「足で感じるアジア」


高山義浩著『「アジアスケッチ」・目撃される文明・宗教・民族』(白馬社2001年5月25日発行1,500円+

 数年前、「電波少年」というTV番組があった。若者がアジアを貧乏旅行するのを、面白おかしくドキュメント風に放映する番組であった。 同じ時期に著者高山氏は自分の足と頭でアジアを放浪した。現地の人々との生活の根を共有したいと思いながら、そうできない自分を見つめて歩きました。高山氏は自分の歩いた痕跡を残し、将来に結びつけるためにこの本を書いたのです。同じ場所を歩いても、笑いで現実を逃避するような番組を作っている人、高山氏のように思索しながら歩いている人。若くてもこんな感性をもっている人が日本に居るという事実をこの本は物語っています。

高山氏が1999年3月から9月にかけて行った貧乏一人旅の記録がこの本です。高山氏は東南アジア、北京、西安、ラサ、バンコック、カルカッタ、カトマンズ、デリー、アルマディー、アシュガバット、マシュハド、テヘラン、バグダット、アンマン、イスタンブール、ベオグラード、プリシュティナ、ミュンヘン、ロンドンとアジアからヨーロッパ、シルクロードと歩いたのです。この本の内容はMSNジャーナル(マイクロソフトが運営しているインターネットサイト)にも同年4月から2000年5月まで掲載され大きな反響を得ています。高山氏はNet  Writerのはしりです。Real Timeで旅行記が読者に届けられ、Real Timeに読者の反応が返ってくる。この繰り返しで作成された本です。読者と共同作業しながら、書かれた本です。インターネットが無ければ、このような本の作り方は不可能でした。

 東南アジアには日本人がたくさんいます。 ビジネスマン、観光客が大部分です。でもこのような日本人は、けして現地での人々の本当の生活を知ろうとしないで帰ってくるのです。(私もこのようなビジネスマンのはしくれですが・・)。

高山氏が著書のなかで取り上げた内容は多岐にわたっています。ホスピス、 エイズ、宗教、人口爆発、等それぞれのテーマで議論したら、それだけで論文が書けます。この本はアジア(広義のアジア)の人々の生活、生き様を読者に感性で訴えています。読んで得た感性を、どうやって具現化するかは読者に任されています。

例えば、著書の中でインドにマザーテレサが設立した施設を「カルカッタの異世界」と一言で切り捨てています。インド人にとってマザーテレサが特別な存在ではない、単なる外国のShow Roomである。無いよりましだが、特別な存在ではない。インドが本当に必要なのは、このようなShow Roomか?

この問題提起は、NGOは誰のため? 文化が違う世界で何が正か? 自国文化の理解力の範囲で他国・他文化圏の人々を救うという行為が的はずれになる事を表しています。グローバリゼーションが正しいという論理を検証する手段として読む価値がある本です。

グローバリゼーションの裏方が技術の進歩です。高山氏は人類には3度の人口爆発があったと書いています。この人口爆発により、人類の文化に大きな変化「革命」がおきました。すなわち、

 1.10-100万年前の「技術革命」(言語、火、道具の発見)により、猿から人間になり、人類が始まる。同時に生産力の向上により人口増加が始まる。

2.1-2万年前の「農耕牧畜革命」により、農業が始まり定住と伴に食料の安定供給が始まり4大文明の発祥となる。

3.最近の「産業革命」、科学技術の急速な進歩は、化石燃料の使用による大規模エネルギーの獲得、社会制度の近代化、なにより高度の市場経済が発達し、大量消費文化をもたらした。この革命は完全な世界化を目指し現在も進行中である。

「産業革命」は人口を増大させながら、勝者と敗者を色分けして進行している。なぜなら「産業革命」は土地、環境からの収奪、もしくは他者からの搾取を前提として形成された場合がほとんどで、社会の人口収容力が増大したにしても、一方で環境の人口収容力を低下させており、他の社会の人口収容力を低下させているからである。

この高山氏の表現は、現在の地球・世界の現状を表しています。日本に居ると感じません。しかし、観光旅行ではなくビジネスとして現地の人との直接的なお付き合いが始まると日本で見えないものが見えてきます。

日本は日本だけで生きて行けない時代、環境にもかかわらず、それを意識していません。高山氏はこの本で日本は日本だけでは存在できない。アジアの日本化というよりも、日本のアジア化は避けられないと予見しています。産業が東南アジア、次いで中国にシフトしている現状は否定できない現実です。ここまで、日本の産業が海外シフトしてくると「国際化」「相互扶助」などという言葉は通用しなくなる。もっと単純化した言葉「アジアと共に生きる」となる。21世紀日本の姿はこの言葉に尽きるのではないだろうか。共栄のみならず、「共苦」「共楽」「共貧」「共闘」がKey Wardとなり、望む、望まざるにも関らず共生に繋がって行くことになる。

この本は、私が今まで中国・東南アジアで仕事してきて感じた事を、上手に 判り易い言葉と例で整理してくれた本です。日本の若い人がどんどん海外に出て共生を実行して欲しいと思いながら読みました。

同時に、小生毎月飛行機に乗って移動しておりますが、退職した老夫婦の団体ツアーで飛行機は満席になっており、飛行機の中に若い搭乗客が少ないのです。若者はハワイに行ってしまったのか? 一抹の不安を感じます。

以上

国際情報専攻4期生 長井寿満