前号(電子マガジン第16号)より、この「僕が宝塚を愛でる理由(わけ)」と題する連載を始めた。この連載の動機は前号にも述べたが“宝塚歌劇を「商品」ないしはビジネス・モデルとして分析してみようか、という気持ちが突然に起きた”ことにある。今号では、「リピーター確保で稼いでいるビジネス」の代表である「ディズニー・ランド&ディズニー・シー」と宝塚歌劇の類似点と異同点を俯瞰する。
-------------------------------------------------------------------
ところで、前号では「ディズニー・ランド&ディズニー・シー」としたが、最近では「東京ディズニーランド」(TDL)と、その隣接地に建設された「東京ディズニー・シー」(TDS)、さらには周辺のホテルあるいは最寄り駅であるJR京葉線舞浜駅前のショッピング・モール「イクスピアリ」を併せて、「東京ディズニー・リゾート」(TDR)という呼称が正式名称である。(http://www.tokyodisneyresort.co.jp/ 参照) 従い、以下、TDRと宝塚歌劇として、これらの類似点・異同点を俯瞰する。
TDRの中核であるTDLは1983年4月15日に開園し22年目に入った。初年度から年間入場者数1000万人超を継続している。それまでの日本における遊園地の概念を根底から覆えし、その入場者の6割超が大人であり、8割前後がリピーターと目されている。
千葉県浦安市に存在しながら"東京"という冠称が付くのはこれ如何に?、と、よく言われる疑問はともかくとして、このTDLからTDRというビジネス展開も、ある意味興味深い。 すなわち、この地域・施設群に出かけること自体を非日常的体験である「リゾート生活」と位置づけようとするマーケティング戦略が根底に感じられるからである。
事実、舞浜駅に降り立ち、駅を出た瞬間から来場者は非日常を感じることが出来る。目の前の「イクスピアリ」、TDLあるいはTDSへの連絡バス、さらにはミッキーマースの風船を嬉々として持ち歩く子供たち(大人たちも)。 そこには非日常の世界が拡がる。
この雰囲気は、宝塚歌劇団の本拠である兵庫県宝塚市に赴むいたおりも感じられる。 阪急電車宝塚駅から宝塚大劇場へ続く通称「花の道」のたたずまい、
大劇場周辺に点在する店舗の店頭あるいは店内に貼られている主役コンビの直筆サイン入りのポスターあるいはいろいろなタカラジェンヌの色紙サインあるいは写真入はがきなど、観劇それ自体のみならず、宝塚に来ること自体が宝塚ファンにとっては非日常の体験なのである。
まず、この全体的な網掛けの形自体が、TDRと宝塚歌劇の第一の類似点である。
類似点の第2はなんといっても、ソフトの入れ替えないし追加である。TDLはハードの追加とあわせ、おりおりにイベント期間を設定し、園内の雰囲気を時期に応じて変化させる。 ショーも一定期間で入替えて行く。 ショーは言うまでもなく音楽とダンスの組合せであり、音楽自体はディズニー映画からスタンダード・ナンバーとなった沢山の曲をベースにアレンジにより印象を変える。ショーの構成メンバーはすべてオーディションによる選抜である。(このあたりにアメリカのショー・ビジネスのノウハウが導入されていることは言うまでもない。)
一方、宝塚は同様にお芝居とショーの2本立てを標準型として新作を提供し続けるのが、これまでの基本である。さらには、これを演じる「生徒」と呼ばれる出演者も数年の単位で入れ替るスター・システムを確立し、トップ・スターが就任し数年を経て退団することで、お披露目公演と卒業公演を繰り返す。宝塚は現在5組から構成されるので、単純に言えば5×2で計10回のイベントが反復・継続している。作品が入れ替り、人が入れ替る、という二重の入替構造は、施設が追加ないし入れ替り、ショーが入れ替わるというTDLのシステムと本質的には同一である。
この反復・継続のシステムは、TDRも宝塚もどちらの場合も、3ヶ月程度の期間を経て再訪するならば、常に新しいものに接する機会を観客(TDLではゲストという)に提供することになる。リピーターがリピーターになりたがる動機づけの手段として、これに優るものはない。(次回へ続く)
|