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T.数字に強くなることの必要性
1.生活のあらゆる面に数字がある
家庭では、家計簿を睨みながら支出の計画を立てます。一ヶ月が終わると収支計算し、赤字を嘆くことが多いかもしれません。外に出ると、携帯電話の料金や交通費がかかり、レストランに入れば飲食料を請求されます。会社での仕事は、数字が溢れています。娯楽や、スポーツも数字で争われるのです。生活のあらゆる面に数字があることは、周知の事実なのです。
2.給料明細(所得税、住民税、社会保険料、労働保険料等)
給料を貰っている人は、給料明細書が交付されています。収入額は正確に把握しているでしょう。しかし、控除額である、所得税、住民税、社会保険料、労働保険料等が正当であるか調べたことがありますか? 年末調整で是正される所得税、住民税に比べ、社会保険料、労働保険料等は意外に間違いが多いのです。控除額の全ての法的知識を知ることが重要に思われますが、会社任せの方が多いのは、残念です。
U.会社等の数字を理解することの必要性
1.会社勤務、公務員、学校勤務、個人営業者等の関心事
@会社勤務の場合、自社の年1回作成される決算書を見ることはもちろん、その内容を分析して今後の勤務に役立たせる必要があります。
A公務員の場合、予算・財政内容を検討し、税収増と行政改革により、支出削減をどのようにするか、研究しなければなりません。公的機関も「公会計(B/SやP/L)」の作成が臨まれています。
B私立学校勤務の場合、生徒数、財務基盤がどのようであるかを知り、今後のあるべき姿を認識する必要があります。
C個人営業者等の場合、売上高、所得額、納付税額等が、関心事でしょう。いかに節税を心掛けるかが問われることといえます。
2.勤務している会社等の決算書で、まず、何処を見る
集合写真を見る時、まず、どこを見ますか? きっと自分の写り具合を見るでしょう。決算書を見るとき、まず始めに、利益を見る人が100%と言っても過言ではありません。次に売上高、そして経常利益といった順が正当といえます。
利益の種類・・・売上総利益、営業利益、経常利益、特別利益、税引前当期純利益当期純利益(最終損益で黒字または赤字ともいいます)。
3.決算書(財務諸表)は経営の1年の成果を示す通信簿
決算書は「財務諸表」といい、貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)が主な書類です。この両者の内容が優れていなければ、優等生になれないのです。
財務諸表には、貸借対照表、損益計算書、製造原価報告書、利益金処分計算書、資本剰余金計算書、附属明細書、キャッシュ・フロー(CF)計算書、営業報告書、経営比率分析表等があげられますが、広義の意味では、上場企業の決算短信、株主総会召集通知書、有価証券報告書等も含まれます。
V.会計基準の大改革
1.改革前の我が国の決算書
改革前の我が国の決算書は、原則として取得原価主義、例外として低価基準により作成されていました。しかし、国際的に通用しない決算書(1997年秋ファイナンシャル・タイムズにおいて、英文アニュアル・リポート〈年次報告書〉添付の「監査報告書」に「日本の会計基準は国際的に通用しない」趣旨のレジェンド〈警告文〉がつき「非国際性」が問題となった)は、グローバルな金融・経済に与える影響が大きかったのです。そこで、現金融庁の企業会計審議会や日本公認会計士協会等が3年の歳月をかけて、国際化を目指した新会計基準を導入し、国際会計基準に近づきました。これらの改革を、会計ビッグバンといいます。
2.主な会計基準の大改革(会計ビッグバン)
@単独決算から連結決算の重視(2000年3月期から適用)。国際化に対応したものであり、例えば、ソニーの場合は2002年3月期で1068社を連結、持分法適用会社は98社に上ります。
A税効果会計(2000年3月期)。標準税率41%、改訂39.8%。繰延税金資産の自己資本(税効果資本とも言う)は、銀行のBIS規制に問題を生じました。
B連結CF計算書、現金主義決算書(2000年3月期)。従前は発生主義。潤沢な資金の保有が重要となりました。
C金融商品会計(時価主義)。有価証券、デリバティブ、不良債権、不良在庫等の評価損及び含み損の一掃(2001年3月期)。持ち合い株式、子会社関係会社株式等(2002年3月期)。証券市場低迷、土地の下落、デフレ経済にあっては厳しい基準となりました。
D退職給付会計(2001年3月期)。隠れ債務等の簿外債務のオンバランス化、運用利率低下で積み立て不足などの大きな問題が発生し、その上、退職給付引当金、賞与引当金は税務で廃止され、有税積立で処理しなければならなくなりました。
E減損会計(2006年3月期)。不動産等の減損処理。証券市場低迷で、今後の行方が課題です。
3.改革前と改革後の決算書(数値)の比較
特別損益の部の事例(営業外損益まで省略)(単位:百万円)
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前事業年度
12年3月期 |
当事業年度
13年3月期 |
差 額 |
経常利益 |
3,227 |
4,906 |
1,679 |
Y 特別利益 |
150 |
141 |
▲
9 |
1.固定資産売却益 |
34 |
20 |
|
2.投資有価証券売却益 |
31 |
1 |
|
3.その他特別利益 |
85 |
120 |
|
Z 特別損失 |
195 |
16,817 |
16,622 |
1.固定資産廃売却損 |
60 |
420 |
|
2.棚卸資産廃棄損 |
− |
340 |
|
3.貸倒引当金繰入* |
− |
810 |
|
4.子会社株式評価損* |
− |
7,750 |
|
5.投資有価証券評価損* |
− |
721 |
|
6.会員権評価損* |
− |
333 |
|
7.退職給付会計基準変更時差異* |
− |
6,390 |
|
8.退職慰労金 |
52 |
− |
|
9.その他の特別損 |
83 |
53 |
|
税引前当期純利益 |
3,182 |
− |
▲
3,182 |
税引前当期純損失 |
− |
11,770 |
▲
11,770 |
法人税住民税事業税 |
1,527 |
1,540 |
13 |
法人税等調整額 |
▲
90 |
▲
6,113 |
▲
6,023 |
当期純利益 |
1,745 |
− |
▲
1,745 |
当期純損失 |
− |
7,197 |
▲
7,197 |
以下省略
*3.大口取引先が債務超過の状態であり、回収不能と思われるが、税務上有税で引当てた。
*4.子会社が債務超過状態となっていたため100%評価損を計上したものである。
*5.持合株式の時価が帳簿価格の50%以下となったため、強制的に評価損を計上したものである。
*6.ゴルフ会員権を時価で評価したために発生した評価損である。
*7.退職給付会計導入に伴い会計基準変更がされたことにより、隠れ債務をオンバランスしたことによる損失である。
上記のとおり、会計基準改革前の取得原価主義によるB/S価額が信頼できないものであるかが理解できたでしょう。改革後では、含み損、評価損、不良資産償却、隠れ債務のオンバランスにより、特別損失が大きく膨らみ、自己資本のマイナスとなって大きな打撃となったことが解ります。
W.決算書の読み方のポイント
(大学院祭研究発表では具体的資料で説明したが、ここではB/S、P/L及びS/Sは省略し、数値で解説する。単位:億円)
1.貸借対照表は一時点の財政状況、損益計算書は一定期間の損益状況
企業経営はゴーイング・コンサーン(継続企業)と言われ、ワンイヤールール(1年基準)に従って決算をしなければなりません。例えば、3月決算の場合、B/Sは2003年3月31日現在の資産、負債、資本からなる財政状態を表しています。P/Lは2002年4月1日から2003年3月31日までの1年間の損益状況を表している計算書です。
2.収益力・成長力をどう読み取るか
@売上高は1,724(前期比16.7%)。A売上総利益99(同16.5%)、同率5.8%(同5.8%)。B営業利益38(同32%)。C経常利益36(同35%)。D減価償却費は限度額まで償却。E諸引当金は必要額を引当。F配当性向31%(配当金総額÷当期純利益)。
収益力、成長力は上記項目が重要な要素となります。特に@ACはこれらを判断する指標として、極めて重要です。したがって、収益力は良い方ですが、成長力はもう一段の努力を要するといえます。また、株主重視の姿勢が、配当性向でうかがえます。
3.経営課題・問題点をどう見つけるか
@有利子負債は0。A試験研究費はP/L上からは判断できないが、潤沢な支出をしていると思われる。B設備投資額は12.5。C損益分岐点=[固定費÷(1−変動費
/ 売上高)]は1,085、経営安全度は、1−(1,724÷1,085)=59%。D売上債権回転期間=(12月÷売上高 /
売上債権)は4.2ヶ月。E資金繰り状況は、現金預金は15で、流動資産の2%。
利子負債が0であり、経営安全度は59%であることから、かなり経営は優れているといえます。また、設備投資額は、非製造業としては積極的投資といえます。課題として、売上債権回転期間を3ヶ月程度に短縮すべきこと、問題点として、CF保有量があげられるでしょう。
4.健全性・不況抵抗力をどう判断するか
@流動比率(流動資産÷流動負債)145%(200%以上が良好)。A当座比率(当座資産÷流動負債)121%(100%以上が良好)。B設備投資額12.5。C内部留保額22。D自己資本構成比率(自己資本÷総資産)32.7%。EROA(当期純利益÷総資産)2.5%。FROE(当期純利益÷自己資本〈株主資本ともいう〉)7.6%。なお、繰延税金資産が皆無であることから、G評価損、含み損はないと断言できます。
財務健全性について、資金繰り面で多少の不安が拭えません。また、自己資本比率の低さからも、財務体力は健康であるとは言えません。ROAは一抹の不安があり、ROEでも投資効率は一考を要する収益力と分析されます。
5.キャッシュ・フロー(CF)のポイント
「利益あって銭足らず」、「黒字倒産」の原因はどこにあるのでしょうか。CFは現金主義決算書を指しますが、その内容は次のように分類できます。@営業活動CF。A投資活動CF。B財務活動CF。CFCF(フリー・キャッシュ・フロー、営業活動CF±投資活動CF=正味現金利益)。
FCFは、最終的に5の赤字であり、在庫投資に資金が流出しています。いわゆる、現金主義決算では赤字となっています。
総合評価として、財務基盤がしっかりしているとはいえない、ということができるでしょう。もう一段の高収益を実現しなければならないという課題が残ります。この原因は、売上原価が高すぎる(売上原価率94.2%)ことに問題点があります。将来性はあるのですが、今後の高収益力と、財務基盤の強化を図らなければならないと思われます。
X.業績向上と人間関係(ノウハウ)
売上を増やせ、利益を上げろ、もっと働けといっても、業績は向上しません。企業が人間関係に基礎をおいている以上、優れた企業にするには、良い人間関係が構築されなければなりません。良い人間関係をつくる、ということは、人に好かれることです。「あの人は、話は下手だが、私は好きだ」と思われれば、その人は一生懸命話を聴いてくれるでしょう。「あの歌手は歌はうまいが、私は嫌いだ」と思われればテレビのスイッチを切ってしまうでしょう。上に立つ人は回りに好かれることです。それは、次のことを実行することです。
1.明るいあいさつ
すべての関係は、あいさつから始まります。あいさつは相互行為ではなく一方行為と捉え、先手を打つことです。相手を尊敬することにもなります。頭を下げ、声に出して、丁寧にあいさつをしましょう。
2.聴き上手になる
相槌を打ちながら、真剣に最後まで聴き、話を途中でさえぎったりしないことです。7聴いて3答える、7対3が最も効果的でしょう。
3.ほめ言葉を使う
ほめ言葉は、お世辞やおべっかではありません。誰でもほめられたい、好かれたいと思っているに違いありません。ほめ言葉は、相手をやる気にさせ、発奮させます。欠点探しは人を駄目にしてしまいます。どんな小さなことでも、相手の良いところを見つけて、ほめましょう。
4.相手の価値を認め、重要視する
人間は誰でも認められたい、重要視されたいと思っているに違いありません。相手の価値を認め、重要視することのできる人こそ、回りに好かれ、人格者だといわれるでしょう。これによって、売上も、得意先も、利益も増えるでしょう。自己中心にならず、相手中心に考え、行動したいものです。(独断と偏見をお許しください)
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