株式会社の大学経営

 

                                                                                                

                                                                          後期課程・国際情報分野 山本 忠士

 

 

 

 

 

 

時代は変った、と思う。

  2月12日付の読売新聞夕刊は、2面トップの扱いで「(株)大学 今春開校」の見出しを付けて、株式会社2社が申請した2大学の認可答申が、河村文部科学省相に出されたことを報じた。株式会社が、申請した大学とは、「LEC東京リーガルマインド大学」(株式会社東京リーガルマインド申請)と「デジタルハリウッド大学院大学」(デジタルハリウッド株式会社申請)の2大学である。正規の4年制単科大学と専門職大学院で、両大学ともに構造改革特区を認められた東京都千代田区と大阪市にそれぞれ二つのキャンパスを開設する。

 勿論、全国どこでも株式会社の大学設置が認められるわけではない。申請できるのは、構造改革特別区域法に基いて、地方公共団体が内閣総理大臣に申請し認可を受けた地域内に限られる。今回の千代田区と大阪市がそれである。

 地域限定であっても、正規の学校であることに変りはない。大学のような学校教育法第1条(いわゆる「1条校」)に位置付けられる学校が、株式会社によって設立されたこと過去になく,日本の教育史上まさに画期的なできごとといえる。

 わが国の教育体系を定めた学校教育法第1条の規定では、「学校」の範囲を「小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、大学、高等専門学校、盲学校、聾学校、養護学校及び幼稚園」と定めており、これらの学校は「国、地方公共団体及び学校法人のみが、これらの学校を設置することができる(第2条)」とされているからである。

 これまでは、営利追求を目的とする企業が、「学校」経営を目論んでもそれは出来ない相談であった。今でも、教育関係者の多くは、教育は営利企業になじまないと考えて、株式会社の大学経営に違和感を覚えている人は多い。「学校」は、公共性が強く、社会的な責任を果たすという意味で何よりも「永続性」が求められ、申請時には「ヒト」「モノ」「カネ」について厳しいチエックを受ける。全国一律の、厳しい設置認可の規制を受けた者からいえば、「特区」の特例とはいえ割り切れない思いが残るからである。既得権益が侵されることの抵抗感もある。

 今回の「構造改革特区」構想の推進母体である綜合規制改革会議は、行政改革の流れの中で規制改革委員会の提言を受けて、平成13年4月に内閣府に政令で設置された組織である。.

 綜合規制改革会議は、三次にわたる答申(第1次=平成13年12月11日、第2次=平成13年12月12日、第3次=平成15年12月22日)を出し、政府はそれに基いて推進してきた。

 規制改革の必要性は、@1980年代までの高度経済成長時代に確立したさまざまな制度・慣行が、その後に大きく変化した経済社会環境にもはや対応し難くなっていること。Aそれゆえに生活者・消費者の多様な選択肢が確保された豊かな経済社会システムの構築と中長期的に持続可能な経済成長の双方を実現する必要のあること。B喫緊の課題は、戦後、長い間に渡って強固に築き上げられてきた経済・社会のシステムを抜本的に-変革する構造改革の推進であり、その最も重要な施策が、事業者間の競争と消費者・利用者の選択肢拡大を通じて新規の需要や雇用を創出する規制改革にある、との認識で進められてきたものである。

 総合規制改革会議の答申では、特に、株式会社の参入が原則的に禁止されてきた医療、福祉、教育、農業の4分野など公的関与の強い事業分野を「官製事業」と位置付け、教育について「株式会社、NPO法人等による学校経営の解禁」を打ち出した。構造改革特区で学校経営をする株式会社に対しても私学助成や優遇税制の適用を認め、学校法人との競争条件を同一化することを提言している。また、構造改革特区に対する特例措置として校地・校舎の自己所有要件の緩和も認められた。

 教育に対するこうした規制緩和の背景には、第三者評価の導入にみられるように、事前規制重視の考えから、事後チエック型システムが構築されつつあることとも関係している。

 「官製市場」に対しては、これまで@サービスの公平性、中立性、A事業の安定性、継続性、B事業者の職業倫理に基く消費者保護などに対する長い間蓄積された信頼があった。規制緩和の反対者は、そうした従来のメリットを強調し、急ぎすぎる改革に懸念を表明する。

 先の読売新聞報道によれば、文部科学省との遣り取りでは、大学としての「根幹部分」の改善を含む、多岐にわたる「異例」の留意事項が付けられたという。「根幹部分」に疑問符がついたとことは、行政と設置申請者との間で「大学」そのものに対する認識・理解が大きく隔たっていたことを窺わせる。

例えば、LEC東京リーガルマインド大学は、得意のノウハウを活かした「資格取得」に特化した大学構想を提出したが、学校教育法の定める大学の理念に反すると指摘され、構想を修正したという。関係者にとっては、それこそが「売り」であったはずである。大学の授業料以外に、お金と時間の必要なダブルスクールを余儀なくされている学生達にとって、大学の勉強が卒業単位と資格取得に直結するなら、大きな魅力であるに違いない。しかし、資格の受験対策だけの大学であるなら、大学の名を冠する教育機関とはいえまい。

 また、デジタルハリウッド大学院大学は、月曜から金曜までは午後7時30分から9時30分まで、土日は日中に授業が行なわれ、教授陣は全員企業の社員の兼務。これに対して審議会からは、教育研究水準の向上と責任体制の明確化が留意事項になったという。

 株式会社立大学は、4月開校になるが日本の大学の活性化に繋がるかどうかまだわからない。しかし、大学の既成概念を打ち破った影響は、決して小さくない様に思われるのである。

                                                  以上