特別講義『現代ロシア論』を聴講して
国際情報専攻 4期生 原口 岳久
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去る10月13日、ロシア外務省外交アカデミー副学長E.P.バジャーノフ博士による特別講義『現代ロシア論』が開催されました。市ヶ谷の日本大学本部には50名ほどの聴講者が訪れ、会場は満席となりました。
バジャーノフ博士は、1946年ウクライナ生まれ。87年にソ連東洋学研究所にて歴史学で博士号を取得され、91年に現職に就かれました。他方73-79年に在サンフランシスコソ連領事館、81-85年に在北京ソ連大使館に勤務され、85-91年はゴルバチョフ大統領の外交顧問を務めるなど、ソ連政府での職歴も豊富です。
ソ連・ロシアの政治や外交を知り尽くした博士の講義は、ソ連崩壊以降激動と混迷を経験しつつ国の建て直しを図りつつあるロシアの現状を知るには、絶好の機会であったと思います。
講義は、ゴルバチョフによるペレストロイカ、ソ連解体後のエリツィンによる経済面でのショック療法、プーチンによる改革という流れに沿って進められました。このなかで印象に残った話を紹介いたします。
冒頭、博士は自分の少年時代の思い出を話されました。博士はロシアの南西部、黒海沿岸のソチという町で少年時代を過ごされました。ソチには西側の観光客が多数訪れていました。地元の少年たちは、観光客がばらまくガムをもらっていたそうです。このエピソードが象徴するように、ソ連の人々は西側の製品や文化にあこがれていました。人々は共産主義に共感を持たず、また西側に反感を持っていたわけではなかった、と博士は言います。20年後に共産的な楽園が誕生するというフルシチョフの言葉も、誰も信じなかったということです。私は少なくとも共産主義の理想にはソ連の人々は誇りと信頼を持っていたのではないかと思っていましたので、博士の話は少し意外でした。いつの時代も人々はまず豊かな暮らしを求めるのでしょうか。
こんにちのロシアにとって国内の最大の政治問題の一つがチェチェン紛争です。プーチン首相はチェチェンの武装勢力に対して毅然とした態度を貫き、チェチェンにおけるロシアの権力を回復させたため、人気が急上昇したとのことです。この問題に関するクレムリンの基本政策はロシア社会にいかなる反発を呼び起こしていない、と博士は言います。しかし、分離主義者が力で押さえつけられて独立をあきらめることはまずないでしょう。チェチェンは今後ともロシアの大きな不安定要因になるのではないかと感じました。
もっとも印象的だったのは、博士が示した社会調査のデータです。ロシア国民の56%がソ連時代の経済システムのほうがよいと考え、43%がソ連時代の政治システムのほうがよいと考えている。また70%がソ連の崩壊は政治家集団の抗争の結果生まれた偶然のいたずらだと考えているとのことです。ロシア国民が経済的不満を持つことは理解できますが、共産主義から自由主義への移行が必然的かつ望ましいことと必ずしも受け取られていないことは意外でした。このデータはロシア社会がいまだ混迷のなかにあることを示していると思います。
講義の後レセプションが開かれました。博士は冒頭の挨拶で、日本とロシアという隣国が今回のような機会を通じて相互理解を深めることを望む、との発言がありました。まさにその通りだと思います。日本にとってロシアはまだまだ近くて遠い国です。お互いを知り、親密な隣人となることが望ましくまた必要なことと感じました。
最後になりましたが、このような貴重な機会を与えていただきました乾先生はじめ関係者の皆様に心より御礼申し上げます。
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