北朝鮮情報機関の全貌―独裁政権を支える巨大組織の実態

       清水 惇著 ¥1,890 (税込)


       光人社 2004年6月
      
ISBN: 4769811969 (2004/05)

         

                                    

                                                   国際情報専攻 6期生  増子 保志

   
 


 日本人拉致、武装工作船侵入、麻薬の密輸、テロ行為と北朝鮮は多様な情報・工作活動を行ってきた。これら謀略工作の司令塔である北朝鮮情報機関の全貌を解明したのが、この本である。

著者はこの本で、ベールに包まれた北朝鮮情報機関の組織及び任務について、亡命者の証言や実際に起きた事件をもとに、その輪郭を描き出し、情報機関の活動目標や存在意義について分析・検討している。北朝鮮が強大な情報機関を有する目的は現政権の維持と権力継承のための土壌作りにある。としている。

北朝鮮情報機関の特徴は、@党に所属する情報機関が通常の情報収集以外に、宣伝工作、偽造、抱き込み、テロ、破壊工作等の積極工作を行うことA情報機関の数も多く、任務も多岐にわたっていることである。積極工作を活発に行う理由は、北朝鮮の国家体制と密接に関係している。北朝鮮は金日成から金正日へと独裁政権の世襲に成功した稀有な国家である。この長期にわたる独裁政権維持に成功した要因の一つが情報機関の存在である。最近の北朝鮮を取り巻く内外の状況からみて、体制維持装置としての情報機関の役割は、今後も重要な地位を占め、更に強化されていくであろう。

さらに本書は、日本・韓国・北朝鮮等で公表された断片的な資料を丹念に繋ぎ合わせて北朝鮮情報機関の全体像を明らかにした。公表資料によってこれだけレベルの高い本を書いた著者はきっと戦略情報のプロに違いない。

最近、テレビで見た“将軍様”こと金正日氏の顔色がさえないのは、この本で大事な情報機関の全貌が暴露されてしまったからかもしれない。また、この本が出た直後の7月に崔龍洙(チュリョンス)人民保安相(警察に相当する組織。本では顔写真も出ている)が更迭されたのも、あながちこの本と関係がないとはいえないかもしれない。

内容の性質上、著者紹介もなくペンネームでお書きのようである。しかし、それがまた情報機関特有の「秘密めいた」香りを醸し出している。情報機関相手では実名なんてトンデモないか!「あっ、しまった」書評を書いている私は実名だ