国際情報専攻  長井 壽満

 

             脳に筋肉がついた

   

 

入学して、最初に学生になったなと感じるのが、5月位に送られてくるテキストの山を受け取ったときです。そして、ゼミによってはその前、5月の連休位に一泊二日程度のゼミ合宿に参加した時です。合宿ゼミでは先輩の経験、多士済々の方々との興味つきない会話であっという間に合宿はおわります。帰りの電車の中でさあこれから2年間で卒業するぞ!と意気に燃えて家にたどりつきます。だれでもが何処かで出発する前の気持ち、一度位は経験したことあると思います。

入学の興奮が醒めた頃に、送られてきたテキストの山を眺めながら、なんかヤバイ所に足を踏み込んでしまったのではないか・・・・と若干後悔の念をもちながらテキストを開き、「リポート課題」が投げかけている意味を考え始めるのが6月頃でしょうか。初年度で5科目、4/科目のリポート要求されますから、一年間で20本、一年間に52週間ありますから平均すると23週間に1本リポートを仕上げることになります。この23週間というのは先生とのネット経由のコミュニケーションする時間を含みます。授業によってテキストは原書(英文)の場合もあり、こうなると脂汗がでてきます。こうして、自分の勉強スタイルを模索している間に、あっという間に7月のスクーリングの時がきてしまいます。

スクーリング時に、卒論の話題がでます。修士論文の合格基準で「独創性」に重きがおかれているとの話をきかされます。リポートで頭が一杯だったのに、さらに修士論文を考えなければならなくなります。さあ大変、「独創性」が必要だ! 自分には「独創性」

なんか有るのかい。自分に「独創性」があれば、大学院なんて入らないで、スイスイ世の中泳いでいるよ、ブツクサ思いながら9月のリポート締め切りに追われているうちに夏が終わります。

 でも、皆さん心配しないでください。世の中、苦有れば楽あり。求めよ、さらば報われんと誰かの言葉にあるように、頭と手を動かせばリポートはなんとかなります。リポート作成を先生とのゲーム、頭の体操と位置づけてしまうことです。リポートは課題決まっており、テキストがあります。考える範囲が決められています。材料は与えられているのです。あとは材料に自分の味付けをするだけです。仕事しながらの勉強ですから、仕事と勉強の時間を上手に振り分けられるかどうかが分かれ目になります。私は連休、週末に図書館に籠もり、集中してリポート作成しました。

 さて、修士論文となるとリポートとは勝手がちがいます。私の場合は、まず「独創性」です。8月位から修士論文のテーマを選ばなくては・・・と頭のなかでチラツキ始めます。「独創性」とはなんぞや?なんて考えたり、「独創性」・「修士論文」という言葉が頭で泡のように浮かんでは消えたりするような感覚になってきます。こうしているうちに前期のリポートを提出し、すぐ10月後期リポートに取り掛かることになります。

 しかしリポートを書き、先生の講評などを加味して、さらにリポートの内容を豊富にしていく過程で、物事を頭の中で整理して文章にしていくトレーニングを知らず知らずの間に進めているのに気が付きます。社会にでると、なかなか一つのテーマをしっかり考えそれを自分の言葉で文章として表現する機会がありません。大学院に入り、リポートを書いていく過程で、物事を纏めて、かつ他人に判るような文章で表現する技が身についていきます。この延長線上に「修士論文」があるのに気が付きました。

 あとはテーマを見つけることです。テーマはそれぞれの興味のある分野から探すことになります。私は自分の仕事と関係ありそうなテーマから絞り込みました。大きなテーマはすぐ思い浮かべる事はできますが、大きく広いテーマを論文という50100ページの世界に纏めるに為にはテーマの中身を具体的に絞りこむ必要があります。この絞込みの作業が大変です。論文は内容と伴に万人に理解してもらうために、書く上での形式的なルールがあります。基本は引用文献を明確に脚注などで参照できるようにします。具体的には先生から脚注の付け方の指示・マニュアルに沿って書く事になります。資料を引用できるように整理しておく作業は手間隙がかかりました。

 テーマの大枠が決まると、資料を集める算段を模索することになります。私の場合は仕事と関連あるテーマを選んだので、何処にいけば資料があるか判っていたので資料集めにはそれ程苦労しませんでした。あたりまえですが、資料だけでは論文は書けません。資料を整理・理解し自分の「独創性」を加味したうえで、起承転結の流れにそって論旨を展開しなくてはなりません。大枠のテーマでは論文の着地点が見えません。論文は提言のある結論が必要なのです。問題の羅列ではありません。資料から抽出した問題に対して自分の「独創性」を加味して議論を行い、提言を結論づけるのが論文です。

 私の場合は現在進行中の事象を論文のテーマに選びました。数ヶ月毎に状況が変化するので、論文の結論=論文の題目を決めるのに苦労しました。ぎりぎり12月になってから論文の題目を決めました。資料関係は1年次の末12月位から集めて、読み始めました。1年次のリポート提出した1月から新学期4月までは暇です。1月から4月まで3ヶ月間が論文の第一段階の仕込み時機です。この間に資料を集め、大枠のテーマに資料の肉づけが出来れば、修士論文の形が見えてきます。後は、論文を形式に従った形に落とし込んでいく力仕事の世界となります。まず纏まった時間のある時期に中身を気にしないで、なんでも良いから書いて文章にしてしまうことです。書いているうちに自分の論文の欠点、弱点が見えてきます。私はこの素稿を書くタイミングを5月の連休に設定し、資料が有っても無くても、なんか書こうと決めました。つまり14月まで資料集め、出来不出来は別として5月になんらかの形で纏めてみるようにしました。仕事と勉強する時間の配分、段取りが大変でしたが、幸いに5月の連休は年休加えて10日位続いて休みがとれました。

しかし、取り上げた題目が毎日動いているホットなテーマなので、5月以降も新しい状況が出現し、論文として纏め上げるのは年末になりました。資料はあるが、論文の「切り口=論文題目」の設定には最後まで悩まされました。10月に論文の発表予行演習が日大会館で行われました。10月時の予行演習時の論文題目と最終提出した論文題目は違います。12月中旬に題目を変えようと決心しました。自分で納得できないと、他人には説明はできません。自分で納得するまで論文の水準を上げるのが重要です。

 論文の内容とは別に論文の形式を整える作業も時間がかかります。1週間位見ておく必要があるでしょう。引用、脚注の整理、目次とページの一致、プリンターの不具合の発生、ときにはパソコンがダウンして資料が消えるなど不測の事態が起きます。3部印刷、簡易製本の手間隙も馬鹿になりません。今年の年末年始にはパソコンのウィルスが大々的に流行し小生のパソコンもウィルスに感染しました。データのバックアップも重要です。日大のサーバーを自分の資料アーカイブ先として利用しました。私は出張の多い仕事をしているので、何処にいても自分のファイルをdown and up loadして保存できる日大サーバー・アーカイブ機能は重宝でした。

 なんか、論文作成マニュアルみたいになってしまいました。私自身は楽天的な性格なのか、論文作成を楽しみながら進めました。子供が工作で物を作っていくのを楽しんでいるような感じでしょうか。世の中に出ると、毎日の仕事に流されて纏まった一つの事に取り組む機会になかなかめぐり合えません。論文作成の過程で物づくりの楽しさと、自分の好奇心を満足させました。もし、次に論文を書く機会があれば、時間に追われない環境で書きたいなと思っています(でも、時間に追われない環境での論文作成は趣味の世界になってしまい、結局なにも書けなくなりそうです)。

 簡単に私の2年間の流れを書きました。日大通信制大学院は勉強する時間を自分の仕事の合間にはめ込み勉強することができます。メールによる先生とのコミュニケーションもすぐとれます。先生の自宅にまで電話で質問したこともあります。日大通信制大学院は仕事を持っている人の勉強の場として恵まれた環境です。ただ、ほとんど全てのコミュニケーションはパソコンを通しておこなうのでパソコンに慣れる必要はあります。

 忙しい2年間でしたが、2年間の勉強で自分の好奇心の幅とお付き合いする人の輪が広がったのが一番の財産です。今まで成人病予防のためジムで筋トレしていましたが、「脳トレ」も必要な事を思い出させてくれた2年間でした。「脳に筋肉がついた」というのが、今のfeelingです。

以上