『フランクフルト学派の今を読む』A.ホネット、船戸満之ほか

 

 ISBN:4915252361 情況出版 1999年6月 ¥2,600(税別)

 

     

                                                    

                                       人間科学専攻 3期生 河村俊之

   

 前回でポストモダニズムに関する紹介させていただきましたので、今回は「フランクフルト学派」です。ポストモダニズムとフランクフルト学派は、一般に、社会理論のうえでは対立関係にあるとされているので、比較参照されることをおすすめします。

 

 フランクフルト学派とは、フランクフルト大学社会研究所(1923年から1924年にかけて設立された)を拠点とした社会理論の研究者集団をさし、著名なところでは、マックス・ホルクハイマー、テオドール・アドルノ、ヘルベルト・マルクーゼ、ユルゲン・ハーバーマスという名があげられます。広義には、エーリッヒ・フロムなども含みますが、ハーバーマスより前が<第1世代>、ハーバーマスが<第2世代>で、現在はアクセル・ホネットらの<第3世代>の時代となっています。

 

 さて学派というからには、なにか共通項があってもよいはずで、よく「批判的社会理論」という表現でくくられています。もうすこし踏み込むとすれば、現代資本主義に対する批判理論ということになります。しかし実際には、アドルノ、マルクーゼ、ハーバーマスでは、近現代に対する見かたがかなり異なります。アドルノが、ある意味で近代というシステムに対する懐疑を隠さないのに対し、ハーバーマスは基本的に近代擁護を鮮明に打ち出しています。一方で、マルクーゼはかなりラジカルな意味での文明批判家です。3者の違いは、つまるところ「理性」に対する評価・信頼の差異ということになりますが、結局のところ、この学派の共通のベースは、ホネットによれば「ヘーゲル左派的遺産」ということになるようです。この意味では、ポストモダニズムの近代批判とは領域的に異なります。

 

 ポストモダニズムは、共通して近代全体から距離をおき、その負の構造を探るわけですが、近代以前のありようを心性史的アプローチで解明し、近代批判に適用する傾向があります。ところが、ハーバーマスにとっては、このようなアプローチは、近代の人間解放の成果とさらなる前進の営みを丸ごと無価値におとしめようとする非現実的なもの・反動的なものとうつります。ハーバーマスにとっては、近代はあくまで「未完のプロジェクト」です。ハーバーマスは、近代の合理化の進展と深まりを必ずしも否定しないという意味で未来を信じている理論家と言えましょう。彼は現実政策にも影響力をもっており実践からは離れません。このあたりは、未来へのペシミズムが色濃いポストモダニズムと異なるところです。

 

 しかしながら、第3世代では、ハーバーマスとフーコーを架橋しようとする試みもみられます。「足して2で割る」ような架橋はまず不可能でしょうが、私見では、少なくとも、アドルノとフーコーは、似通った現実違和感から発しているように思います(このことはフーコーも認めています)。

 

実践に無関心とされたポストモダニズムが臨床的関与へと向かいつつあり(その動きはまだ始まったばかりですが)、政策への関与を重視してきたフランクフルト学派が近年では人間学的アプローチを志向し始めているという点は興味深いところです。

例によって前置きが長くなりました。本書の構成をご紹介します。

 

フランクフルト学派第3世代の研究者(アクセル・ホネット、アレックス・デミロビッチ、グンツェン・シュミット、ヨッヘン・ヘーリッシュ、ゲールハルト・シュベッポンホイザーの5人)、日本の研究者(船戸満之、仲正昌樹、古賀徹、日山紀彦、藤野寛、好村冨士彦、清水多吉の7人)の論考集です。『情況』誌への寄稿を集めたもので、共同研究ではありませんが、新たな理論動向を概観できるのではないかと思います。

 

個人的には、アクセル・ホネットの、現代を人間から「承認」される機会が喪失されつつある時代ととらえる認識に、フランクフルト学派ならではの鋭さは健在であるという思いを強くしました。