「手紙と電子メール
― 本大学院の事例から見た電子メールの書き方について―」
国際情報専攻 村上恒夫 |
はじめに
手紙を書かなくなって久しい。と言うより、私は手紙を書いたことがあるのだろうか。手紙の書き方を習ったのは遠い昔、小学校のころだと思う。確か「書き方」の時間、習字のテキストがお手本だった。点線でお手本をなぞって書くやつだ。
拝啓に始まり、季節の言葉が並ぶ挨拶。そして、敬具で終わる。子供心に、なんと仰々しい、普段の生活からかけ離れた世界があるものだなあと思った。
小学校の高学年になり、ラジオの深夜放送を聴き始めると、「リスナーからのお便り」が実に面白かった。私が大好きだったのが、「ナッチャコ・パック(野沢那智と白石冬美のパック・イン・ミュージック)」だった。リスナーが寄せる手紙は拝啓に始まり敬具で終わる、時には前略に始まり早々で終わる。堅苦しいく仰々しい手紙なるものが、華やかでユーモラスなものに変わるのだ。「手紙の型」をちゃんと抑えていながら実に楽しかった。書く方もかなり推敲し、考えていたのだろう。何回も読み直し、この手紙を読む相手を思い描いて、またはオンエアで放送された場合、リスナーの気持ちも理解して書いたに違いない。
その後深夜放送の性格も変わり、聴く機会もなくなった。当然、手紙なるものも年賀状のように、イラストチックな絵手紙以外書く機会も読む機会も無くなった。心にうったえるような表現より、直接視覚にうったえる表現が好まれた。電話が主流になっていった。
新しい手紙文化の誕生
ここ10年で世の中は一変した。電子メールの誕生で新しい手紙文化が生まれた。一日に数十件のメールを読む人も少なくないだろう。かく言う私もその中の一人である。紙に書いて封筒に入れ、切手を貼って出す手紙は出さないが、電子メールは頻繁に出すし、受け取る。大変便利になったが、それにつれてトラブルも枚挙に暇が無い。
先日の公開討論で「メールにおける即時性の問題」として、電子メールの問題点を取り上げた(村上恒夫 「メールの即時性について ―ただ早く着きすぎてしまっただけのことなんです―」『日本大学総合社会情報研究科電子マガジン第6号』(日本大学総合社会情報研究科、2001年)http://atlantic.gssc.nihon-u.ac.jp/~e-magazine/006/index.htm。即応性を求めると文章が短文化し、誤解を受けやすくなる。少し時間をおいて、読み直し、あたかも紙に書く手紙のごとく書かれた文章は誤解を受けにくい。勿論、無反応はこれらの問題以前である。
今一度、この大学院の事例からメールコミュニケーションを考えてみたい。
本大学院におけるメールの実際
・事例
村上@国際情報2期生
( )先生お元気でいらっしゃいますか。
楽しかったスクーリングも終わり、レポートをまとめる時期になりました。
課題の意味を理解しながら書いたつもりですが、論点がなかなか集約していきません。
だらだら書かないよう心がけているつもりなのですが、スッキリまとまりません。
とりあえず、レポートの草稿を送らせていただきます。
ご指導いただければ幸いです。
虫の声も聞こえてくる季節になったとはいえ、まだまだ残暑が厳しい日々が続きます。
お体ご自愛下さい。
*月*日 村上恒夫
1)
○ ○先生からの返事
確かに受け取りました。興味深い考えですね。しかし、現在、他のレポート指導も山積の状態です。なるべく早く論評しますので、もう少しお時間下さい。
とりあえず受け取りのご報告のみにて
* 月*日 ○○
2)
◇ ◇先生からの返事
受け取りました。
3)
××先生
最後まで音信不通
村上の考え
1)最高の受け取り確認でした。
・ 受け取っていただいたことがわかった。
・ 少しでも中身を読んでいただけた。
・ 先生の現状を推察できる。
・ 早く論評してくれると約束していただいた。
上記の4点が確認できて、不安が和らいだ。
2)確かに、確かにその通りなのです。しかし。。。。。。。
・ 受け取っていただいたことがわかった。
上記の点が確認できた。
しかし、読んでいただいたのか非常に不安であった。
論評がいつごろ来るのか不安で、その間無為に時間を過ごしてしまった。
3)××先生、ご無事でしょうか。心配です、私の単位も。。。。。
・ダメの一言、良いの一言も無し。
非常に対応に苦慮しました。
メールが届いていないのか、送り間違えたのか、私はどうしたら良いのだろうか。
想いは千路に乱れ、単位習得をあきらめた(最終的には単位習得していた)。
事例と公開討論会で学んだメールの使用方法と陥りやすい問題点
事例から学んで、会社のメールでも何か受け取った時には受領した旨直ぐ返事を書くことにした。○○先生の真似をしてみた。
この方法は発信者の心をかなり和らげる効果があるようだった。毎日のように五月蝿く確認が来るメールが激減した。自分なら、どのような返事を期待するかを常に意識して実践していけばかなりのトラブルは回避できるのではないだろうか。
また、公開討論会において司会者は以下のように結んでいる。
・メールを書く上での留意点
1. 軽い礼儀を持つ。親しさを考えなければならない。先程の例にあるように、相手との親しさやメールのやりとりの頻度によって、書く文体は変化する。
2. 語りかけるように書く。堅い文章では、相手との距離感を感じ、不快にさせてしまう場合がある。メールでは、ビジネス文書ほど堅くなく、話し言葉ほど、フランクではないことが重要である。
3. 自分の感情を文章化する。顔が見えないため、言葉が足りぬ文章では、相手を不快にさせることがある。自分の感情を言葉で付け加えるべきであろう。時と場合によっては、顔文字も有効である。
4. 相手を思いやる気持ちを持って書く。送り手は、非常に忙しい中、メールをくれたかもしれない。相手の状況を踏まえ、相手を思いやる文章を一言入れるべきである。
5. 要点を押さえ、簡潔に書く。長々と書いてしまっては、読む相手も疲れるので、要点を押さえて、簡潔に書くべきである。
(落合仁子 「誤解を受けないメールの書き方について」『日本大学総合社会情報研究科電子マガジン第6号』(日本大学総合社会情報研究科、2001年)http://atlantic.gssc.nihon-u.ac.jp/~e-magazine/006/index.htm。
私はこの上記の主張に加えて、陥りやすい問題点を挙げたい。相手に対する差別的な表現は十分注意するが、自分自身に対しては以外に無謀に差別的表現を使用してしまうことだ。差別的な言葉は相手に対して使用するだけでなく、自分自身に対しても使用してはなるまい。自分自身に向ける表現にも十分注意を払うべき必要がある。
おわりに
はじめに、あたかも手紙と電子メールは異なるかのように書き出した。しかし、それは大きな間違いである。実は手紙も電子メールも同じ性質をもっている。それゆえ、同じように扱うべき存在といえる。要は「心を込める」の一言につきる。ただ電子メールの場合、心を込める暇がない。あまりに便利なために、心を込めることが余計なプロセスのように思われがちだ。実は便利だからこそ、心を込めることが一番必要なのである。
公開討論においての参考文献(ほとんど落合さん、一部は村上)
1.坂本章『インターネットの心理学 −教育・臨床・組織における利用のために−』(学文社、2000年)\1900
2.西垣通『聖なるヴァーチャル・リアリティ 21世紀問題群ブックス23』(岩波書店、1998年)\1700
3.西垣通『マルチメディア』(岩波書店、2000年)\580
4.古瀬幸広、廣瀬克哉『インターネットが変える世界』(岩波書店、2000年)\660
5.西垣通、ジョナサンルイス『インターネットで日本語はどうなるか』(岩波書店、2001年)\2000
6.村井純『インターネット』(岩波書店、2000年)\660
7.村井純『インターネットU』(岩波書店、1998年)\640
8.柳沢賢一郎『コンピュータはそんなにエライのか』(洋泉社、2000年)\680
9.森谷正規『IT革命の虚妄』(文藝春秋、2001年)\660
10. 糸井重里『インターネット的』(PHP研究所、2001年)\660
11. 横江久美『Eポリティックス』(文藝春秋、2001年)\690
12. 井上史雄『日本語は生き残れるか』(PHP研究所、2001年)\660
ダニエル・ベル 『知識社会の衝撃』(TBSブリタニカ、1996年)\1942(国際メディア論 副教材)
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