「言語療法室の小道具」





人間科学専攻
横山典子(言語聴覚士)

言語療法室をご覧になったことがあるでしょうか?恐らくご家族の付き添いなどで言語療法室に入ることがないかぎり、見る機会はないと思います。室内には患者さんとセラピストの座る椅子と机があります。この点は病院によってそれほど大差ありません。しかし、個室でしっかりと防音されている病院もあれば、私の勤務先のようにパーティションで囲いを作っただけという部屋もあります。この部屋では「検査中」と張り紙しても「先生、患者さんが待ってますよ」と壁を飛び越えて呼びかけられるなど、良く言えば日常的な環境で私は言語リハビリを行っています。前置きが長くなりましたが、こんな言語療法室で活躍している小道具をご紹介したいと思います。勤務先で対象としているのは失語症を初めとする脳卒中後のコミュニケーション障害の患者さんで、長く入院しています。失語症検査道具や絵カードなど典型的なものは割愛します。重度の方が長く滞在する当院だからこそ活躍するものといえば白紙、主にB5サイズのコピー用紙を使っています。まず患者さんが意志伝達目的に絵を描くのに使います。重い失語症のためにことばでのやりとりが困難になった方でも残存能力で描画が可能なことがあります。次に模写あるいはペン習字などに使います。これも残存能力の活用ですが、失語症のためにことばでの表現を制限されているので何とか自己表現できる機会を提供したい、それが患者さんによって模写であったり、ペン習字であったりします。内容は患者さんのレベルによりますが、図鑑を見ながら銀閣寺を描いた方がいたり(図)、漢字1つをゆっくり筆ペンで書く方もいます。自己表現の他に、作品によって達成感を味わうというのも目的の1つです。また、ことばの理解に障害がある方でも、漢字や数字の理解は良好な場合は訓練時間の変更を例えば「火曜日1000〜」と私が書いて確認することがあります。このため白紙は常備しています。

   図 銀閣寺(患者さんの作品)

患者さんによって、あるいはセラピストの成長によって意識する小道具は変わっていくと思います。来年の今ごろはあるいは10年後はどんな小道具を意識して仕事しているのか、楽しみです。