「東武練馬まるとし物語 第二部」  

 

    

                                                                    

                                 国際情報専攻 3期生・修了 若山 太郎

                                                                                      

 

 

 

 

 

その四 「地域と共に歩む」

 

 

商店街の理事になったことが1つの転機となって、店周辺地域に対して、何かしら貢献したいという気持ちが今までより強くなった。

 

僕はまず、店近くの小学校に連絡をした。店頭に「ひまわり110番」のステッカーを張るためだ。きっかけは区報の特集記事を読んだこと。

 

「ひまわり100番」とは、PTA会員・町会・商店などの地域の目で、子供たちを見守り、励ますためのものである。

 

 その役割は3つある。1つは、子供が店に駆け込んで、助けを求めた場合、子供の保護はもちろん、場合によっては、110番通報、警察署・小学校・保護者に電話をする。

 

 また、不審者を見かけたらすぐに110番、警察署もしくは、最寄りの交番に通報する。

 

 さらに、店内において、大人と一緒にいる子供の様子が不自然だったら、子供に声をかける。

 

 子供3人の親として、子供たちに何かあった時にも、近くに助けを求められる店、大人の目が光り、安心して過ごせる町は、心強い。そういう意味で、商店街としての役割は大きい。

 

 6月9日、商店街のイベントとして毎回好評、その第22弾となる、わくわく生鮮市に、店として、初めて食材を提供した。

 

 生鮮市とは、商店街が発行している「きたまちわくわくカード」の会員が、その加盟店で買い物などをしてためたポイントを、毎月9日に、旬な生鮮品と、わずかなポイントで交換できるものである。とてもお得なイベントである。

 

 この日は、夕飯の食材シリーズとして、とんかつ二人前セット。80gの国産ロース肉2枚・生パン粉100g・滋養卵4個の豪華版。僕はその内の肉とパン粉を担当した。

 

 準備としては、店で使っているものと同じ鮮度の良い生肉を、そのままスーパーで売っているようにトレーにのせてパッキング。パン粉は計量し袋に小分けして詰めた。

 

 まったく初めての作業で量も多く不安もあった。前日には、時間をかけ一枚一枚丁寧に肉を下ごしらえし、慣れないパッキングも皆で手分けをして、どこに出しても恥ずかしくないものを用意することができた。

 

 そして、当日。今まで行われた生鮮市では、一番長い行列ができ、お客様には大変喜ばれたそうだ。深夜まで準備をしたことが報われた。

 

 前回の話では、母の日の似顔絵コンテストで長女の絵が入選したことを書いた。そのことを喜んだのもつかのま、再び電話があった。

 

どうも、長女に続き、父の日記念「第2回マイカルのお父さんの似顔絵全国コンテスト」で、次女が産経新聞社賞(絵はパソコンで勉強している僕の姿)、三女が金賞(絵は仕事をしている時の白衣姿)に入選したそうだ。

 

長女が受賞した時の賞品のクレヨンを使い、それぞれの絵を仕上げたものだった。

 

6月20日、スーパーの店内で、表彰式があった。その日は、たまたま小学校の日曜参観日と重なってしまい心配した。

 

しかし、率直に、次女の担任の先生にお伝えすると「滅多にあることではないし、本人も楽しみにしているようなので」とおっしゃっていただき、表彰式の時間の2時間ほどを退席させてもらい、受賞式に参加させてもらった。

 

長女が入選した時は、ひどくうらやましがっていた、次女は、本当にうれしそうだった。僕の両親も見に来てくれて、次女、三女が店長から表彰状をもらっている姿を見てもらった。

 

ちなみに、賞品は賞状と絵の具。そして、紹介記事とともに入賞者として次女や三女の名前も掲載された6月16日付の産経新聞も記念にとプレゼントをされた。

 

3人の賞状は、額に入れて僕の書斎に飾ってある。

 

本格的な夏の訪れも間近な7月に入ると、近くの中学校の、2年生による総合学習の時間の職業体験を受け入れた。女生徒1人から直接電話があり、店として、これも初めての取り組みだ。

 

その内容は生徒たちが自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え判断し解決していく学習活動になっているようである。そして、変化の激しい社会の中にあっても強くたくましく生きる力の育成をめざしているのがねらいだそうだ。

 

この職業体験を通して、より具体的には、働く意義・仕事の大変さ・勤労の尊さ・生き甲斐・創意工夫を学び、その内容を通して、生きている経済を実感する・人々と関わることにより社会性を養う・啓発的体験を通して勤労観を高める・今後の進路について考えることなどを捉えさせたいと考えているとのこと。

 

意義のあることなので、僕は、事前に店でどのようなことをしてもらおうか、その主旨に少しでも意味があることにしたいと思案した。

 

7月8日、午前中の約束の時間に、その生徒は来てくれた。事前にお願いしていたのは、3時間ほどの限られた時間である。

 

営業前は、店内清掃や準備を手伝ってもらった。

 

営業中は、接客やお料理の出し下げ、お出しするお料理のお皿の準備(付け合せのキャベツ・レモン・トマト・パセリなどの皿盛り)、その合間をみての仕込みは、肉やエビの下ごしらえやレンジ前でのクリームコロッケの手作り等々。

 

その少しシャイな生徒は、何事にも一所懸命、積極的に仕事に取り組んでくれた。お客様に対しては堂々ととても立派な応対だった。

 

僕としては、百聞は一見にしかず、机上で学ぶだけでなく、今回のような職業体験はその生徒にとって貴重なことだと思う。

 

そして、夏休み前の終業式の帰りに、その生徒が店に寄って、思いがけずお礼の手紙をくれた。

 

「礼儀や仕事の大変さなど体験を通して知りました。普段から挨拶などには気をつけるように言われていたことでした。働いてみると非常に難しいことでも基礎がとても大切だということを改めて思いました。自分の意志で職場に行ったのだからそれを態度で示すこともよく分かりました。今後、いろんな場面で今回のことを生かし、役立たせたいと思います。」

 

学校と商店の連携は、治安を含めても不可欠ではなかろうか。そこで必要なのは、互いを思いやる意志。義理と人情、そんな使い古された言葉がそこにはあった。

 

毎年、商店街では、夏に屋台祭りや阿波踊りなどのイベントが行われる。

 

7月5日、サマーフェスタ大抽選会のオープニングイベントとして、商店街のコミュニティセンター前では、お昼から屋台祭りが行われ、僕も朝早くからその準備に駆けつけた。

 

屋台は、焼きそば・焼きトウモロコシ・かき氷・水ヨーヨーなど。商店街の有志が、手分けをしてその準備に集まった。テント張りやテーブルなどの設置、会場を作りから食材、僕はトウモロコシのへたを取り蒸す用意、それと水ヨーヨー作りを担当した。

 

手が空いた人から昼食をとり、開始時間に合わせて再び集まる。僕はお昼時の忙しい時間帯の店が気になり、昼食はとらずまっすぐ戻り、ぎりぎりの時間まで料理を作った。

 

当日は日差しの強い暑い日だった。親子連れのお客様が続々と会場に集まった。イベントのスタッフに戻ると、焼きそばを担当。開始してすぐに、僕の子供たちも来て、長女が帰り際「パパ頑張ってね」と声をかけていった。

 

終了予定時間を前に、焼きそばやトウモロコシは完売した。順番に、やはり手分けをして、その後、片し作業に入る。その合間や作業終了後には、暑いので、かき氷や飲み物をいただいた。

 

僕は理事になったと同時に、店近くのブロック長にもなった。毎年恒例、今年で第12回目のきたまち阿波踊りに関してのポスター、パンフレット、提灯を取り付けてくれた店への特典のうちわ、などを事前に配ることなど、また、裏方の作業として、提灯の汚れや破損、店ごとの個数の確認、ブロック別仕分けなどもした。

 

もちろん、屋台祭り同様、7月30日の阿波踊り当日、有志が朝から集まり手伝う。本部席設営や桟敷席の準備も行なった。テント設営・椅子、テーブル、給水所などの準備セッティング、桟敷席には紅白テープや紅白の幕取り付けなど。夕方には、来賓者用の記念品の準備にとりかかった。

 

昨年に引き続き今年も、娘たち3人は、地元の連「きたまちじゃじゃ馬連」に参加した。今回は妻に代わり、僕が子供たちの付き添いに行くことにした。街の熱気を一度は体感したかったからだ。

 

今年は女の子の髪飾りが豆絞りでなく、かわいいものに変わっていて、娘たちが大変それを喜んだ。

 

踊りが綺麗な長女は子供踊りの先頭に立ち、懸命でいて正確な踊りを心掛け、次女は、三女と並び、後ろで、笑顔いっぱいに踊っていた。昨年は途中で踊れなくなった三女も、今年は愚痴1つ言わず、最初は表情が硬く心配するも、見るからに踊りを楽しんだ。

 

途中から長女は「疲れた」と言い、力が抜けてしまった。「どうした?」と聞くと、「最初の方で力を入れ過ぎた」と言って、気持ちよさそうに笑った。

 

僕が見るに、連全体として、地元であり、気合に満ち溢れたよい踊りであったと思う。女踊りは去年とは違った動きを入れ、息がぴったり。男踊りの内の2人が、空を飛ぶたことたこあげの動きをし、時に側転するなど、踊りの幅が明らかに広がっていた。

 

僕は、阿波踊りが終わった後、娘たちに「すごく上手だったよ」と誉めた。

 

 こうして書くと地域のことばかり熱心である印象をもたれるかもしれない。今年に入ってから、店はお陰様で好調である。特に4月から平均した売上の数字をみてみると、前年と比較して、平均12.4%アップしている。

 

昨年は一進一退の売上の動き、店に対して朝から晩まで時間をかけ、いろいろな角度から努力し働いても、ようやく前年と同じになる程度であった。

 

その状況を変えることになったのは、自分で考えられた知恵やアイディアを1つずつ実行することで、お客様にそれが伝わったことが大きいと思う。

 

以前紹介したように、ちょうど1年前に作った東京ウォーカーのグルメサイトに店のホームページを持ち、店の魅力をさりげなく対外的に伝えたこと。遠くにお住まいのお客様がご来店いただき、その中には、何度もお越しいただける常連になっていただいたお客様もいらっしゃる。

 

ホームページ内の「オンライン黒板」の機能がリニューアルし、画像を入れ込む、色味を工夫する等、更新できる内容が充実、また、TOPページ「注目情報」や「クーポン」も店舗側で変更できるようになった。

 

契約期間は1年であったが、更新することにした。

 

昨年12月、新しく配達のメニューを作った。営業が終わってからポイントをしぼってポスティングをしてみて、気がついたことがある。

 

「まるとし」のような小さな店は、ポスティングをすることも必要だが、何よりお客様に手渡しをすることが大事であるということ。配達メニューの内容にも思い入れがあるので、その内容も読まずして捨てられてしまうのには、悲しいものがある。

 

僕がメモしていない、新メニューをお持ちでないお客様には、必ず配達時にメニューを手渡す。地道なことをコツコツと。そして、店内に置いた配達メニューをお持ちになるお客様には、笑顔を。

 

100円引き4枚つづりキリトリ線の入ったクーポン券もつくった。これは、店内がいっぱいになって入れないお客様に対して、お詫びの意味を込めて、お渡しする。時にお急ぎのお客様には、駆け足で追いかけて、「またよろしくお願いします」との言葉を添える。

 

店内では、お料理の下ごしらえにこだわるだけでなく、お客様の気持ちを読んで、今まで以上に声をかけるようにしている。

 

何気ない一言が、お客様の笑顔を誘う。時にその雑談から、商売をする上でのヒントをいただけることもある。

 

「商売は急がば回れ。目先にとらわれず、長い目で商いをすること。今自分のしている仕事の延長線上から、創意工夫を積み重ねること。そして何より必要なのは、笑顔。」

 

夏休み前、三女が幼稚園で鈴虫の幼虫をもらってきた。

 

鈴虫は8匹ぐらいいる。このことを次女は1体、2体と呼んでいる。それを長女が「違うよ」と教えても、次女は頑なにふざけて間違ったまま呼んでいる。

 

三女に聞いたところ、オスは3匹らしい。毎日数回霧吹きで水をやり、餌はカボチャ、リンゴ、ナスなど。土は取り替えないで、餌だけ替えてやるらしい。8月も半ばになると、ようやく脱皮して成虫となり羽が出来上がり、夜中から朝まで鳴くようになった。

 

三女は鈴虫の性別を簡単に見分けていた。鈴虫をよく見ると、メスの尻尾みたいのは3つ、オスは2つある。もらってきた時には本当に鳴くようになるのか、半信半疑だったので、初めて鳴き声を聞いた時には、皆で喜んだ。

 

最初少しだった鳴き方も、だんだん長くなったらしい。子供の観察力はするどい。

 

子供たちのことで、もう1つ、プールについて書こう。

 

今年の夏は猛暑だった。子供たちは、自宅から自転車で20分ほどの距離、豊島園のプールに行くのをずっと楽しみにしていた。 

 

次女の誕生日である8月4日、僕は仕事があったので、午前中に妻や子供たちに先に行っていてもらい、夕方近くに合流した。

 

僕は子供たちに、「パパ、絶対に平泳ぎを見てね」とか、「泳げるようになったよ」など聞かされていた通り、まず、シャワーの水さえ嫌がっていた次女は、ばた足で泳げるようになっていた。

 

浮き輪をしていても、水が恐いと言っていた三女も、少し浮かべるようになっていた。

 

5月の終わり、まだ次女が水に顔さえつけられない状態の時、すごく心配をして、区立の体育館プールを借りて行なっている、水泳サークルを三女のクラスメートから教えてもらい、参加することになった。

 

それからというもの、家族は毎日、お風呂の中で何度も顔をつけ練習している様子を見せられている。

 

学校の検定日に、次女がばた足で5m泳げるようになり、合格したとすごく喜んで興奮して帰ってきた。

 

最後に店内のことも1つ。店の入っているビルの二階には、よく挨拶し合う感じのよい家族の方が住んでいらっしゃる。皆さん、お客様でもある。

 

その家族の長男のお兄さんは、年に何度か仕事の休みをとり、SLの写真を撮影しに行くことが趣味であるとお聞きした。

 

手持ちのカメラのセットだけでも、車一台は買える程の熱の入れよう。その写真を見せていただいた。

 

SLが出発時点から撮影すると、次のポイントまで車で追いかけ、次から次へと写真を撮るそうだ。場所によっては、車を降り、リックをしょって、山の上から橋の上の汽車を撮影するのは珍しいことではないらしい。

 

それも、シャッタースピードを調節しピントを合わせる、季節感を出すために、時に桜や新緑などをバックに、汽車とのバランスもこだわりがある。

 

お兄さんの特にお気に入りの写真を店内に飾れないかとお話したら、快く写真を額ごと2枚お貸ししてくれた。

 

店内の写真に、「僕も写真が趣味だ」、とか、「景色が綺麗だね」などと、お話下さるお客様もいらっしゃる。店の中も外でも、笑顔の輪が広がる今日このごろである。

 

以下、次号。