「海の友情―米国海軍と海上自衛隊」
                    阿川尚之著(中公新書、2001年、820円)

 

                                        
                                       総合社会情報専攻1期 山本忠士



 著者は、昨年8月、慶応義塾大学教授から外務省に請われて米国公使(広報文化センター部長)に就任した人として知られる。ジョウージタウン大学ロースクールの出身で米国の法律事務所で弁護士活動をした経歴を持っている。

 本書は、米国防総省日本部長であったジェムス・アワー氏と海上自衛隊との「もののふ」の交流が、戦後史の流れの中で描かれている。アワー氏は、若いとき、軍から大学院に派遣され、戦後日本の海上自衛隊誕生を研究し博士号を取得した特異な経歴を持つ人。同氏の研究が、米国海軍と海上自衛隊との人間的な信頼関係の絆に支えられたいきさつが、書名である「海の友情」の意図をよく伝えている。

 初めて知ったことも多い。例えば、戦後日本の沿海には、米軍の付設した感応機雷12,000個、日本軍の付設した防禦用機雷55,000個が残り、多くの船が触雷、沈没したこと。その処理のために帝国海軍の掃海部隊艦船391隻、人員19、100人が名称と所属をを変えてそっくり残り、戦後7年間、掃海中に殉職した人が77名もおり、毎年慰霊祭が催されている話。この部隊が極秘のうちに朝鮮戦争に出動したことなどである。

 万一の場合、国民をどう守るかは、国家の最重要責務でもある。有事関連法案をめぐる新聞報道を読みながら、等閑視されてきた「国防」問題がようやく動き出した思いがする。   

 日本の戦後の「無事」の背景に、同盟関係にある米国海軍と海上自衛隊の「もののふ」達の友情―相互信頼と無言の精進があったことに、胸打たれるものがある。

 人は石垣、人は城という。「有事」の信頼は、「無事」のときにこそ蓄えられるのである。