東武練馬まるとし物語









国際情報専攻3期生
若山太郎

   その三 「がんばれ商店街」

 毎年7月の最後の土曜日、僕の店の商店街では、今年で10回目となる、きたまち阿波踊りが開催される。過去には土砂降りの雨の中、開催されたこともあった。去年は18連、合計千名の方が踊りに参加し、7万人もの方々が商店街に見物に来られた。今年も天候にも恵まれ大変な賑わいの中、開催された。

僕はこの阿波踊りで直接踊ったことはない。この日は1年で一番、店が忙しくなるからだ。義母であるおかみさんは、過去に一度だけ地元の商店街の連に参加し踊ったことがある。今年、本番の一ヶ月ほど前の連長会議に、夜食としてお弁当のご注文をいただき、30個ほど配達した。

「まるとし」は、二つの商店街の真ん中に位置している。この二つの商店街が年に一度力を合わせる最大のイベントが、夏の阿波踊りである。

当日踊りへの参加者の連は、それぞれの商店街の連、近くの自衛隊の連、児童館などの子供の連、高円寺などその他の地域からの連、飛び入り歓迎の連など、各連が特徴のある踊りを披露し華やかである。

地元の商店街の連は、以前徳島から招かれた先生に踊りの指導を受けたこともある。阿波踊りは側から見ると簡単そうに見えるがかなりきついということだ。女性の踊りの場合は、特につま先にくるそうだ。笛や太鼓に合わせ、皆さん汗だくになって懸命に踊られる。こうして商店街の力の結集で、地域の活性化がはかられる。

今年「まるとし」では、紙コップを用意して、店外のお客様に生ビールをお出しすることにチャレンジしてみた。

 義妹に頼んで僕の子供たちを連れてきてもらい、初めて阿波踊りを観戦させることができた。生ビールの販売を恥ずかしそうに手伝ってくれた子供たちの姿は頼もしかった。

この夏、この妹の結婚がとんとん拍子に決まった。式は11月だ。直接妹の彼に会ったことはなかったし、つきあい始めた彼がいるぐらいの話として聞いていた矢先のことだった。

振り返れば半年前、おやじさんと店以外のことで話している時に、たまたま妹の話になった。「おやじさん、家で、あまり妹が居心地良すぎるのはよくない」そんな話をしたことが思い浮かんだ。間接的にこの言葉が妹の結婚に影響したのだろうか。

妻と知り合ってから早いもので16年経っている。義妹のことは中学生の頃から知っている。彼女は、義理と人情に厚く、気持ちがやさしいので、子供たちが生まれた時・幼稚園の行事など、事あるごとに大変世話になっている。

先日、妹がその彼を連れて店に挨拶に来た。初めて会った彼の印象は、なかなかの男前。長男の嫁として親戚の多い家に嫁ぐ決心をした妹の気持ちがなんとなく納得できた。それにしても、とても幸せそうな妹の顔を見るのは久々だった。よかったね。おめでとう。

僕の店は、二つの商店街で唯一、それぞれ発行しているポイントカードの両方を使えるのが自慢だ。

一方の商店街では、顧客確保のため、ポイントカードを使っての夏や冬の抽選会、屋台祭りなどのイベント、とてもお得な生鮮市など健闘している。

もう一方の商店街も、春の桜祭、それぞれの店の前で出店を出してお客様にサービスをする朝市やナイトバザール、他にもクリスマスフェスティバルなどのイベントの実施、地域通貨の発行など数々の活動で健闘している。

スーパーやショッピングセンターはワンストップショッピング、便利で忘れられがちかもしれないが、商店街は地域のことを今も昔も一番に考え、商店と住民の間を取り持ち、本当にとても暖かい存在なのである。今こそ買い物の原点に帰ろう。

「商店街の魅力は個店の魅力」僕の商店街に対する考えである。

「まるとし」のように、店に後継者がいる場合はいいが、後継者もなく、この不況の中、業種を問わず商売をし続けることは、限りなく難しい。店主の多くは、店を継がせることで、子供に自分がしてきた苦労をさせたくないと考えているようだ。

昨今コンビ二やいろいろな商売のチェーン店が幅を利かせているが、街の風景が同質化していき、商店街を取り巻く個店の経営環境の変化は著しい。毎月のように近くの店が商売をやめてしまう。ただ、どんな環境にあろうとあきらめたら終わりだ。自分を信じ、お客様にとって、店を魅力的にする努力を続けることが生き残る道であると思う。

おやじさんはあまり変化を好まず、店のメニューを新しく追加することはほとんどなかった。逆にいえば、商品を絞り込んでこだわった商売をしてきたということは、すごいことだったと思う。しかしそれもなかなか難しい時代になった。

僕はお客様の予想を越えるサービス・商品・味を提供することを常日頃考えるようになった。この1年新しいメニューを毎月のように増やしてきた。具体的には、新しい食材として、抗がん効果もあるというホタテ貝柱、これからの時代より需要が高まるであろう(特に女性やお年寄りに向けた)白身魚(メゴチ・イトヨリ)、ビールのつまみとして、肉じゃが、豚の角煮などである。

そのどれもひとつひとつ、食材を仕入れた段階からその調理方法を試行錯誤し、メニューに加えた。価格も低めに設定したこともあるが、それぞれ好評である。つい最近登場させた、「タンブラー生、300円」もビール会社からグラスを新たに取り寄せ、一口生ビールより量が多く、中ジョッキ生より量の少ない、おしゃれなグラスの商品も登場させた。

 新たにチャレンジすることは、正直にいって最初は恐る恐るであったが、一度注文いただいたお客様から、二度、三度と引き続き注文をいただけると、自分のアイディアの結果は間違いなかったのだと確信する。思いついたらやってみる。今年の後半に実行したいプランが、まだまだ僕の頭の中にある。

店の変革では、仕入れ先の見直しも一巡した。一度仕入れを変えたものでも、物によっては以前の仕入れ先の方が安くなる場合もあり、情報収集は常に気が抜けない。電話で注文し配達してくれる仕入先だけでなく、おやじさんが以前手間がかかると敬遠していた、地元の店の良質な特売品にももちろん目を光らせ、直接足を運び仕入れる。ただこうして商品を単に仕入れるだけではなく、在庫を限りなく抱えず、商品の回転をよくすることは、店の利益にとって大切である。

経費の見直しも始めた。こんな厳しい時代だから何が起こってもおかしくない。店の体力をつけるためにも、お客様に影響のない部分はすべて見直し、削れるところは思い切って削る。継続して契約していた広告費も、効果を実感できないものは削った。いろいろ見直した中で、特に大変だったのが人件費へのダウンサイズアプローチである。昼間15年以上勤め続けているパートのお姉さんがいる。必然的に時給も高くなっているが、当然それに見合うだけ仕事をしていただいている。そしておやじさんとお姉さんは阿吽の呼吸にある。僕が割って入らなければ、今まで通り何の問題もない店の姿である。

僕がおやじさんだけでなく、お姉さんにもかなり長い時間をかけ、店を取り巻く環境の大変さ、店の数字を日常の会話の中でさりげなく伝え続けていた。話し方が気に入らなかったか、ある時4日ほど口を聞いてくれないこともあり、最後には泣かれてしまった。僕は常にお姉さんに対して、日々人一倍気を使って話していたつもりだが、この時ばかりはかなり精神的に落ち込んだ。お姉さんもつらい気持ちだったろうなと思う。妻はまだ子供たちが小さいので、店に出ることは限られ、お姉さんにはこれからも仕事のパートナーとして頼ることも多い。一時は辞めてしまうのではないかと心配した。結局、お姉さんには、お客様の落ち着く時間、賄いをやめ一時間早めにあがってもらうことにした。雨降って地固まる。今まで以上にお姉さんは集中して働いてくれている。

ここで僕の勉強について取り上げる。資料も集まり先生との個別指導を受け、論文のタイトルや章立てもほぼ出来上がった。章ごとに資料を集めると山ができ、それにつまずいたと子供たちに責められることもある。章立ては当初に比べてかなり絞ってきた。今まで読んだり考えたりしたことの多くを切り捨てていくのはつらいものがあるが、論文を書くということはそういうものと考えるのは僕だけではないだろう。

一つ僕がこだわっていることは、資料を集めるだけでなく、機会があるごとに、いろいろな場所、特に協会や研究所などが主催するセミナーや講演会に出席することである。参考文献として選んだ著者の話や、通訳を通して聞く外資系企業責任者の話、国内企業の社長さんの話など、直接聞くことは大変参考になる。やはり、情報は足で稼ぐという、ゼミの先輩のアドバイスを自分なりに活かしているつもりだ。

このような機会に出席できるのも、僕が店を抜けた後の仕事をしてくれている、おやじさんたちのおかげである。

最後に、店の厨房の話を付け加えたい。僕のような小さな店でも、機械化は進んでいる。特に限られた人員で店の仕込みをする時に、力を発揮する。朝ご飯を炊く時に、ライスロボが活躍する。お米の計量、洗米からざるあげまでしてくれ、スイッチを入れれば炊飯も自動的だ。他にも、キャベツロボは、キャベツのヘタを取り、機械にのせるだけで自動的に切れ、太さも調整できる。僕が入ったばかりの頃は、キャベツ用のかんなを使い手で切っていたものだ。

とん汁やクリームコロッケは、暑いけどガスレンジに張り付いて作る。これは昔から変わらない。とん汁はじっくり煮込んだスープを使い、クリームコロッケはへらで小麦粉とバターに牛乳を加え、かき混ぜながら作る。これは手間がかかる。ガスレンジといえば、店の換気は、ソイルスクラバーといって、煙を水に通して油煙、臭気を取り除くシステムで、音はうるさいけど立派なものだ。アルカリイオン水の浄水器も、料理やご飯の美味しさを際立たせている。フライヤーは2層で、料理によって使い分ける。油の調合は、大事だ。

お店は、営業時間だけでなく、朝の開店前のそうじや食材の準備、閉店後のかたづけなど、目に見えない部分も重要である。

そんな中で、僕は、肉を切り分けた後、仕上げるため一枚一枚丁寧に叩く。そんな時心の中で「このかつを食べて、お客さんが元気になれ」とか「店や商店街が、元気になれ」などと思いながら気合を入れて、叩いているのである。

http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Suzuran/2041/index.html

  http://www.nerima.jp/b05/_open.asp?id=marutoshi

以下、次号

                     (撮影・宮嶋貞雄氏 および 宮嶋泉氏)