Ringに魅せられて


                                                      

                              文化情報専攻3期生   渡部 美

                 

 まず、最初にお断りしておきますが、私の修論奮戦記はこれから修論を書こうと考えている学生には余り参考にならないかもしれません。むしろ、「反面教師」的役割を果たしてくれたらと思っています。

 

 私は2年次にファンタジーを研究している竹野先生が新しく着任されたことを知り、ゼミを変更させてもらいました。高校時代に少し読んだことのあったThe Lord of the Ringsのタイトルを先生の課題で目にし、3月の下旬にゼミに入れてくださるようにメールでお願いしました。その後、風邪で何日も寝込んでいたのでメールを開いていませんでした。久々にメールを開いてびっくり。その日の午後に所沢で竹野先生が待っているとの知らせが入っており、病み上がりの体に鞭撃って面接に出かけました。この機会を逃したら修了できないと考え、何が何でもゼミに入れてもらおうと思いました。竹野先生は突然押しかけてきた2年生である私を快く迎えてくれました。

 

 研究したい作品が決まって資料を取り寄せて愕然としました。なんとThe Lord of the Ringsはうんざりするほど長い作品で、ペイパーバッグで6冊ありました。作品研究をするのに原書を読まない訳にはいかず、毎日辞書を引いてはこつこつと読み進めました。作者のJ. R. R. Tolkienは言語学者のため、言葉の使い方が上手いのです。言い換えれば、同じ言葉を使わないのです。即ち、同じことを異なる言葉で表わすために、使用している英単語の数が半端ではありませんでした。最初に通読するのに4ヶ月を費やしましたが、2度目は2ヶ月ほどで読めました。作品が長いだけに、研究できるテーマは多く、テーマを絞るのに時間がかかり、最終的にテーマが絞れたのは10月末の個別指導の時でした。

 論文を書くときには作家の生まれ故郷を旅するのが私の研究の一部になっています。卒業論文を書いた時にもE. Bronteの生まれ故郷のHaworthに行って彼女が住んでいた所を見学しました。今回も夏休みを利用してOxfordに出かけ、J. R. R. Tolkienが住んでいた家やMerton Collegeを見てまわり、背景にあった環境を観察しては、どのようにしてあの様な偉大な作品を書くことが出来たかを私なりに考えました。また、Tolkienのお墓参りを行い、修論を書く予定であることを報告しました。

 

 テーマが決まってあとは書くだけだったのですが、なかなか作業が進まず、卒業を6ヶ月延ばそうかと考えた時期もありました。他の学生が1年目から研究しているところを私は2年目から始めたので出遅れている事は確かでした。しかし、竹野先生がお正月休みまでかかっても良いといって下さったので、12月から修論完成を目指して一気に書き進めました。作品の分析は気づいたことをメモしておいたのでそれをつなげて纏めました。また、知り合いのオーストラリア人にも事情を説明してお正月は修論をチェックしてくれるように頼んでおきました。

 完成したところから竹野先生にメールで送り、同時にネイティブチェックをしてもらいました。竹野先生は提出日前日深夜にも原稿を見てくださり、提出日の午前中に返信のメールをくださると言う過密スケジュールにもかかわらず、最後まで私にお付き合いをして下さいました。時間的にはぎりぎりに完成したため、引用の書き方が不適切で、試問の後も指導が入りました。最後の最後までご迷惑をかけた学生でしたが、竹野先生に対しては感謝の気持ちで一杯です。本当に有難うございました。

 

 最後に作品を読み始めて暫くして出会った言葉をご紹介して終わりにしたいと思います。GandalfRingを捨てる旅に出ることに躊躇しているFrodoに言った言葉ですが、この言葉に私も大いに刺激を受けました。

              All we have to decide is what to do with the time that is given us.

                                                       (The Lord of the Rings)