競技意欲検査の作成




人間科学専攻2期生・修了 金井泉寿

エリートアスリートの心理的競技意欲を測定する検査はいくつかありますが、日本体育協会が作成したTSMIを素材に新たに作成してみました。

以下要約です。

目的

TSMI(Taikyo Sports Motivation Inventory: 体協競技意欲検査)は、項目数146,尺度17と量的に多く、時間もかかり簡便性に欠ける。また本校選手に対して尺度が適切であるか検討を必要とした。そこで、T校所属選手に対しTSMIの質問項目を活用し因子分析を実施し軽易に実施できる競技意欲心理測定を作成することを目的とした。

方法

収集データ: T校で実施したTSMIの586回答。

調査時期:  1997年から2001年までの5年間

被検者:  10種別班所属選手、

所属別回答者数
種別 回答数 種別 回答数
レスリング 277 ウエイトリフティング 52
射撃 50 陸上 37
水泳 5 近代五種 33
アーチェリー 13 柔道 18
ボクシング 35 ハンドボール 27

使用統計ソフト: SPSS Ver10.0 

統計処理:  因子分析、t検定、相関係数、ヒストグラム、パーセンタイル。

分析手順: 項目分析、妥当性の分析、信頼性の検証、質問紙の再構成、再調査と結果の分析。

項目分析: 項目の通過率、Good−Poor分析、Item−Total相関分析を実施し、146項目の質問項目から不適切な項目を削除し、120項目とした。

これを因子分析し22因子を得た。この因子を対象に該当項目数、因子負荷量の観点から取捨選択し、仮に命名した9個の尺度、@努力志向性(12項目)、A計画実行性(15項目)、B試合不安(10項目)、C自己コントロール(10項目)、Dコーチ対立(9項目)、Eコーチ受容(8項目)、F闘志の強さ(8項目)、G知識追求・研究(5項目)、H勝利追求(5項目)を抽出した。

妥当性の分析: 内容的妥当性、基準関連妥当性(併存的妥当性及び予測的妥当性)、構成概念妥当性(収束的妥当性及び弁別的妥当性)を実施した。基準関連妥当性においては、すでに実施されているDIPCA競技意欲検査を比較対象とし類似尺度での相関係数を算出し検討した。予測的妥当性においては選手のパフォーマンスレベルとの相関関係を分析した。収束的妥当性では、尺度相互間の相関係数により検討し、類似尺度相互の相関において妥当な数値が見られた。

信頼性の検証では、再テスト法、折半法による検証を実施した。再テスト法の信頼性係数は、0.579〜0.730で概ね基準値を満たすものだった。折半法による検証では、Spearman−Brawnの公式による信頼性係数を算出し範囲は0.679〜0.843で基準を満たすと考える。

質問紙の再構成では、各尺度の質問を5項目とし、尺度を仮に決定し新たな質問紙を作成した。

再調査において、同様の分析を繰り返した。この際、因子分析において第1尺度と第2尺度の差異が不明瞭で、項目を5個にすると単一の因子しか抽出されず、第2尺度を内容的に第1尺度の含まれるものとして削除した。再度残った項目を因子分析、相関係数算出による分析を繰り返し、最終的に40項目の質問による8尺度の心理測定用紙を完成した。

命名した尺度は次のとおりである。

第1尺度 努力志向性:           練習に対する意欲、熱意、向上心など

第2尺度 自己コントロール          心理的に自己をコントロールできる能力

第3尺度 試合不安                  試合に際しての不安や心配の度合い

第4尺度 コーチ抗性                 コーチとの関係の良否、不満などの度合い

第5尺度 コーチ受容                 全般に指導を必要と考えたり受け入れる度合い

第6尺度 研究心                     競技に対し研究したり、知的興味の度合い

第7尺度 勝利追求                  勝利価値観、勝利に対する執着心の度合い

第8尺度 闘争心                    試合時の闘争心、精神的強靱さの度合い

評価法の作成においては、各尺度のヒストグラムを作成し、各種評価法を検討した。合計得点は正規分布に従うと思われるが、いくつかの尺度は、正規分布から極めて離隔していると考えられ。パーセンタイルによる評価を採用した。

作成した測定法により、所属選手の心理特性のうち、個人の特性プロフィール、競技種目別による特性、経験年数による意欲の変化及び極めてパフォーマンスレベルの高いオリンピック級選手の心理特性の分析などを試みた。その結果、個人の特性、種目別特性、グループの特性、経年変化などを調査する際、本競技意欲検査は、有効であり適切に活用できることが明らかになった。

以下質問用紙

PTS競技意欲検査質問用紙

   年   月   日  所属:         氏名:

次を基準にし、質問に該当するABCDに○を付けて下さい。

よく当てはまる・・・・・A  やや当てはまる・・・・・・B

あまり当てはまらない・・C  ほとんど当てはまらない・・D

No              質   問     

1  新しい技術を与えられたら、それをマスターするまで努力を続ける。

2  試合で競り合いのとき、冷静な判断ができる。

3  試合中にミスをするのではないかといった不安を持つことがある。

4  コーチに対して反抗心を感じる。

5  コーチの言うことならどんなことでもする。      

6  自分より弱い相手と試合をするより、強い相手とするときの方が闘志がわく。

7  競技やスポーツの本を読むのが好きである。

8  スポーツは、勝つことが最大の目標である。

9  一つのことがうまくいかないとき、それをやめてほかのことをするより、それができるまで努力し続ける。

10  試合に負けそうなときでも、非常に冷静に力を出すことができる。

11  私は試合前に不安を感じる。    

12  コーチに注意されると腹が立つ。

13  コーチの指示に従い、コーチから期待されることをしたい。

14  相手が強いほど、闘志がわいてくる。    

15  偉大なスポーツマンの伝記を読むのが好きである。

16  スポーツは楽しむことより勝つことに意義がある。

17  目標を立てたら、途中であきらめることなく最後まで努力できる。

18  試合中私は心を平静に保つことができる。

19  私は試合の前に、うまくできないのではないかと心配する。

20  コーチの作戦や計画に不満を感じる。            

21  練習中、よくコーチの話を聞いたので、成績がよいのだと思う。

22  大きな試合になればなるほど闘志がわいてくる。  

23  競技についての話を聞くのが好きである。

24  みんなで楽しむスポーツよりも、勝敗の明白なスポーツの方がやる意欲がわく。

25  自分の満足できないプレーは、納得するまで練習する。    

26  周囲の興奮に左右されることなく、自分をコントロールできる。    

27  競技の成功への期待よりも、失敗することの方が気にかかってならない。    

28  なんとなくコーチと肌が合わない。      

29  コーチから言われたことは、その通り実行する。  

30  競り合っている時ほど闘志がわいてくる。

31  自分の種目について書かれてある本は、積極的に読んでいる。      

32  競技は勝たなければ意味がない。

33  困難な状況に置かれても、それを乗り越えようと努力する。

34  競争場面において、精神的な強さを発揮することができる。

35  うまくいかないのではないかと心配で競争を避けることがある。

36  コーチが他の人に変わってほしいと思うことがある。

37  試合運びがうまくいくのは、コーチの指示がよいからだと思う。    

38  ここ一番というときに闘志がわいてくる。

39  良いプレーヤーの出場している試合を、ビデオ等で研究したい。

40           スポーツマンに必要なことは、勝利に対する執念である。

 測定結果の一例

以上です。興味のある方は、利用してみてください。連絡先は

mulberry@peach.plala.or.jp

です。