『浮遊する日本』を読んで


この夏、国際情報専攻、近藤大博教授の新著、『浮遊する日本』花伝社2002年4月発行1,800円+

文化情報専攻の私がこの本を取り上げることに違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれませんが、日本のみならず世界にも目を向けて学問探求をしている点では、国際情報専攻も、文化情報専攻も、人間科学専攻も違いはありません。そしてこの本はまさに、私たち今いかなる国に住んでいるのか、世界は日本をどう見ているのかを感じさせてくれる本でした。

この本は次の五つの章立てからなります。

T章:世界から見た日本・日本から見た世界

U章:政策への視点

V章:メディアの裏側

W章:論壇から

X章:誤解される日本・誤解する日本人

それぞれの章に、近藤先生が雑誌等で発表されてきた小論やエッセイ、或いはご講演の記録が連ねられていて、どれも面白い読み物になっています。例えば第T章は、最初の稿の「外国・異文化理解はより困難に」から第29稿の「二一世紀日本の使命」まで二十九のお話があって、それぞれに日本と世界とを意識させられる話題が語られています。

26稿では、「文明の衝突か?」と題して、昨年911日の同時テロの事件が、サミュエル・ハンチンソン、ハーバード大学教授の『文明の衝突』をめぐる論争として語られてました。911日の同時テロの事件は、政治経済の問題として大きな問題ですが、文明の衝突という視点で見れば、これは文化・文明論を学ぶ文化情報専攻の者にとっても、避けては通れない、非常に重要なテーマです。また、イデオロギーの対立や人々の心理の問題として見れば、人間科学専攻の皆様にとっても、関心の持てるテーマでしょう。

第T章の締めくくりである第29稿、「二一世紀日本の使命」では、哲学者の梅原猛氏の言葉が取り上げられています。同稿によると、「哲学からの再出発」『ボイス』20022月号の、稲盛和夫・京セラ名誉会長との対談で、梅原氏は、(日本人は)「多神教的価値観に基づいて人類の平和を考える思想を本気でつくるべきではないでしょうか。そんな気持ちが、あのテロ事件以来、非常に強くなりました」と述べています。また、対談の最後で、「日本人は自分たちのなかにある仏教的、神道的価値観をきちんと整理して、英語で世に発表すべきです」「これが二一世紀の日本の重要な使命だと思います」と提言されています。

上記、梅原氏の言葉は、私たちが中心になって活動している国際融合文化学会(ISHCC International Society for Harmony and Combination of Cultures)の理念とも合致するところがあって、私は感銘を覚えました。

近藤先生も、「二一世紀の初日たる九月一一日は、実に多くの問題を提起しています。まずは、アイデンティティを取り戻すべく、文明を、宗教を、再度、根本から捉え直す必要がありそうです」と述べて、政治経済のみならず、文化、思想の面にも目を向けるよう語られており、まさに三専攻横断のテーマと捉えて、メッセージが発信されています。

本書は、他にも、教育の問題や生活スタイル、日本人的な考え方の問題など、興味深い話題が満載されています。第V章のメディアの裏側の、「ワイド・ショーの正しい見方教えます──テレビ画面の向こう側から」や「編集長からの転進──訪れたこともないアメリカ大学の客員教授に」など、これらは実際に編集長を務め、テレビのコメンテイターを務められた近藤先生にしか書けないお話です。

興味を持たれた皆さま、ぜひ本書を手にとってページをめくってみてください。そして最後に、本書のタイトル『浮遊する日本』の意味について考えてみてください。もし何か、引っ掛かること、学びたいこと、研究したいことが見つかったら、その時はこの大学院で一緒に勉強しませんか? 当大学院の門は、社会人の貴方にも開かれています。

文化情報専攻3期生 菊地善太