裏通りの変り様には驚いたしだいである。
また、この旅を通じ多くの人と親しくなれたこと、飛行機のなかでクエート人の気象予報士と雲や気象の話しができたこと等々、たくさんの収穫があった。今後、欧州の環境視察で得た貴重な経験、情報を大切にして、新たなISO審査、ボランテイア活動等に大いに生かして行きたいと考えている。
注1:EMASとは、1993年6月に欧州理事会で採択され、1995年4月に施行されたEMAS規制(Eco Management & Audit Scheme Regulationにより設けられた監査登録制度のことである。一般に環境管理監査制度と訳されている。施行以来、企業の事業所登録数が増え続け2001年12月には3912件に達した。その後、対象を全ての組織に拡大及び登録企業に対する報奨金、規制緩和を含めた見直しが実施されたにもかかわらず、2002年9月には3796件と減少に転じている。 注2:世界のISO14001認証取得件数は、2003年12月末現在で日本が13412件、2位のイギリスが5460件、3位は前年の5位から躍進した中国5064件、4位スペイン4860件、5位ドイツ4144件、6位アメリカ3553件、7位3404件、8位イタリヤ3066件、9位フランス2344件、10位韓国1495件の順である。上位は欧州諸国で占められている。世界の地位別シエアでは48.4%が欧州で日本を含む極東地域が35.9%である。(The ISO Surveyによる)
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