「パパはなんでも知っている」・・

世界情勢知識の「点と線」


池上彰著『わからなくなった世界情勢の読み方』講談社2001年12月21日発行1,600円+

NHK総合テレビで毎週土曜日午後6時10分から32分間に亘り放送されている「週刊こどもニュース」は、大人が見ても実に役に立つ番組である。そこで取り上げる内容は一週間に起きた主な出来事で、こどもたちが興味を持ちそうな話題をとりあげる形をとっているが、この番組はだからと言って、いわゆるこどもに迎合する姿勢は微塵もない。ただ、こども達にも理解しやすいように、平易な言葉を用い、図表を多様するのが特徴である。著者の池上彰氏はこの番組のキャスターである。キャスターと言っても、そのスタイルは「ニュースステーション」(テレビ朝日系列 平日、原則として 22:00から放送)の久米宏氏や「ニュース23」(TBS系列 平日、原則として23:00から放送)の筑紫哲也氏のキャスター・スタイルとは大幅に異なる。彼が話しかける直接の相手は、視聴者ではなく彼の奥さんと子供たちである。もちろん、現実の奥さんと子供ではない。家庭内の父親が妻や子供達の持つ様々なニュースにまつわる疑問に答える形で番組は進行する。「パパはなんでも知っている」ので、これらの疑問・質問に回答してくれるのである。

本書の語り口、目線の高さはこの番組と同一のコンセプトの上に存在する。その語り口は平易で実に簡潔明瞭であり、他の類書でわかりづらい事項でも本書を読むと実に明確になる。例えば、昨年9月11日のテロに関連するが、“なぜ「タリバン」が生まれたのか?”という疑問への説明を例にあげる。 類書は「タリバンはもともとはアフガニスタンのソ連侵攻に備えてアメリカが援助して育てた集団である」と説明する。では、「そのタリバンの構成員はどういう経緯でタリバンに入ったのか」ということまで解説するものは少なく、またあっても、わかりづらい記事が多い。しかし、本書を読むと実に明確にこの回答が得られる。「このタリバンは、パキスタンの難民キャンプから生まれました。・・パキスタンは、この難民キャンプの子どもたちに目を付けました。難民キャンプのそばに、神学校を次々にたてて・・・多くが全寮制で、男子だけを対象にしていました。・・・多くは孤児たちでした。・・・「教える内容は・・極端なイスラム原理主義でした。こうして、家族の愛も知らず、女性のことも知らず、「神のために死を恐れずに戦え」と教え込まれた大量の若者たちが誕生したのです。」(249p) この解説により、タリバン構成員がアフガニスタン難民の孤児たちをパキスタンが意図的に組織したものであり、なぜにタリバン制圧下ではあそこまで女性が虐げられる現象が生じたかの理由までが理解出来る。また、この地域の抗争背景あるいは遠因が、遡るとベルリン崩壊前の冷戦構造にあることまでがキチンと指摘されている。これは一例だが、筆者はどの問題についても、徹底的にその根源にまで遡って解説する姿勢を貫いている。また、その解説を支えるだけの博識と経験が半端なものでないことが、本書を読めば読むほど感じられる。評者は、この本のおかげで、「点」として乱雑に保有していた知識と知識の間にかなりの「線」を引くことが出来た。自信を持ってお薦めする一書である。 また、前述の「週刊こどもニュース」もお薦めする。

国際情報専攻4期生 江口展之