修士論文執筆のための前提となる情報収集
国際情報3期生 立石佳代
大学院に入学して、すでに2年が過ぎようとしている。この2年間は時間に追われていたが、充実した日々であった。入学して、すぐに修士論文のテーマを確定した。修士論文題目を「日米自動車メーカーの国際化戦略の比較」とし、研究の目的を「どのような理由から日本自動車メーカーが、世界のトップクラスの競争力を維持しているかを検証し、さらなる国際競争力を強化するための国際化戦略について、米国自動車メーカーと比較しながら明らかにする」とした。 日本の産業競争力は、1993年の世界第2位から、2002年には第30位に転落している(IMD=国際経営開発研究所による)。製造業の集積「世界の工場」と呼ばれる中国の台頭により、日本産業の空洞化が進行し、日本企業の競争力が衰弱していくのではないかという懸念が持たれている。すでに、多くの日本の製造業が、業績悪化、株価低迷、海外投資の収益率の低下など、大きな課題を抱えている。日本産業の国際競争力が低下するなか、自動車など、一部の産業では世界トップクラスの国際競争力を有し、国際化戦略を優位に進めている。国際競争力をどのように捉えるかは、企業の属する産業の歴史や置かれた条件などよって違ってくるが、自動車などのクローズドアーキテクチャの製品では、日本企業は国際競争力を持っている。 最近、燃料電池車が話題となっているが、燃料電池車などの次世代技術開発も自動車メーカーの国際競争力を計る1つの指数となる。これまで自動車メーカーは低公害化に向け、ガソリンエンジンの燃費改善やハイブリット車(電気とガソリン)、燃料電池車などの開発に取り組んできた。燃料電池車は、エンジンがないことが特徴である。その仕組みは、水を電気分解すると酸素と水素が発生する。この反応を逆にして酸素と水素を化学反応させて電気を取り出す。反応後は電気と水しか出ないため、CO2、NoXなどの有害ガスが発生しない。燃料電池車は、電気自動車の一種であるが、電気自動車が蓄電された電気しか使えないのに対し、燃料電池車は発電しながら走行するため、スピードや走行距離などの性能が高い。燃料となる水素の発生と貯蔵手段の開発、水素と酸素から電気を発生させる発電装置の効率と制御の改善、燃料システム全体の小型化など技術的には高い壁がいくつもある。この燃料電池車で実用化に成功したのが、トヨタ自動車と本田技研工業である。燃料電池車の開発により、日本の環境技術水準の高さが世界に示され、この分野でデファクトスタンダードの争奪戦を有利に進められことになった。 この他、世界の自動車メーカーに関する調査、生産方式、サプライヤーシステム、モジュール化の動向等、調査することは山ほどあった。図書や学術論文などからの情報収集の他に、実地調査も行った。例えば、名古屋市が市民・事業者の低公害車への理解を深め、普及促進を図ろうと開催した「低公害車フェアなごや2002エコカーフェスティバル」に出向き、1時間も並んで順を待ち、低公害車に試乗した。電気自動車、天然ガス自動車、ハイブリッド自動車、LPガス自動車の区別がつかず、開発したメーカーに説明を求めた。また、自動車に関する施設を回り、自動車メーカーの歴史や自動車の仕組み、生産方式を観察した。さらに、自動車販売ディーラーに行き、プラットフォームを共通しているモデルがどれかといった質問などをした。このような質問をする訪問者は、奇妙に見えたかもしれない。修士論文執筆の前提となるのが、こうした調査による情報収集である。 五十嵐雅郎教授のゼミ生に対する熱心な指導ぶりは半端なものではなかった。尊敬する師をディレクターやコンダクターと思い、指揮に従って進めることにした。最初は、ディレクターの指導どおりにならなかったし、コンダクターの指揮どおりの音を奏でることはできなかった。それでも、コンダクターの指揮のもと、美しい音色を奏でたといは言えないかもしれないが、少しずつ音を奏でていく自分の姿が見えるようになってきた。教授の熱心な指導とフォローがなければ、落ちこぼれていたかもしれない。 今、修士論文を提出して、何だか自分の手を離れたような淋しい気持ちになっている。 参考 『日本経済新聞』2002年8月20日・特集「ニーズで知る経済・燃料電池車が走り出す」 『経済Trend8月号』2002年8月1日、「日本企業は国際競争力を喪失したのか」 |
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