正義と勇気の灯台―女性の世紀・女性の使命―

 

                       国際情報専攻 5期生 真藤正俊

   

 
 
愛読の書物を手にしている時は、身の不自由なことも忘れて、精神の自由をいちばん強く感じる時であります。書物こそは私に加えられた運命の害悪にたいする代償であります。書物は失われた世界の代わりに新しい世界を与えてくれ、また、裏切った人間の代わりに神々を与えてくれるものです。(注[1]

ヘレン・ケラー(注[2]

 

 女性の正義ほど偉大なものはない。女性の勇気ほど時代を動かすものはない。女性は「人類を平和に導く灯台」である。乙女たちの行動は社会に蠢く権威主義や不正を打ち破る。女性の勝利は次の時代の新たな潮流を作り出している。

 過去の歴史を振り返ると、女性は社会の中で差別をされ、蔑まれて生きてきた。さらに社会の進出さえも権力によって絶えず邪魔されてきたのだ。「男女平等」「女性の生きる権利」は実現するために世界各地で様々な女性運動が起きた。多くの艱難(かんなん)が襲いかかるなか女性運動が停滞した時代もあった。かの有名な厚生経済学の第一人者アマルティア・セン(注[3])は女性運動の歴史についてこう語る。

 女性運動が発展して、さまざまな社会で長いあいだ続いてきた不平等に立ち向かい、男女平等の実現にこぎつけた時に、不平等の伝統を支持する人々の側から抵抗がありました。実際には、他人を犠牲にして少数者に有利な不平等の特権の恩恵にあずかっていた人々なのです。

 その結果として、不平等問題の解消はしばしば停滞することもあれば、場合によっては後退が生ずることすらあります。後退現象のなかでも最も極端なケースは、女子のための学校閉鎖、不運にみまわれた無力な女性たちに対するレイプその他の残虐行為です。(注[4]

 女性が力をつけることを権力者、とりわけ男性は心から恐れているのではないか。グローバル化が進行する過程において女性のエンパワーメント(力をつけること)が世界平和の鍵を握ると予測される。センはグローバル化発展のためにも女性が高い教育を受けられる提案を実現すべきだと主張する。

 では、女性たちが教育を受ける、高いスキルを身に付けるなどが社会で実現すると、どのような現象が起きるのか。フランシス・フクヤマ(注[5])は先進国においての女性の社会進出をこう分析している。

 多くの女性は仕事の技能や経験がないせいで自活できないため、ほかに好きな人が現れたから再婚するとか、暴力を振るう夫から逃げるといったことも簡単にできなかった。ところが収入が増加するにつれて、女性は自分で生計を立て、夫なしでも子供を育てられるようになった。(注[6]

 社会で活躍する女性たちは夫よりも高収入となり、また恋人よりもリッチな週末を送ることが可能となった。女性は人間関係においても男性に比べ、「より柔軟」に対応するため、職場でのトラブルも男性より少なく、善きムードメーカーとなっている。

 人間の「善き生活」「善き家庭」を実現するのは女性の存在ではないだろうか。古代インドの王であった「アソカ大王」(注[7])は自分の妃に仏教を進められ、改宗し平和の王となった。女性は平和をもたらす使命を背負っているのである。

 アソカ大王は仏教に帰依した後、諸外国に平和のための使者を派遣する。使者が手にした「エラグティの勅令」には次のようなことが書かれていた。

  人は自分の宗派だけを崇拝して、理由もなく他の者の宗派を軽んじてはならない。軽視したりするのは、特別の理由がある時だけにすべきである。なぜならば、他の人々の宗派はすべて何らかの理由で崇拝に値するからである。このように行動することによって、人は自分の宗派の地位を高め、同時に他の人々の宗派を助けることにもなる。これと反対の行動は自らの宗派を損ない、他の人々の宗派にも害を与える。自分の宗派を崇拝する一方で、自分の宗派に対する愛着から、他の宗派を軽んじて、自分の宗派の栄光を高めようと意図する人は、そのようなふるまいによって、実際には、自分自身の宗派にもっとも深刻な損害を与えるのである。(注[8]

 アソカ大王は女性の力により、「平和の王」に変わることができた。大王が実現しようとした全ての人類に求められる国家のビジョンとは「侵害することなく、節度あり、公平で、柔和な態度で」「すべての生きとし生けるものに対して」(注[9])接することであるとしたのだ。

 冒頭の部分で紹介したヘレン・ケラーの言葉であるが、アメリカの国民的な作家であるマーク・トウェイン(注[10])はヘレン・ケラーが24歳でハーバードを卒業した時「19世紀にはふたりの偉人が出た。ひとりはナポレオン一世であり、いまひとりはヘレン・ケラーである。ナポレオンは武力で世界を征服しようとして失敗に終わった。しかし、ヘレンは三重苦を背負いながら、心の豊かさ、精神の力によって今日に栄誉を勝ち得た」と語った。

 21世紀は女性たちが指導者となり、平和を実現していくことが重要ではないだろうか。いまこそ乙女たちが世界の大舞台に踊り出て戦う時である。かつて「不可能」と言われた人類社会の数々の難問に見事勝利し、幸福を築き上げる「時」ではないだろうか。

[1] ヘレン・ケラー『私の生涯』岩橋武夫訳、角川文庫、1966年、468頁。

[2] ヘレン・ケラー(18801968) 1歳9ヵ月の時、原因不明の発熱・腹痛で盲・聾・唖の三重苦を背負う。名門ハーバード大学において博士号を取得。後に平和運動を展開。盲人の社会進出に全力を傾けたことでも有名。

[3] アマルティア・セン(1933〜)1959年にケンブリッジ大学で経済学博士号を取得。ケンブリッジ大学、デリー大学、ロンドン大学経済学部スクール、オックスフォード大学、ハーバード大学で教授を歴任。98年よりケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ学長。1998年にノーベル経済学賞を受賞。なお、アマルティアとは永遠に生きる人という意味。名付け親はインドの詩聖タゴールである。(タゴールはアジア人初のノーベル賞に輝いた)

[4] アマルティア・セン『貧困の克服―アジア発展の鍵は何か―』大石りら訳、集英社新書、2002年、143頁。

[5] フランシス・フクヤマ(1952〜) 政治学博士。1991年に大著『歴史の終わり』でソ連崩壊を予測。ヘーゲル哲学の現象を用いて事象分析を行う。アメリカで国務省勤務などを経て、現在はジョンズ・ホプキンス大学教授。

[6] フランシス・フクヤマ『「大崩壊」の時代―人間の本質と社会秩序の再構築―』鈴木主税訳、早川書房、2000年。141頁。

[7] アソカ大王(生没年不詳、在位前268年頃〜前232年頃) インドのマウリア王朝第三代の王。中国や日本の仏教の世界で「阿育王」の名で知られる。現在のインド・パキスタン・アフガニスタンの南部を支配。インド南東のカリンガ王国を征服した後、自分の行った戦争の悲惨さと残酷さを知る。妃が仏教徒であったため、その妃がアソカ大王を仏教に帰依させて生命の尊さを教える。大王は仏教に改宗して法に基づく政治を実現すべく努力をした。女性が戦争をやめさせたのである。

[8] アマルティア・セン『貧困の克服―アジア発展の鍵は何か―』大石りら訳、集英社新書、2002年、80頁。

[9] 同上、81頁。

[10] マーク・トウェイン(18351910) アメリカの国民的作家。トム・ソーヤ、ハックルベリィなどの作品で有名。