文化情報専攻  島崎 浩

 

          修士論文作成における具体的な参考事項

       

   

 
はじめに

 この体験記では、私自身の体験をもとにして、これから論文を書かれる方々のご参考になるように書きたいと思います。したがって、個人的なことにもある程度触れざるを得ませんが、なるべく多くの方々に共通すると思われることの方に重点を置いて述べようと思います。なお、ワードの操作等についての記述は、既に熟達されている方々にとっては必要のない情報ではありますが、もしお一人でも参考にして下さる方がいらっしゃれば幸いと思い、敢えて書くことにします。

 

取り組み始めた時期

 入学以来次第に具体化してきた研究テーマについて、指導を仰ぐ上田邦義教授の了承をゼミやメールを通して得た後、修士論文の作成作業に実際に取り組み始めたのは、1年次の1月に一般科目のレポートを出し終えてからです。2年次の学習が始まるまでの2、3、4月は論文だけに集中できる期間です。その間にある程度進めておくと1年間比較的余裕を持って取り組めると思います。

 

文献の収集

取り組み始めて最初にしたことは、仏教思想に基づいて『ハムレット』と『リア王』を解釈しようとする私の研究テーマに関連する文献を探すことでした。シェイクスピア作品と仏教思想を結びつける文献はその段階ではまだ見つからず、まず、仏教とキリスト教の比較を論じる文献の方を探しました。神田古書店街の宗教関係の書籍を扱う専門店で尋ねると、即座に数冊を紹介され、それらを購入しました。特にその中の一冊はとても有益なものでした。古書店街で店員に尋ねるのが文献を探す一つの方法です。

シェイクスピア作品と仏教思想を関連させる文献は、古書店で尋ねてもなかなか見つかりませんでした。そこで、インターネットの検索サイトで、シェイクスピア、『ハムレット』、『リア王』、仏教というようなキーワードを入力して探したところ、試行錯誤を経て、ついに、狐野利久氏の「シェイクスピアのリア王と仏教思想――比較思想の立場からの一考察――」という論文が『印度哲学仏教学第11号』北海道印度哲学仏教学会、1996年、に掲載されていることを知りました。早速入手しようと思い、日本印度哲学仏教学会データベースセンターにメールで問い合わせたところ、「国立情報学研究所(NII)が提供している、全国の大学図書館における雑誌の収録状況が検索できるサイト、http://webcat.nii.ac.jp/ 」を紹介していただきました。

そして、そのサイトへのアクセスで、自宅から比較的近いところでは文教大学図書館に『印度哲学仏教学第11号』が収録されていることを知り、文教大学図書館のホームページを開いて、そこにメールで問い合わせた結果、文教大学図書館へ出向いて閲覧してその場でコピーできることになりました。このようにして、やっとのことで直接の先行研究文献に辿り着くことができました。

テーマに関連する書籍を探して入手するのには、書店のホームページでキーワード入力の検索で探して注文する方法も使いました。この方法で、岡本かの子氏の『仏教人生読本』の中の一つの章で『ハムレット』について仏教思想の観点から考察されていることを知り、この書物を買い求めました。この方法で買い求めた中で、他に、三好弘『シェイクスピアと日本人のこころ』、ピーター・ミルワード著、中山理訳『シェイクスピアと日本人』、森谷佐三郎『日本におけるシェイクスピア』等が有益でした。

検索サイトで研究テーマに関連するキーワードを複数入力して文献を探す方法では、インターネット販売をしている古書店にもつながり、現在普通の店頭では販売されていない様々な貴重な書物を入手することができました。上田邦義教授に書籍を紹介していただいたり、参考文献一覧を紹介していただいたりした時に、検索サイトで古書店につながって購入する方法が有益でした。この方法で、現在店頭では販売されていない貴重な文献を入手することができました。なお、古本といっても新品同様のきれいなものがほとんどでした。

以上のようなわけで、先ほど紹介したhttp://webcat.nii.ac.jp/ のサイトや、書店のサイト、インターネット検索はお試しになってみるとよいと思います。

文献の収集については、指導教授のご推薦・ご紹介による書籍を購入するのに加えて、一般の書店や古書店の店頭で色々見ている内に関連がありそうなものに遭遇して購入する、書店のホームページでキーワードを入力して探して購入する、検索サイトでキーワードを入力して古書店などへアクセスして購入する、等が考えられます。また、最近知ったのですが、国立国会図書館に雑誌論文のコピーを依頼して有料で郵送してもらうことが可能とのことです。詳しくは、小笠原喜康『インターネット活用編 大学生のためのレポート・論文術』講談社、2003年、を御覧下さい。

 

パソコン上の最初の取り組み

パソコン上の取り組みとして、とりあえず、大学院指定のA4、40字×40行の書式のファイルを作ることからやっておくとよいと思います。また、表紙・はしがき等、最初の段階でもできることを少しでもやり始めるとよいと思います。私の記憶では、最初は、テーマに至った経緯を数行書いたところから始まったと思います。その後、収集した参考文献から引用できるところを少しずつ入力し、その前後のコメント文を書いていきました。それから、内容的に一括できるところに節の見出しをつけていきました。

 テーマに至った経緯を書く、その段階までで収集した文献の参考文献リストを作る、引用できると思うところを入力する、浮かんだ着想を、数行でも、細切れでも打ち込んでおく、というように、着手できるところからやっておくようにしました。十分に構想を練り上げて一気に書き上げるやり方もあるでしょうし、このような方法もあると思います。私の場合はこの方法を採りました。

 

論文作成の手順

論文作成の具体的手順ですが、私の場合は、まず、集めた文献の中の引用として使えると思えるところをパソコンに入力していきました。なお、私はすべて手動で打ち込みましたが、スキャナーで読み取って入力する方法もあるようです。来年度体験記を書かれる方でその方法に詳しい方がいらっしゃったら是非ご紹介下さい。

当初はまだ註の付け方に不慣れであったので、とりあえず、引用を入力した後のスペースに、その都度カッコ書きで、著者名、書名、出版社、発行年、ページを打ち込んでおきました。そして、後になって註の付け方を熟知してから、それらを註の形式に直しました。    

具体的には、引用文の最後のところに註番号を挿入し、論文末尾の註番号が出てきたところの右側に、前もって入力してあった「著者名、文献、出版社、出版年、ページ」をコンピューター上で「切り取り」をして「貼り付け」ました。(ワードでの註のつけ方については後述します。)註の付け方に慣れているようでしたらば、最初から註の形式にした方がよいと思います。なお、引用文だけ打ち込んでおいて後からまとめて註を付けるとすると、どの文献のどのページだったかを確認するのが大変だと思いますので、手間がかかってもその都度上記のように必要事項を入力しておくか、あるいは、最初からきちんと正式な註の形式にしておくとよいと思います。

なお、「引用・註番号」と「引用・註番号」の間にあとから新しい「引用・註番号」を入れれば、註の番号と内容は自動的にずれていきますし、「引用・註番号」を削除しても別の場所に移動しても、それぞれコンピューターが註の番号と内容を自動的に処理してくれます。

 

本文執筆

本文執筆については、プリントアウトしたものに手書きで書き加えたり削ったり並べかえたりして推敲し、あるいは、引用すべき文献の載っているページと行を記し、ある程度手書きの推敲や引用の指定がたまったら、それをまたパソコンに入力し、プリントアウトする、そしてまた手書きで推敲する、という繰り返しをしました。その過程で、段々とふくらみ、整理され、まとまってきました。

パソコンの画面上で直接推敲するよりも、プリントアウトした紙で推敲した方が、全体像も把握しやすいし、能率が上がる、と私は思いました。それに、プリントアウトした紙ならばどこへでも持ち歩けます。

論文執筆作業には、プリントアウトしたものを前にして考えをめぐらし手書きで加筆推敲並べ替えをしていったり、参考文献を読んで引用箇所を考えたりする知的創造的作業と、その手書きの推敲や引用すると決めた箇所をパソコンに打ち込んだり註をつけたりする事務処理的作業の両方があります。私の場合は土曜日曜が休みですので、その時に近くの図書館へプリントアウトした紙を持って行って、集中して知的創造的作業に取り組みました。人それぞれリズムがあると思いますが、私の場合は、午前中に図書館で知的作業、午後に自宅でパソコン上の事務処理的作業をするやり方がリズムに合っていたようです。

 

浮かんだ考えをその場でメモする

長い間継続的に一つのテーマに取り組み続けていると、必ずしも机に向かっている時だけではなくて、日常生活の何気ない時にもふと考えが思い浮かぶ瞬間があります。考えが浮かんだその時にメモをしておくことが重要だと思います。すぐその着想を紙にメモしておいて後で時間がある時にパソコンに入力するようにしました。そうしておけば、後から推敲、並べかえ、追加、削除が自由にできます。

 

論文の留意点・体裁・ルビ・ページ・註について

 論文執筆上の留意点について、文化情報の方は秋山正幸教授・上田邦義教授がお書き下さった「研究論文作成のしおり」をお持ちかと思いますので、是非お読み下さい。

体裁については、DRで乾一宇教授がお書きになっているように、地の文は標準の10.5ポイント、3行以上の引用文は9ポイントにすると見やすくなりました。また、章や節の題名は、やはり乾教授がお書きになっているように、12ポイントのゴシックにすると見栄えがよいようです。その他詳細については、DRに掲載の乾一宇教授の「論文の書き方(技術編)」をご覧下さい。

引用する文献自体にふりがながついているなどして、ふりがなをつける必要がある場合は、次のようにするとできます。ふりがなをつけるべき文字列の先頭から最後までドラッグして選択した状態で、「書式」→「拡張書式」→「ルビ」で、必要な操作をしてから「OK」で、できます。

また、傍点をつける必要がある場合は、傍点をつけるべき文字列の先頭から最後までドラッグして選択した状態で、「書式」→「フォント」→「傍点」へ行き、「傍点なし」になっているボックスのところで希望の傍点の種類を選択して指定すればできます。

 それから、ページと註の付け方について、以前文化情報の方々に僭越ながらメールでお知らせしたものを、以下に再度掲載いたします。ご参考にしていただける方がいらっしゃれば幸いです。

 

◆一つのファイルに表紙、はしがき、目次、序説、第1章・・・の順に入れる場合、

 大学院の指示は、「目次の次の序説から1ページ」です。

◆そうするためには「セクション」を使います。

 目次の次の序説のページを1ページにする場合、目次のページの最後にカーソルがある状態で、「上方のメニューバーの、挿入(I)→改ページ(B)→<セクション区切り>の項の、<次のページから開始(N)>の白丸をクリック→OK」とすると、目次の次の序説のページからが別のセクションになります。そして、その別のセクションになったページにカーソルを置いた状態で、後述の要領でページをつけると、その別のセクションの中での通し番号のページを付けられます。逆に、表紙から目次までの部分については、その部分だけでページ(i,ii,iiiなど)をつけることもできますし、ページをつけないこともできます。

◆ページの付け方は、挿入(I)→ページ番号(V)→位置<ページの下>・配置<中央>を選ぶ→書式→番号書式(F)を選ぶ→<連続番号>の項の、開始番号(A)の白丸をクリック→1が出る→OKOK、で出来ます。

◆註は、「結論と参考文献の間」に入れますので、次のようにする必要があります。

 「脚注を文末に入れる」と指定すると、参考文献の後になってしまいます。したがって、結論の次のページを新しいセクションに指定して、「序説から始まって結論で終わるセクション」の後尾に注を入れるように指定します。

◆セクションの後尾に注を入れる入れ方は、以下の通りです。

 「論文の中の注を入れるべき場所にカーソルを置いて、挿入(I)→参照(N)→脚注(N)

  →<文末脚注>の白丸をクリック→ボックスの中の<セクションの最後>を選ぶ

  →番号書式のボックスの中の半角の数字を選ぶ→挿入(I)

 以上の操作をすると、結論の後ろの註をつけるスペースに註の番号がつけられてあります。そこに註を入力します。以下、論文の中の、次に註を入れるところで同様の操作をすると自動的に次の番号の註になります。

 (註と註の間にあとからまた別な註を入れると、自動的に番号がずれていきます。また、一度載せた註を削除したり別の場所に移動したりした場合も、自動的に番号がずれていきます。)

◆最後の参考文献のページは、別のセクションになりますので、参考文献のセクションの中でページを付けるときに、「挿入→ページ番号→書式→<連続番号>の項の、<前のセクションから継続>の白丸をクリックすると、ページがその前のページからの連続番号になります。

◆表紙のページなどにページ番号がついてしまっていて、それを消したい場合は、

 挿入→ページ番号→<最初のページ番号を挿入する>のチェックをクリックして

 そのチェックを外すと、そのページのページ番号がなくなります。 

 

他の方々の見解

指導教授のご指導はもちろん、ゼミ等で他の方々の見解に接して傾聴することも重要だと思います。一人だけで考えているとどうしても独りよがりの独断になる危険性があります。指導教授のご指導はもちろんのこと、他の方々の、自分が気がつかなかった視点からのご意見が参考になります。

 

論文作成に関する参考図書

 だいぶ論文作成が進んだあとで、次の参考図書があることを知りました。これから書かれる方は最初から参考にされることが可能かと思います。

小笠原喜康『大学生のためのレポート・論文術』講談社、2003

小笠原喜康『インターネット活用編 大学生のためのレポート・論文術』講談社
  
2003

 

最後に

論文作成には、資料収集、先行研究の理解、自分の思考、思考の結果や引用のパソコンへの入力、註を付ける等の細かい事務処理、これらの一連の作業が必要です。そして、先行研究を読んで理解することと自分で考えること、文献を引用することと自分の考えを書くこと、知的創造的作業とパソコン上の事務処理的作業、論文作成と一般科目レポート作成、仕事と通信制大学院での学習、以上のようなことの間のバランスが大事なような気がします。

 修士論文執筆を通して、根源的な問題について深く考える充実した時間を持てたことは大きなよろこびです。その意味では、単位を取れるかどうかとか修了できるかどうかというようなことは二義的副次的なことであるとさえ思えます。

 以上、私の経験をもとに、これから論文を書かれる方のご参考になるように書いたつもりです。少しでも参考にしていただける方がいらっしゃれば幸いです。

なお、この体験記は短期間で書いたものであり、不備な点や不適切な点も多々あるかと思います。お気づきの節は是非ご教示くださるようお願いいたします。