文化情報専攻 具島 美佐子

          中高年女性と修論作成

       

   

厳しい条件の中で生きねばならない中高年の女性たち、でもその中で修論を提出できたことに心から感謝をしています。自身の健康、老親の健康、将来への漠然とした不安は全ての中高年の女性の共通な悩みでもあります。これらの悩みは本学大学院での修論を含めた学習により、問題解決能力を養ったことで私の場合はよい方向に進んでくれました。修論作成で人間としても成長できたことがさらなる収穫であり、またこれからの人生や学習の出発点であることを心に刻む毎日です。

 

健康の管理

 肉体的、精神的な健康が継続的な学習の出発点ですが、どうしても睡眠不足という問題が前面に出てきてしまいます。私は大体夜は11時半頃まで学習をして朝は5時には起床という生活でした。学校図書館に勤務していますので、550分には千葉市内の家を出て都内の職場に向かいます。夏期休暇はありましたが、体調が悪くても年休をとるわけにもいかないので、往復の通勤時間を仮眠にあてて睡眠不足を補いました。睡眠不足が高じると記憶力が減退して、情緒的にも不安定な状態となります。またパソコンによる目の疲労を少しでも減らすには、パソコン用の中近両用のメガネが必須となります。さらに特に日曜日などは家の中に籠もりきりになりますので、足の運動も必要となり、近くのコンビニにコピーをとりに行ったりしました。一寸した休憩もいれないとかえって能率が下がってしまいます。集中する時と、休息する時のバランスを考えることが大切だと気づきました。それから朝の野菜ジュースは毎日欠かせませんでした。ビタミン不足も心身の疲労に拍車をかけるようです。

 精神面のリフレッシュにも注意を払いました。これは私の場合だけかもしれませんが、日本映画専門チャンネルをTVで見られるようにして、鋭気を養いました。あの頃の元気をもう一度という時には、若い頃見た作品に接して過去を回想することが若さ の回復に繋がるようです。もちろん、今という時代の動きや世界情勢にも目を向けて、過去と将来への展望のバランスも心がけることが最善ですが。

 

老親のこと

 自分が中高年である時期に、親はまさに人生の最晩年です。少しでもよい最晩年を過ごさせてやりたいという気持ちはありますが、だからといってあまり労わりすぎるのも老親をかえって老化させるのではないかと思い、八十歳過ぎの父の家事への協力を歓迎しておりました。この年代の男性は戦時中に軍隊で針仕事まで仕込まれており、母の死後父は雑巾を縫うようなこともしてくれました。しかし 加齢による衰えも徐々に始まり、「お前は若くていい」というような言葉を実の娘である私に向けるようになりました。働き盛りの人間へのジェラシーのようなものが老人にあることに気づき、どこかに父のよいお友達がいないものかと思っておりましたところ、突然自分からケア・ハウス入りを宣言しました。実は平成14年の夏にその施設を見学し、半年後そこの責任者の方と偶然に千葉市内で再会したことが父を決心させたのでした。私の心配が神仏の加護で父に伝わったとしか考えられません。そこには亡母の兄夫婦も入居していて安心なので、空き部屋のあるうちにと話を進めました。冬季の床暖房があるので、自宅よりも環境がよくなることは父にとってもよいことだと思いました。

 老親の介護には自宅という方もおられると思います。それはそれなりにすばらしいことですが、どうしてもそれができない場合はケア・ハウスに入ってもらうのが本人のためでもあるようです。私の本学大学院での学習も父に刺激を与えて、修論の提出をとても喜んでくれました。

将来へ向けて

 女性だけでなく男性にも将来への漠然とした不安があることと思います。現代の日本の状況は五十歳を過ぎた人間に過酷な運命を展開させている場合があります。同じ世代の人間が集まるとまず、健康のこと、老親のこと、将来への不安が話題となります。私の場合、修論のテーマとなった「『柳橋新誌』研究―漢文戯作による自己実現」では、時代の変遷を自己の可能性を広げることで乗り切った成島柳北を扱い、そこに現代の人間と共通な悩みを見出したことが不安への視点を変えたのでした。「不安」という状態は、時代を超えた悩みでもあり、いつの時代にも人々の心の中に置かれていた悩みの根幹のようなものだったことが学習を通じて理解できました。

 悩みを抱えて生きてきた人間の歩み、その歩みがいい方向に少しでも方向づけられること、そこに成島柳北の意義があったことが把握でき、私は「生」の悩みを受け入れて今後の人生を考えることといたしました。

 

 最後に行き届いたご指導を賜った小田切文洋先生、また他の学習科目でお世話になった先生方に厚く御礼を申し上げます。さらに小田切ゼミの一年生の方々、一昨年の必修スクーリングでご一緒だった文化情報の方々、所沢の事務局や、市ヶ谷のグローバル研究科の図書室の方々のご親切も忘れることができません。