紀行            屋台とマレーシアの教育事情

                           

            

                     国際情報専攻 修了生 鈴木佳徳

 

   

 

 またまたマレーシア(ペナン)に行ってしまった。斉藤さん[i]の甘い誘いはソヤ・ビーン[ii]を連想させ、ついつい乗ってしまうのだ。パスポートを見ると、三角と四角のマレー語のスタンプはそれぞれ5個ずつあった。今回で何と6個目である。いつの間に…。旅の行程など、詳細は斉藤さんの記事をお読みくだいさい。小生は旅先でのある出来事を紹介する。

 

 それは、ペナン島に到着した日の夕方の出来事である。「時計塔[iii]」界隈を歩いていると小雨がぱらついてきた。ちょうどお腹もすいていたので、近くのコタ・ラマ公園の屋台に駆け込んだ。そこは炒め物の匂いが漂うマレー料理の屋台だった。子どもから大人まで、客はみな中央を向いて座っていた。店の真ん中にパイオニアの32インチテレビが居座り、サッカーの試合を中継していたのだ。ルールに従い中央を向いて座ると、小学3年生くらいの少年が注文を取りにきた。タイガー・ビール[iv]を頼んだところ、もじもじして要領を得ない。そこへ中学生ほどのお兄ちゃんが登場。ビールが出せないことが判明した。そうであった、ここはイスラム教の国である。トルコなどでは結構飲まれているようであるが、マレー料理では豚肉と飲酒は厳禁である。(中華系の屋台であればOK!)仕方なく「チャイニーズ・ティー」を注文した。青木保氏の『異文化理解』を機内で読んだはずなのに、少年にはすまないことをした。食事は斉藤さんのマラヤ語を駆使しナシ・ゴレン[v]を注文。そこからが長かった。いくら待っても料理が出てこないのである。お腹がすいていたせいか、とにかく長く感じた。1時間はたったであろうか。周囲の客には料理が届いているのに、我らには廻ってこないのだ。奥の高校生くらいの調理人に確認したところ、今日のナシ・ゴレンは終了したとの事。唖然。売り切れであれば売り切れといってくれればよいのにと、ぶつぶつ日本語で独り言ならぬ「ふたり言」。仕方なくミー・ゴレン[vi]に変更。しばらくして到着したミー・ゴレンの少ないこと。あっという間に平らげた。テレビではまだサッカーの試合をやっている。ということはハーフタイムも入れて105分以内の出来事であるが、ずいぶん長く感じられた。
 

   
 マレーシアはイギリスの植民地であったこともあり、6・3・2・2制の英国式の教育制度をとっている。小学校・中学校は日本と同じだが、高校にあたる部分が二つに分かれ、結果的に日本より1年多く修学する。進学率
[vii]は小学校99.8%、中学校83.0%、高等学校49.1%、大学予科22%、そして大学は7.2%である。よほど優秀でないと大学には進めないはずなのだ。ところが、ここにもブミプトラ制度[viii]が導入されている。


「カピタン・クリン・モスク(Masjid Kapitan Kling)。1801年、
ペナンに建設されたインド様式のモスク。」

 

 つまり、人種によりあらかじめ大学の定員枠が決められているのだ。マレー人が平凡な成績であっても容易に志望校へ進学することができそれに対し、華人はよほど優秀な成績を修めないと進学できないという仕組みなのである。さらに日本などへ留学する際にもマレー人は国費留学生として優遇される。ブミプトラ制度は、マレー系と非マレー系との経済格差を是正するためにつくられたのであろうが、かえって両者の溝を深くしているのではないか。そして多分、コタ・ラマ公園のマレー料理の屋台に駆け込み、ビールからチャイニーズ・ティーに注文を変更した我ら2人は、少年らに「非マレー系」と映ったに違いない。


 

[i] 国際情報専攻修了生、斉藤俊之さん。斉藤さんは地図を見ないでKLやペナンを歩ける人なのだ。

[ii] SOYA BEAN、蜜水入りの豆乳。屋台だとRM0.81.0で頂ける。日本円だと30円くらい。ちなみにビールはRM3.0だから100円くらい。アーのどが乾いてきた。

[iii] コムタとならびジョージタウンのシンボル的存在。近くにフェリー等の予約ができるペナン・ツーリスト・センターがある。

[iv] カールスバーグと人気を二分する東南アジアのビール。

[v] マレーシアの焼き飯。「ナシ」とはご飯のことで、「ゴレン」とは炒め物のことである。

[vi] マレーシアの焼きそば。「ミー」とは麺類を指す言葉。

[vii] 文部省大臣官房調査統計企画課刊『諸外国の学校教育(アジア・オセアニア・アフリカ編)』に掲載の1990年統計による。

[viii] マレー人優遇政策。大学への進学の割合が「マレー系55%、中華系35%、インド系10%」と制限されている。