「ITと学校教育 〜福島県立清陵情報高校で見たこと〜」





国際情報専攻
三浦 悟

福島県須賀川市にある商業・工業を専門とする福島県立清陵情報高等学校(http://www.seiryojoho-h.ed.jp/)で11月22日、全国の高校教員など約170名が参加した「情報教育研究発表会」があった。

これは文部省(現文部科学省)の研究開発校指定による平成10年度から3ヵ年の「高等学校における光ネットワーク活用のあり方についての研究」と平成11年度から3ヵ年の「専門教科『情報』の科目並びに情報教育のあり方についての研究」の取り組み成果を発表するものであった。

私は昨年3月に当校の研究事業の運営指導委員を委嘱された縁で、この日の発表会に参加する機会を得た。

大変興味深かったのは、28の公開授業であった。

http://www.seiryojoho-h.ed.jp/webt/topics/h131122koukai.htm

専門教科などでのコンピュータの活用だけでなく、普通教科を含む全般にわたってIT(情報技術)を活用した授業をやったことであった。

例えば国語でインターネットを補助的に使って短歌を学習したり、自分の作品をインターネットで投稿している。また教科によってはLANを活用して個々の生徒の作品をお互いに見ては検討し合うこともしている。

専門科目のひとつ商業「ビジネス基礎」では企業のホームページを検索し、企業の組織や形態を調べていたが、目的とするテーマを調べながら業種によって組織の作りや形態の違いに気づき、社会の仕組みの理解が深まって行く様子が見られた。

私は当日の分科会のひとつ「専門教科『情報』」で話しをしなければならなかったので、そこを重点的に見るはずだったが、むしろ普通の教科でどのようにインターネットを活用して生徒たちと先生のコミュニケーションが進んで行くのかに興味があって、他の教室を見て周った。

本来の役割のひとつであった「情報産業と社会」の授業を見た。

この日のテーマは「生徒である自分に割り当てられているアドレスを使ったメールを先生(ネットワーク管理者)が勝手に読んでいることについて、関連する情報をインターネットで調べて、自分の意見をまとめる」ものであった。

生徒たちはいくつかのキーワードを課題から読み取り、それを基にインターネットで検索して得た情報を参考にそれぞれ個性豊かな意見をまとめた。これをLAN上で発表しながら背景にある高度情報通信社会のモラルについての考えを先生が説明して行く。

情報化の進展とともにネット上で発生する他者への侵入や匿名性ゆえの誹謗・中傷などが大きな問題となっている。ここでは授業を通じて情報倫理を生徒たちに教えていた。それも課題の場面となった学校内に止まらず、企業や社会で起きている幅広い問題であることを生徒たちが理解できるように進んで行く。

この高校にも例えば特定の先生に対する誹謗がメールで送られる事例も発生している。発信元は低学年であったようだが、上級生が「このようなことに使うのは我々の情報環境を壊してしまうこと」とメールで諌め、収まってしまったと話していた。

あらゆる科目にインターネットを活用し、それらの授業を通じてIT使用のルールやモラルを自然に覚え込んで成長している様子が伺えた。

東京工業大学の赤堀先生による基調講演で「シャワーのように降ってくる情報から何が正しいかを生徒自身が主体的に判断できるように指導すること、個々人に役割を持たせてルールを自ら作っていくことで論理的に背景を見ぬける力を養うこと」が情報化社会でのモラルを育てることと話していたのが印象的であった。

分科会の参加者の質疑応答を聴いて、学校教育の場でのIT活用には格差があると感じた。初めてこの高校を訪問した昨年春にLANなどの設備が整っていたことに驚いたものの、定められた教科書があるわけでもないなかでこれらの設備を活用するために試行錯誤していた先生たちが、それぞれの知恵と努力で教材を開発し生徒とのコミュニケーションを高めながら大きな成果をあげていることが他に先駆けている。

授業を進めている様子をみて、情報化時代の先生は単に教えるのではなく教育の目的を意識しながら生徒とのコミュニケーションを図りつつ学習の場をプロデュースする役割を担っていると思った。