観光立国をめざして 

   〜まずは足元、ドアの表記から見直そう〜
 

                               国際情報専攻 1期生・修了  齋藤俊之   

   


 
小泉内閣が観光立国推進を提唱してまもなく2年の歳月が経つ。海外でのキャンペーンや民間親善大使の派遣と動きは活発だ。「YOKOSO JAPAN」のロゴが飛行機の機体にまで書かれるなど政府の海外からの訪問客の受け入れに対する熱意が感じられる。

 一方、日本人の海外旅行者数は上昇傾向という。ドラマにおけるブームでロケ地ツアーまでがロングヒットしている。さらに、書店の棚には外国の各地のガイドブックはもちろん外国語会話のテキストがこと細かに並ぶ。その言葉の種類も英語はもちろん、韓国語、インドネシア語、フィリピン語、ロシア語と旅行ガイドと競う程豊富だ。このことからも日本人は多くの国、多くの言葉に関心を持ち始めていることは明らかといえよう。

 では、外国から日本への訪問受入数をみると伸びてはいるもの軒並みとはいたっていない。各地の観光地の現状をあわせて考えればいかに来てもらえるか、滞在してもらえるか苦心している感が強い。なぜなのだろうか。政府の「YOKOSO JAPAN」は空回りしているのだろうか。いや、身近なデパートやホテルに目を向ければ英語の他いくつかの言葉で対応できる職員が配置され始めたり、自治体における観光マップや観光協会の窓口には日本語と英語の2カ国語で作成されたチラシや観光マップは標準になるなど受け入れの対応が行きとどき始めている。海外からの来客数に伸び悩む日本の観光地にはなにが足りないのだろうか。筆者はそんな折、マレーシアを訪問する機会を得た。そこで感じた事をふまえて述べてみたい。

 まず、訪問者は滞在する国においてその国の人とのコミュニケーションや第三者の会話から耳に入る現地の言葉よりも意識的にも無意識的にも目に飛び込んでくるのは文字であり、まずもって文字に求める量の方が圧倒的に多いことだ。降り立ったその地の第一の印象の決め手は文字や図を含む表記による効果が大きいということだ。降り立った空港から始まりホテルまでの交通手段そしてホテルの中、ホテル周辺の街の中の看板、レストランのメニューと無意識のうちに情報として捉えよう、わかる情報はないかと探しているものは耳よりも文字や表記、つまり、目からの情報に求めていることがあまりにも多い。

 例えば、マレーシア、国内事情による多文化主義を反映している環境とはいえ、国際空港での表記はマレーシア語と英語を中心としながらも日本語、中国語の4つの言葉が並記されていることに驚く。さらに、市内路線バスにいたっては通過する行き先の主な通り名や施設名がフロントに大きく書かれていたりすると自分が行きたい方向に間違いがないことに安心する。ただ単に終点の行き先のみの表記ではなく主な施設名や通りの名前が大きく表記されていると現地の人のみならず訪問利用する者には使い勝手がよい。また、驚いたことは利用したレストランでのテーブルのメニュー表だ。マレーシア語、英語、日本語と3つ用意されていたことだ。例えば、マレーシア語でミーゴレンという料理は英語でフライドヌードル、日本語ではやきそばと書かれていた。また、価格が違うのではと疑ったが3つのメニュー表の価格は同じであった。

 では、こと日本の観光地を見てみると日本語(漢字・ひらがな・カタカナ)だけの看板や表記があまりにも多い。鉄道駅はまずまず英語との並記が進みつつあるがバスの行き先案内板は日本語のみが圧倒的だ。観光地内を循環するバスは行き先のみの日本語表示で、利用する日本人でも行き先が正しいのか不安になってしまう。タクシーも車体にタクシーとカタカナ表記のみが目立つ。外貨両替の出来る銀行が「○○銀行」という看板表記のみで、「BANK」「Exchange」の表記すら入り口に書いてないのをみると首を傾げたくなる。ホテルまでがホテルとカタカナ表記のみでは滞在するまでに海外からの訪問客は相当な労力を要していることは想像に難くない。

 つまり、海外からも来てもらいたいと宣伝を声高々にいうものの日本の観光地では文字表記が日本人対象なのだ。海外からの訪問客には入り口で大きな障壁になっているのだ。

 多くの来訪客が欲しいと声高々に叫ぶ中で、まずは看板を手始めに表記の方法から手をつけ整理してみてはどうだろう。街中には、観光投資できれいでわかりやすい看板が増えてきた。しかし、その多くは日本語のみ。景観やその地の風情があるため全てローマ字や英語で表記をとは望まない。ただ、海外から来る来訪客の目にもわかりやすい地点、地点での看板作りや表記法を考慮することは文字から来るネガティブな印象を低く抑えてくれるのではないだろうか。いわんやそれが、日本を訪問する好印象の一助にそして、日本のことを知りたい、日本語を学びたい、何度も来たいに結びつくと信じたい。

 いろいろな言葉で案内出来る人材を養成することや観光施設をリフォームすることパンフレットを用意することは大事だ。しかし、訪問客の目はまず初めにそこには行かない。降り立った駅の入り口で、店の前でわかる文字や表記を探しているのだ。いかに観光滞在してもらえるか、利用してもらえるか、店内に入ってもらえるかの鍵は人材やパンフレットもさることながら入り口のドアや看板一枚にある。足元、店のドアに言葉の壁を作っていないだろうか。まず入り口の表記から変えてみてはと提案したい。   (終

 

参考

政府の観光政策:http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/kanko/top.htm

YOKOSO JAPAN 」:http://www.vjc.jp/