院生交遊録
「お先に失礼 ― 身近なライバルへ ―」





国際情報専攻
三浦 悟

 院生交遊録はこれまで作家の星亮一さん、福島県議の望木昌彦さん、そして私の熟年三銃士について郡山市を舞台に書いてきました。

 今回は熟年三銃士よりも身近にいるライバルとの交遊録です。

 芸術学研究科音楽芸術を専攻している私の長女がその人です。

 総合社会情報研究科の入学案内を持ってきてくれたのはこの娘でした。

 そのころ彼女は大学院を目指して勉強をしていました。

 結局、2000年4月に一緒に大学院へ進むことになり、ふたりで臨んだ入学式では私を新入生と思う人はおらず、娘の入学式に同伴した父親でした。受付の人からのお祝いの言葉がそれを表していました。

 さて、ふたりの専攻はまったく違いますが、結構協力できることはあります。

 資料探し。インターネットでの情報検索。

 それぞれの知っている方法で助け合います。

 お互いのリポートや論文の素案を見せ合っては批評し、意見を言い合うこともあります。

 東京と郡山にそれぞれ住んでいたときには、メールでの情報交換が主でした。

 ゼミなどで上京したときには、食事しながら意見交換するのですが、つい自分のことを話しすぎて、彼女自身が聴いて欲しかった悩み事を聴かずに帰ってしまうこともたびたびでした。

 「お父さんはお酒を飲みながら言いたいことを言って帰ってしまった。」と妻が電話で愚痴を言われる番です。

 昨年夏、東京に転勤してきて娘と同居することになりました。

 お互いのやっていることが良く見えるようになりました。

 帰りが遅く、直ぐに寝てしまう父を見て「お父さん、リポートは大丈夫?」「論文、進んでいる?」と心配されたこともたびたびでした。

 晩秋のある日、一緒に行ったコンサートの感想を語り合いながら食卓を囲んでいると、「もう一年、残りたいのだけれど。」と突然の申し出です。

 「そうか。もう一年やるか。がんばりなさい。」と涼しい顔して言いながら、「おれも一緒に残るわけにはいかない。」と心でつぶやいていました。

 留年を決めた彼女は、それでも必要な単位だけは年度内に取りたいと、毎日、講義とレッスンに忙しく出かけていましたが、試験が終わって一段落のようです。

 机に向かったまま、論文がはかどらない父を激励しながら、いろいろ手伝ってくれました。

 お陰で、何とか論文を書き終えて私もほっとしているところです。

 親娘で一緒に入学し、一緒に修了する日を楽しみにしていましたが、今は「お先に!」という心境です。

 新年度は、ライバルの論文にゆっくり目を通してやりながら、ふたりで音楽談義でもしていることと思います。

 なにしろ実技の手伝いはできないので。