「フリーエージェントとIT社会」


ダニエル・ピンク著、池村千秋翻訳、玄田有史解説『フリーエージェント社会の到来』(ダイヤモンド社2002年4月18日発行2,200円+

日本ではフリーエージェントと言えばプロ野球の世界で、8年経つと自分の好きな球団を選んで移籍出きる制度で、米国のプロ野球では当たり前の世界。それが今回、紹介の書籍、ダニエル・ピンクの「フリーエージェント社会の到来」(Free Agent Nation:ダイヤモンド社:2002418日発行、¥2,200)は既に米国では3,300万人(約25%)のビジネスマンがフリーエージェントで、仕事をしているとの事。ここで、“フリーエージェントの定義は「インターネットを使って、自宅にて一人で働き、組織の庇護を受ける事なく自分の知恵だけを頼りに、独立していると同時に社会とつながっているビジネスを築きあげた」人々の事で、大別するとフリーランス、臨時社員、ミニ企業家から構成される”としている。筆者もちょうど昨年、リタイアし、フリーな立場で、自分の専門を綾って外部の専門会社や関連分野で、ビジネスを開始しており、ちょうどこの本のタイトルそのもので動き始めている所で、非常に興味をそそる本である。特に朝の時間の制約から解放され、組織の支持も受けずに好きな仕事を自己の裁量で出きる点が特徴となる。その代わり、自己管理と外部との人脈が非常に重要性を持ってくる。この本では次の要点を述べている。

(1)   デジタルマルクス主義

@       個人と組織の関係の変化(ファミリーからチームへ)

A       テクノロジー(インターネット)

B       繁栄(中流層の生活水準が著しく高くなった事)

C       企業の構造と事業のあり方に劇的な変化が生じた(個人の寿命が長くなる)

(2)   環境の変化

@       労働形態の相違

組織図

繋がり方

関係の強さ

築かれ方

運営の仕方

機能

従来

タテ

強い絆

与えられた物

管理的

硬直的

フリーエージェント

ヨコ

弱い絆

自ら作り出す物

自主的

流動的

A       オフィスに代わる「第三の場所」

     コピー店 ・コーヒーショップ ・書店 ・エグゼクティブスイート 

     インターネット ・大型オフィス用品店 ・私書箱センター ・宅配便

B       フリーエージェント経済の従来との相違点

     力の所在が組織から個人に移った結果、資本ではなく人材が最も重要な資源

     仕事は個人の感情と無縁の退屈なものではなく、働く人の心に負担を強いる

  C 「自分サイズ」のライフスタイル

     自宅で出来るので、仕事と家庭をブレンド

     政府や企業に頼るのを止めて、もっと人間の性質と進化の過程に沿う働き方

D     フリーエージェントの問題点

・ 医療保険  ・ 税制  ・ 地域地区規制

E     労働組合

     新しい労働組合(技能・交渉力・最低賃金の保証等)

     個人代理人(エージェント)に依頼しての交渉による良い条件での契約

(3)   未来社会

@       リタイアからeリタイアへ

     世界寿命が伸び、生活水準も向上(米国も2040年には25%が65歳以上)

     高齢者は働き続ける事を望むようになった

     高齢者は自分の好きなように働きたいと思っている

     ベビーブーム世代が受け取る遺産はかなりの金額(総額10万ドル以上)

     高齢者間で、インターネットが急速に普及している(50歳以上の層の伸び)

A       テイラーメード主義の教育

     在宅教育(自由、自分らしさ、責任、自分なりの成功)と脱学校化

B       生活空間と仕事場の緩やかな融合

     プライベート・アイダホ(集中力を要する仕事の静かな個人用のスペース)

     フリーエージェントの山小屋(仲間が顔を合わせて協力し合う場)

C       個人が株式を発行

D       ジャストインタイム政治(フリーエージェントによる政治の変化)

項目

ニューディール

ニューエコノミー・ディール

社会保障等の中心軸

企業

個人

政府の役割

安定の保証

機会の保証

労働政策の目標

安定性

流動性

労働運動の目的

従業員の賃金と労働環境

市民の福祉と生涯学習

E       その他、税制の簡素化、福祉受給者の為のマイクロファイナンスの充実、臨時社員の権利章典の制定、個人失業勘定制度の創設等が要求される

以上が、その概要を端折ってまとめて見たが、なにせ約400ページの膨大な翻訳本。既にこの制度は米国ではフリージェントが25%を占めているとの事で(但し、臨時社員を除くと11%)、日本にもインターネットの普及率が50%を越し、その可能性が十分出てきた。筆者もその典型で、このタイプのビジネスマンが増加していけば、自づから上記に示したように組織に左右されない個人のビジネス及び家庭と一体となる為に社会体制や政治の分野でも大きく変わる事が予測出来る。その意味で、今回はIT社会がビジネスや政治・経済に及ぼす影響をテーマとしている課題の糸口として整理できた事に意義を感じると同時に政治も経済もうまくコンピュータシステムを作れば直ぐに日々の経済指標や負債額、政府の月ごとの支出収支が、国民レベルで検索出来るシステムとなり、今の世の中で政治家の人員削減や政治の効率化が図れる事を示唆しており、今後、掘り下げて取り組む予定である。

国際情報専攻4期生 堀内義章