台北思いっきり気まま旅



人間科学専攻 山根尚子

著者紹介:

人間科学専攻、佐々木ゼミでいよいよ修論書き出し中です。去年選択した課目の 教材に、『自由からの逃走』がありました。今日読んだ本では、「男たちの私領 域=女への逃走経路には2パターンがあり、『家庭への逃走』は戦う家長(→家 庭での闘争へと展開もあり)、『家庭からの逃走』は色好みの男と名づける。」 とありました。目から鱗が落ちる日々です。私の場合、今後もちろん修論への逃 走です。この投稿はもちろん、修論からの・・・。

9時成田発の便に乗り込み、機上今日の台北でのスケジュールを練る。今日はホテル近辺を散策してみることにしよう。三時間のフライトの中、祝杯をあげ、機内食はほどほどに。これから始まる台湾おいしいもんとの戦闘態勢に入るのである。

酔いも醒めた頃飛行機は中正国際空港へ到着。通路にかかっている看板は銀行、携帯の広告ばかりである。台北市街への移動には地元のバスを探す。宿泊予定のホテルを経由するバスを探そうとするのだが、どのバス会社も「このバスで大丈夫だ。」といった類の返事をする。とりあえず自社バスに乗せてしまおう。台北駅で降りて、その後はまたどうにかしてくれよ、とお考えのようだ。台北では英語はほとんど通じない。まだ日本語のほうが通じる。そして何よりも書かれた文字こそが役に立つ。アジア圏の中で英語が通じないということに関し、台湾と日本はいい勝負のようである。

さて、どうにか目的のバスに乗ってホテルを目指す。車内を見渡すと中国系の人ばかり。目の前では、血色の悪いこわ面のオッサン6人ほどがトランプをしている。もちろんお金を賭けている。およそ海外旅行の帰りのように見えないから空港内で働いていてその帰りなのだろうか、台湾人の素の生活を少し覗いたような気がする。

ホテルに荷物を置き、いよいよ台北探検である。MRTに乗車する。二駅70円ほどの乗車賃。磁気式リサイクルの券を自動改札に通す。下車後、公園(地下は駐車場)、中正(蒋介石)紀念堂を通り抜ける。

目的の茶芸館(コーヒーショップのお茶版)を地図を頼りに探す。見つけた店の窓からは小さな公園が見え、お年寄りたちが何やら談笑している。何を話題にしているのだろう。子供のこと?孫のこと?台湾の青年達は兵役を逃れて留学するのが慣わしだとか、それで街では比較的若い男の子たちが少ないと聞いた。そんな孫の話でもしているのだろうか。想像を膨らませ、のんびりお茶とお菓子をいただく。飲杯(湯のみ)は日本酒の徳利ほどの小ささでお代わりの連続。おままごとをやっているようでもある。お茶は日本の緑茶の味もある。いいお茶は何回入れても風味が消えない。お菓子は和菓子に近いほどさっぱりしている。今風に甘さは抑えられている。あんこ、もち米が主な材料である。棗、ココナッツが使われているのはやはり中華菓子なんだろう。

次は小龍包で有名なお店だ。夕方の開店と程なくして入ったためか行列することもない。一階入り口で10人ほどの弟子達がせっせせっせと小龍包を作っている中を通り抜け、階上にあがる。そのお店は日本の高島屋にも進出しているお店である。お店の人たちはどこでどう判断するのかきっちり日本人には日本語のメニューをもってくる。小龍包、えび餃子、青菜炒め、スープ、・・・どれもおいしい。薄味なのにしっかり味がついている。

遠くに高いビルが見える。あれが台北のランドマーク、摩天展望台だ。それに向かうことにする。空港に降り立った時からはっきりしないことがあった。まさにもやもやとしたことが。今日は曇りなのか。晴れているようでもあるのに青空が見えない。街中を歩いてみると車、バイクの交通量はかなりである。バイクの人たちはマスクをつけている。スモッグが立ち込めているのだ。どんよりとした天空の中、日は沈み、展望台に着いた時あたりは暗くなり、学校、仕事帰りの人々で雑踏は膨れ上がっている。45階をあっという間にエレベーターが昇っていく。45階から見下ろす台北の幾筋もの道路はそのままオレンジのライトで浮かび上がっていた。

今夜の夕食は・・屋台で。士林夜市は台北駅からMRTで五つ目の駅のそば。夜市をどう説明すればよいのだろう。お祭りの夜店が毎日明け方までやっているとでも言うようなところ。ところが食べ物専門屋台群が見つからずぐるぐる回る。暗い中を歩いているとぽっかり突然それが現れた。活気のある屋台がひしめいている。鉄板焼きでは肉、魚貝類、野菜を中華調味料で味付けしている。テーブルが斜めになっており使い捨ての紙の皿は平面でたれはひたすら低いところへ向かって流れていく。生ぬるい台湾ビールを飲んで台湾に来ている、と実感。

二日目の朝は豆乳で始まった。現地の人々は揚げパンを入れたり、辛いたれやら醤油をいれながら食べている。散歩をしながら再度昨日の中正紀念堂を通り過ぎる。やっている、太極拳。胡弓を弾いている人もいる。そこを抜けると台湾のブライダルドレスのお店が何件も軒を連ねる。台湾の結婚予定の女性はみんなここに買いにくるのだろう。

次は故宮博物院である。昨夜の士林夜市の次の駅で降り、バスに乗る。世界四大博物館の一つである。明や清の時代の財宝がなぜ台湾にあるのか、それは台湾の歴史そのものであり、日本も関与している。北京故宮から戦渦をくぐりぬけ西へ、体制に翻弄され海を越え台湾に渡った財宝の数々を今この地で一堂に会す。さて、あまりにも有名な翡翠の白菜の彫り物は手のひらサイズの小さなもの。実物の白菜の大きさをイメージしていたものだからそのかわいさにニイハオ。葉先の翠が実に濃い。

新北投温泉に向かう。日本軍が掘り当てた温泉があるという。硫黄の匂いは外では感じられないものの湯温は高く、硫黄もきつい。台湾式温泉入浴法は温泉につかり、上がって体をさまし、またつかり・・・の繰り返しらしい。

台北中心地に戻って夕飯。海老のマヨネーズ炒め、椎茸と筍炒め(酢豚の一部のよう)、黄韮と豚肉炒め、高菜と湯葉炒め、冬瓜とハマグリのスープ・・・、白いご飯と台湾ビール。台湾温泉でもってそれまでの真夏のプールで泳いできた後のようなほてり、疲労、空腹感が静められていったのは言うまでもない。

今回の旅行では茶器の店にも行きたかった。台湾に行くからには本場の様々な茶器セットを見たかった。あるホテルの地下にある店はすぐそことばかり立ち寄ってみる。出してくれたお茶の茶器に一目惚れする。白磁できらきらしている。飲杯を傾けると目の中いっぱいにそのきらきらした模様が飛び込んでくる。唯一台湾旅行での買い物となった。

最終日。ホテルで朝食。別の茶芸館へ行ってみる。ここではひっきりなしに日本人観光客がやってくる。日本のポップスがかかっており興ざめである。

昼は胆仔麺(香菜、肉そぼろ入り麺)を求めて移動する。中華とタイ・ベトナムの味が混ざり合ったような、摩訶不思議なスープは癖となりそう。隣の卓では中年男女三人全員が二杯目を平らげている。恐るべし!台湾パワー。さあ、そろそろ帰りの飛行機の時間が気になりだして、私の食べ物、お茶三昧の旅も終わりである。