"タイガー・ウッズ"はなぜ強い?
                         ――コーチングの秘密――

 

                                   人間科学専攻5期生   松本 光由



     人間科学専攻・5期生   松本 光由

 今、HOTな話題として「コーチング(Coaching)」というのがある。
最近、本屋でもかなりのコーチングに関する本が見受けられるが、まだお目にかかっていない方はもう少し注意深く本屋の書架を見回して見てください。

 私事ですが、3年前から半導体ビジネスに特化したベンチャー企業を経営している。弊社のポートフォリオの一つに「経営者/管理職」向けの研修というのがある。この研修の主眼に"コーチング"とコミュニケーションスキルをおいている。

 今、ゴルフ界最強のタイガー・ウッズをご存知ですか?「YES」を期待して質問です。

 では、「タイガー・ウッズは何故強い?」――これが研修の最初の質問です。答えは、素質はもちろんですが、その強さの影に"コーチ"という存在があるからです。そのコーチ名は"ブッチ・ハーモン"、現在アメリカで、いや世界でもっとも有名なゴルフのコーチです。

 次に、「日本のゴルファーは何故アメリカで勝てない?」――彼等にはこれといった"コーチ"がいません、というより"コーチを雇っていない"ことが一つの大きな理由ではないかと痛感しています。ではその"コーチ"はいるのでしょうか? 最近ぼちぼち目につくようになってきましたが、その数はアメリカの比ではありません。

「コーチを雇う」とは一体どういうことなのでしょうか? 

種明かしをしましょう。
まず、コーチングの基本的な考え方ですが、次のようなものです。
1.答えは"あなたの中"にある。
2.問題や課題を解決する能力も「あなたの中」にある。
3.その答えや解決能力を相手から「引き出す」プロセスがコーチングです。
  そのプロセスをやる人が「コーチ」です。

その実例をタイガー・ウッズとブッチ・ハーモンの会話からみてみましょう。(自作自演)
状況:タイガーがボールを大きく曲げて、ボールは林の中に飛んでいきました。

ブッチ 「タイガー、ボールが曲がって林の中にいったぞ」
タイガー「前のホールでは真っ直ぐだったのに……?」
ブッチ 「何がボールを曲げたの?」――ポイント:"なぜ?"と聞かない。
タイガー「ウウーン、体の開きが少し早すぎたようだ」
ブッチ 「少しって?どのくらい?」――ポイント:"あいまいさ"をさらに掘り下げる。
タイガー「……」――ポイント:"考えさせる"。
ブッチ 「それでは、大きく開いたのを"10"として、開きが殆ど無しを"0"とすると、どのくらい開いた?」――ポイント:"あいまい"にはレベリング"というスキルで  対抗している。
タイガー「ううん、6くらいかな」
ブッチ 「じゃあ、0に近づけるにはどうすればいい?」――ポイント:"考えさせる"。
タイガー「バックスイングをこの位深くかな……」
ブッチ 「他には?」――ポイント:さらに掘り下げる。
タイガー「体の回転を少しゆっくり、こんな感じだ……」
ブッチ 「他には?」――ポイント:さらに掘り下げる。
タイガー「この二つで充分だ」――ポイント:これがタイガーの"答え"だ。
ブッチ 「じゃ、やって見せてくれ」
タイガー「OK、、ジャ、いくよ」
    ビューーーン、ボールは真っ直ぐフエアーウエーのセンターを捉える。
ブッチ 「ベリーナイスだ。それでいこう」
タイガー「了解だ」

 もし、このボールが曲がりだした状況でコーチがいないとすると、なかなか自分で答えが探し出せないでミスを繰り返すことになる。

 人は喋って、自分の言葉を聞いて始めて答えやポイントを探し出すことが多くある。心理学ではこの状況を「オートクライン」と定義している。

 ということはコーチの存在は相手にたやすく「オートクライン」の状況を作り出すことにあるようだ。それはコーチからの質問によって相手が話し、その話の中に自分の答があるのを見つけるからである。コーチは「相手に考えさせ、答えと解決策を引き出している」。

 このようにコーチはほとんど教えないし、やたらアドバイスも与えない。ただ相手の中に答えがあるということを信じて、ひたすらその答えを引き出す努力をするのである。

 話は変わって、我々一般サラリーマンや中小の商店主や企業主の場合はどうだろう?

 スポーツのプロの世界もそれはそれなりに厳しいが我々が生活している現実はもっと厳しいといえる。

 1年間に交通事故で死亡する人は昨年で約8000人だという。
それでは「昨年1年間に自殺した人数はどの位ですか?」
その数はなんと3万人を越えるということです。

 電車に飛び込む人はその1部ですが、その電車に飛び込もうとする人に、もしコーチがいたらどんな質問をして、どんな答えをその自殺志願者から引き出すでしょうか? そして、その自殺を防げることが出来るのでしょうかか?もっとも、その答えは彼が持っているということに成りますが……

 深刻な話はこのくらいにして、もし、あなたが自分の人生をさらに向上させ、幸福な人生を送る為にコーチを雇うとしたら、そのコーチは役に立ちますか?
コーチを「雇っている」、「いない」をタイガーの場合に比べて、あなたならどんな違いを期待しますか? コーチのいる人生を想像してみてください。

 私も現在、「コーチ」を雇っています。コーチ料金は1ヶ月、3万円です。川崎に住んでいるコーチに毎週1回30分間、決めた時間に電話します。「本を書く」が昨年のテーマでした。自分一人ではなかなか実現しなかったことがコーチのお蔭で遂に2年かけて、出版にこぎつけました。

 今年は「時間の有効利用」がテーマです。本大学院の9月までのレポートがちゃんと出せるかどうかがその結果の一つになるでしょう。

 今、アメリカには1万6千人もの専業コーチがいるといわれています。
日本にはまだ300人前後のプロのコーチがいるに過ぎません。もっと、もっと我々の身近に人生のコーチがいて、好きなときに相談に乗れるようになればいいなと考える今日この頃です。(私自身、ある財団法人認定のコーチをしています。)