「第19回日本行動分析学会報告」





人間科学
専攻
作宮洋子


日本行動分析学会は平成13年8月23日(木)24日(金)の二日間福岡県北九州市にある西南女学院大学において開催され、日本大学からは人間科学専攻の河嶋先生、真邉先生をはじめ、両先生のゼミ受講生等多数の参加がありました。

また、平成14年度は日本行動分析学会が創設20周年を迎えることから、大会準備委員長は河嶋先生がその任にあたられ、日本大学生物資源科学部(湘南キャンパス)において、アジア諸国も交えて、平成14年8月22日から24日間の三日間開催されることが予定されています。

報告者は8月24日(金)に学会に参加し、口頭発表U、特別講演、シンポジウムBに出席して行動分析学の論点に触れることができ、今後さらに人間存在に関わる諸真理追求に向けての取り組みに励みたいとの感想を抱きました。一部ではありますが、学会の状況を簡単に下記に報告させていただきます。

1 口頭発表U

   口頭発表Uの座長は河嶋孝(日本大学)、山本淳一(筑波大学)先生が勤められました。  

(1)学校現場で発達障害児のリテラシー獲得を支援する:「等価関係」成立のためのコンピュータ支援指導【発表者:○山本淳一(筑波大学心身障害学系)・高浜浩二(明星大学人文学研究科)・清水裕文(日本学術振興会特別研究員)】

 発表者は見合わせ訓練と等価関係の評価の枠組みに基づくコンピュータ支援指導を心身障害児学級における教育場面に導入している。本研究では知的障害を有する4児に対して、絵を用いた同一見本合わせ課題、平仮名文字の恣意的見本合わせ課題、漢字の恣意的見本合わせ課題を用いて、絵、平仮名、漢字、平仮名の読みと漢字読みの音声刺激の等価関係を訓練した。その結果、2児は10字から23字の平仮名が読めるようになり、さらに2児は12字から20字の漢字が読めるようになった。今後は発達障害児の通常の学校教育のカリキュラムに、コンピュータ支援指導をどう組み入れるかを検討することが必要となる。

2)観察反応の形成による象徴見本会わせの指導【発表者:○清水裕文(日本学術振興会特別研究員・明星大学人文学研究科)】

1名の自閉的傾向のある発達障害児に対して、英単語を見本刺激とし絵を比較刺激とする象徴見本合わせ(恣意的見本合わせと同じ)を訓練した。単に正しい比較刺激を選ばせるという通常の方法に比べて、見本刺激も比較刺激も命名させる条件と、比較刺激が提示される位置をクリックさせる条件では、見合わせの成績が上昇するという結果が得られ、命名とクリックという観察反応を形成させることが有効であることが示された。
全ての刺激を観察することを要求する命名条件では、とりわけ正反応率が高くなった。

(3)閉鎖経済下における選択行動T:罰事態における反応対応と時間対応【発表者:○吉野敏彦(早稲田大学非常勤)】

二つの反応のどちらを選択するかという選択行動に関する数学的モデル(対応法則)の妥当性について、閉鎖経済下(訓練中にしか餌を与えられない)のもとで、二つの反応の指標である反応対応と時間対応の比較を行うことを目的とした。
開放経済下(訓練を行ったあとでも餌を与える)での実験経験のあるラット2匹を用いて、オープンフィールドに設置された二つのレバー押し反応は異なる強化率で餌で強化された。BASE期では強化のみを行い、TONE期では強化するとともに罰刺激としてときどき音を提示した。結果として、閉鎖経済下では、強化事態でも過小対応でなく、罰事態ではその反応配分をより強化率が高い選択肢に移行する、時間対応では大きな変動は示さずに反応数の配分を変化させることが示された。このことは、時間配分は、事態を通しての基礎的な選択過程となっているのではないかということを示唆するものである。

(4)セキセイインコの反応変動性の分化強化【発表者:○真邉一近(日本大学)・河嶋孝(日本大学)】

特定の反応を選択強化する分化強化は、@望ましい行動の行動の効率的な強化方法の確立、A比較心理学的な観点からの特定の種やその反応の分化強化の可能性の検討等が目的とされるが、今回は、セキセイインコを用いてさまざまな位置に反応するという反応変動性の分化強化が可能であるかどうかについての検討を試みた。実験歴がなく、自由摂取時の体重の90〜95%に統制された5羽のセキセイインコが用いられた。反応の変動性を分化強化する手続きとして、N―back手続きがとられた。訓練は、シェイピング→連続強化→1―back→2―backの順に実施され、強化基準は反応の位置が充分分化するまで徐々に増大された。結果として、連続強化では1カ所、1―backでは2カ所、2―backでは3カ所に分布が広がり、反応位置の分散がみられ、反応変動性の分化強化が可能であることが示唆された。

(5)行動分析は生活習慣改善に向けてどのように生かせるか【発表者:○尾関唯未(岐阜県北方町役場)・三浦まり子(ヘルスセクレタリーシステム)・河嶋孝(日本大学)】

脳出血患者の退院後の事後援助に行動分析がどう生かされるかを検討することを目的とした。指導にあたっては具体的な目標を設定して、目標を達成したら、ほめたり微笑んだり腕に触ったりして強化するよう努めた。指導内容は運動の実施、食事内容および摂取方法、などであった。生活記述ノートを作成させ、毎日の血圧、体重、食事の内容を記録させた。7ヶ月の指導ののち、血圧、体重、コレステロール値はいずれも正常範囲になった。自分の行動の結果を記録させ、望ましい行動に対して強化するという行動分析の方法は、ストレスなく生活習慣を改善させるために有効な方法だと思われる。

2 特別講演

(1)テーマ「スキナーの言語行動論にもとづいたコミュニケーションの指導:違いはどこにある?」

(2)講師 ジャネットS.トゥワイマン(ヘッドスプラウト フレッド S.ケラースクール)先生

(3)講演要旨

 発達に障害のある子どもたちに対して、スキナーの言語行動論を応用したコミュニケーション指導が行われるようになってきている。スキナーの言語行動論に基礎をおいた指導の特色は、言語行動をいくつかの機能的な単位に分類することや、指導する目的や内容が明確なことにある。

 言語行動を指導するときは、@聞き手行動、A話し手行動、B聞き手―話して行動、C自を聞き手とした話し手行動、D読みー書き行動等の5つの行動レパートリーに分類しての指導が望ましい。

 こどもの言語指導をコミュニケーションを通して行う場合には、子どもの行動に着眼し、言葉のもつ機能を重視することでどんな場面でどのように言葉が用いられるのかを指導することが重要である。また、行動随伴性に基づいて、何を指導するかという目標や目標達成のための実施の方法の明確化が必要である。

3 シンポジウムB(自主企画)

(1)テーマ:医療・リハビリテーションにおける応用行動分析学―事例から見えてくるものー

(2)司会者 山本淳一(筑波大学) 

                    話題提供者

山崎裕司(高知リハビリテーション学院)・ 長谷川輝美(聖マリアンナ医科大学病院)・ 鈴木 誠(聖マリアンナ医科大学病院)・刎田文記(障害者職業総合センター)・ 佐々木和義(兵庫教育大学)

指定討論者  鎌倉やよい(愛知県立看護大学)・ 浅野俊夫(愛知大学)

(3)討議内容の要旨

@医療やリハビリテーション活動においては、前年度第18回大会の「医療現場における応用行動分析学」で討議された結果を踏まえ、今回シンポジウムの内容としては、応用行動分析学の分野と関連づけての概念的枠組みの確認整理、基礎的技法の活用、応用的な展開の技法等についての検討が必要となっている。

A現代においては、脳外傷や脳血管疾患等の様々な原因による高次脳機能障害の社会復帰支援、職業生活指導等の問題がある。患者等の職業リハビリテーション・サービスにおいては、機能障害に対する評価、目標の設定、計画の実践、評価が実施されるが、職業指導にあたっては職場復帰支援プログラムと対象者のセルフマネージメントが組み合わされて実施されている。今後は、セルフマネージメント方法を機能させるため、地域でのあらゆる人的環境からなるサポート体制が必要となる。

B応用行動分析学的観点からの患者支援を行った事例に関しては、強化の行動随伴性の整備に関する実践活動からその成果が明らかになってきており、患者指導に関わる専門職としては応用行動分析学的手法を取り入れていくことの必要性が明らかになり、対応が必要である。

C医療場面としては、患者の急性期からのリハビリテーションへの配慮は当然のことながら、症状安定期、回復期のリハビリテーションは社会復帰に向けての通院、会話、日常生活動作の確保、職業において必要とされる技術的な動作の獲得等の全般的なリハビリが求められ、支援指導の専門職種と他の医療関係者との共通認識と連携体制整備とが必要である。