おやじ院生、学会刺激で思わぬ行動変容
             −WCBCT2004会場に場違い突入?−

 

 

                             人間科学専攻 5期生  岩本 豊一

   


1 「学会?知的でええなあ。行ってみたいなあ。」

 この度、神戸において開催された2004世界行動療法認知療法会議(WCBCT2004)という国際学会に、おやじ院生は大いなる背伸びをして行ってきました。

 学会そのものはほんの2回目の体験です。昨年、河嶋先生がDR(ディスカッションルーム)で「東大で日本心理学会が開催されます。修論の参考になりますので行ける方はぜひ!」とのお誘いにパックリ食いついたダボハゼ行為が始まりでした。

 東京大学校内に大手を振って入れるという子供みたいな気持ちが動機で、47才にして初めて赤門をくぐり、日本心理学会に足を運んだのが、昨年9月でした。

 恥ずかしいことですが、そこで初めて「ポスター会場にはポスターの絵は張っていない」と言うことを知りました。昨年ゼミでこの話をしたところ「あ〜ら、そんなことも知らなかったの?」という顔でゼミ担当の伊坂助教授にとても笑われました。

 でもこれを契機に担当教員のサインをいただいて昨年は日本心理学会に入会し、そして今年は日本行動分析学会にも入会しました。そして今回の「国際学会」にも行くことができました。

 なお、学会に入会したり院生であったりしたおかげで、会員参加料や学生参加料が適用され、大変有利な参加料で申し込むことができました。(皆さんもひ!)?

2 「やったあー、国際学会だー。」

 今回のWCBCT2004パンフレットには、「国際学会ですが通訳付きですし、配付資料は日本語に訳します。」とありましたので、全く軽い乗りの普通の見学感覚という甘い考えで足を伸ばしたのです。

 ところが現実は「国際会議」というだけあって、直面した現実は私にはなかなか厳しいもので、おやじ院生には大変こたえました。

 昨年はポスターの絵がなくてビックリしたポスター(セッション)会場でありましたが、2回目の今回はポスター掲示物が全て英語で驚きました。それに会場のセッション説明者も外人でニコッと微笑み「エニークエスチョン?」には思わず引いて逃げてしまいました。ティールームでお茶を飲みに行くと外人の先生方がいっぱいで挨拶は英語、特別講師の基調講演もまた英語、当然今回+αで申し込んだ「単一事例研究法」のワークショップも終始英語でのブリーフィング、おまけに質疑も英語で、当たり前のことですがジョークまでも英語で、私はその面白さが分からなくても一緒にハハッ!と笑う、とてもつらくてさびしい時間を過ごしました。

 単一事例研究法のワークショップ会場は、東京大学大学院の下山晴彦教授(伊坂助教授の臨床心理学Uで使用中のテキスト編者)が(当然英語で)司会をされ、感激のあまり終始めまいめまいでした。

 講師の方は、シングルケースの研究では世界的権威とのイギリスシェフィールド大学教授グラハム・ターピン博士に終日熱心にブリーフィングして頂きました。

「豚に真珠、おやじ院生に念仏講義」とならぬよう、買ったばかりの電子辞書を開いて終始パワーオンで、特別講師のプレゼンテーションに出てくるはっきりしない英単語の意味を夢中に調べてばかりでいました。また、下山先生の教え子さんで東大院生の方が来られていて、これまた雛形あきこさんそっくりのお姉さんが、英語が分からない方のためにとある程度進んだところで日本語にまとめて解説してくれるなどしてくださり、とても助かりました。

 今回は、その道の有名人と言われる東京大学の下山晴彦先生や岡山大学の山田剛史先生等と単一事例研究法のことでお話しができ、また名刺交換までしてしまい大変貴重な機会を得たと思っています。

 9月4〜5日には関連学会の日本行動分析学会が帝京大学で開かれますので、また新たな刺激を受けに行こうと思います。GSSCの皆さんも、特に私と 同じような何も知らなかった社会人大学院一年生の皆さん、ぜひ格安の学生参加費で行ってみませんか?

3 単一事例研究法について

 いわゆるシングルケースとの出会いは、眞邉一近教授の「心理学研究法特講」課題が契機でした。日大会館でのゼミ帰りのコンパで「群間比較もよく用いられるが、私の後期に課しているシングルケースの手法は、臨床心理の場面においても1人の被験者の中からでも普遍的な事項を引き出せる有用なもので、しっかりと勉強してもらいたい。」と言われたことが始まりでした。

 最初は、ベースラインに、ABA、マルチベースラインデザイン?と一体何のデザイン(絵柄?)なのだろうと途方に暮れる毎日でしたが、徐々にこういうことかと分かってきまして、とうとうこれで修論書こうと思うようにもなったわけです。

 でも群間比較(質問紙を用いて、ある母集団をt検定や分散分析などによって解明するアプローチ手法)の文献や論文は多々ありますが、単一事例研究法は極めてマイナーでしたので、したがって、今回のワークショップに飛びついた訳です。

 内容的には、乏しい語学力で十分には伝えられませんが、特に印象に残った事項としまして次の2点を挙げてみたいと思います。

・心理臨床の場面にこそ、もっとこの研究手法を活かすべき。でも壁も多い。

 1人であることの信頼性の問題、被験者の自己評価が従属変数として使えるかという客観性の問題や、治療除去(B)への対応(倫理上の問題)、治療効果の残存(リバーサビリティの問題)、アセスメントとのバッテリーの可能性、外的妥当性(結果が一般化できるかどうか)、内的妥当性(独立変数と従属変数との間の因果関係の強さ、特に介入の効果を出すためには、相当強力なデザインが必要)、これまでの事例は成功例しか載せられていなく、過去の失敗例の教訓が引き出せていない、安定したベースラインをとることが重要であること、データ測定方法としての観察・日記の活用を試みることなどです。

・「EVALUATING PRACTICE(+SINGWINソフト付 
   き)」

 唯一推薦されたシングルケース研究法の入門参考本です。おまけとしてCD−ROMソフトSINGWIN付きで、軽易なシングルケースのグラフ作成や、ベースライン期と介入期のt検定の実施などが可能であるとのことです。ちなみにネット図書販売のアマゾンで注文しましたところ、船便により一万円弱ほどで購入することができました。

4 社会人大学院生には、もう英語は無用か?

 私は、約十年前に海外留学がしたくて職場で手を挙げましたら「英検2級かTOEIC570点はないとだめ!」と言われ、英会話教室に通い始め2年がかりでなんとか英検2級を取りました。そのおかげで公務訪米4回(各約2W)の機会を得ることができましたが、その後は英語冬眠状態でありました。しかし、今回の神戸でまた目を覚ますこととなりました。

 ワークショップでの隣のお姉ちゃんがさかんに先生の講義にうなずいたり、ジョークらしきものに反応して大きな声で笑ったり、とても良く勉強されているんだと驚く中、有意がsignificance、仮説はhypothesis、TypeT(α)は第 一種の誤り、clinicalは臨床などと、心理学英語じゃこう表現するのかと感心してばかりいました。

 懇親会のスピーチも英語、ワークショップも同様に当然飛び出る冗談も英語です。簡単な質問やブリーフィングぐらいはできるように少し英語の訓練を再開しようと思っています。

 国際学会参加という介入が、お勉強をしようという行動変容をもたらしたと思います。まさに今河嶋先生から学んでいるところの行動分析学の実践への適用そのものです
 

※WCBCT2004、およびターピン博士に関心がおありの方は、それぞれ次のURLご参照願います。

(1)http://www.congre.co.jp/WCBCT2004/japanese/frame/f_message.html

(2)http://www.shef.ac.uk/clinicalpsychology/staff/turpin.html