中高年と学生のキャリア・マネージメント



                                    人間科学専攻1期生・修了  井上 久子



 大学院卒業と同時にキャリア・ディベロップメント・アドバイザー(CDA)資格を取得し、サラリーマン(ウーマン)生活に終止符を打ちました。現在はCDAとして、キャリア・カウンセリングをしています。社会の需要に応えるということで、実際の仕事は就職・再就職支援が殆どです。一人一人状況が違うので先入観を持たないように心がけていますが、いくつか私が感じたクライアントの傾向についてご紹介します。

想像力があるのは若者?

 学生に、自分の3年後(1年生が対象の講座)、5年後、10年後を想像してもらいましたが、多くの学生は、社会人としての自分を想像することは難しいようです。具体的に企業人として、家族の一員として、或いは自分の家庭を持つ夫・妻・親として等、自分の果たす役割は、と質問すると少しは具体的になってきます。社会人は、これまでの延長ということか、5年後くらいまではリアルな情景が浮かぶようで、特にこちらから働きかけをすることはありません。想像力を、自分の経験のない世界に向けて働かせることは難しいということを考えれば、学生には難しく、中高年が優れているということは不思議とは言えませんが。

夢を追うのは若者?

 若者のほうが夢がありそうに思えますが、実際には自分の夢を語れる学生は僅かです。中高年は、企業人としての終焉の時が見えてきたためか、切迫感を持ってこれまで抱き続けてきた夢を語り、その夢を追い求めたいとこだわる人も多く見られます。その一方で、現実も理解しているため、かえって迷いも大きくなります。中高年が仕事で夢を追いかけることができるかどうかは、家族の理解を得られるかどうかで決まってきます。学生は、仕事に対する夢自体を持っていないのか、現実的なのか、語りたくないのか、そこのところは分かりませんが、追うべきものが何なのかわからない人が多いようです。

記憶の復元力の高さは若者?

 自分の興味や特性を知る手がかりとして、自分の過去の振り返りをしてもらうことが多いのですが、思い出せないという学生が多いのに驚きました。最初は面倒なのかなと思いましたが、本当に思い出せないようでした。中高年にとって、小・中学生時代は何十年も前のことで、思い出すのは大変かもしれませんが、大学生にとっては、ほんの10年前のことなのに、とても不思議でした。年齢を重ねるほど、直近のことは忘れても昔のことは良く覚えているということと通じるものなのでしょうか。それとも学生は覚えていることが多すぎて、取り出すことができないのでしょうか。

自分に向いている職種がわからない

 中高年からも学生からもよく質問されるのは、「自分に向いている職種は何か教えて欲しい。」ということです。中高年は世間を知りすぎていて、自分の能力を過小評価する傾向があるため迷うのですが、自分の興味と能力を整理しなおすことで自信を持ち、職種を絞り込んでいきます。学生は成熟過程であるため、興味・能力が未分化状態のまま職種を決めようとするので、何に向いているのかわからないという結果になってしまいます。そのために検査ツールを使うことになりますが、学生は素直で、その結果を無条件に信じてしまう人も多く、結果に従って文科系の学生が理科系の学生向けの職種を選んで、どこの企業にも入れないということも、現実に起きています。その点、中高年は、自分の期待している結果が出ないと、検査方法が悪いと考える人が多いようです。

仕事の探し方がわからない

 今のリストラのターゲットになっている中高年の入社時期は、社会・経済情勢がよかったため、大学やゼミの先生の推薦で入社した人が多く、初めて就職活動をするという人が案外多いのです。学生は初めての就職活動のため、どう探すのかを知らないのです。

 もちろん、中高年も学生も自分のキャリア設計がしっかりできている人もいます。そういう人たちはカウンセリングを受ける必要がないので、私たちが相談を受けるのは、問題を抱えている人たちということになってしまいます。しかし、この人たちがキャリア・マネージメントの手法をどこかの時点で教えられていたなら、より迅速に就職できたかもしれません。

 これからは危機管理の一つとして、仕事の切れ目ごとに自分の能力を洗いなおしたり、自分の3年後、5年後、10年後を家族とともに話し合うことを日常化しておくことを、お勧めします。私自身も、定年から逆算して、やりたいことをやるなら今だと意を決して、フリーになってしまったのです。目下のところ、自分でキャリア・マネージメントができ、自分の人生を自分で選び取ることができる人が増えるように、日々支援活動をしています。結果的に、私の仕事が暇になり、私自身のキャリアの再考が必要となるかもしれません 。